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2023年の音楽フェスのDX

年末のFM802 RADIO CRAZYが無事終わったので、昨年に続き今年の総まとめを。2023年は25を超えるフェスティバル・イベントでOEMフェスアプリパッケージサービス『FESPLI』を導入していただきました。(LP更新できてない…)今年はフードフェスやオープンキャンパス、イルミネーションイベントと音楽フェスだけでなく様々なタイプのイベントでの導入も拡大し、よりイベントアプリとしての可能性も広がりました。


1.あらゆるものを事前予約で

2023年は予約機能の利用が広がりました。クロークやラウンジ、ワークショップ、オフィシャルグッズなどイベント内のサービスはできる限り事前で受け付けるべきだと改めて感じました。

レディクレではクロークやVIPこたつ、子供向けの優先エリアの事前予約を実施

事前予約を行うメリット

1.予め需要が把握できる→利益やコストの最適化が図れる。
事前受付によって当日までにどれくらいの人がそのサービス利用するか予測ができます。想定よりも需要が多い場合は予めスペースや資材を増やしたり、スタッフを増やしたりと事前に対応ができるので当日バタバタすることが減ります。逆にニーズが少なかった場合はスタッフや発注を減らすなど、無駄なコストを削減することができます。

2.事前に決済が終わっている
アプリ内での事前決済により当日お金のやり取りの必要がなくなります。電波が悪いと電子決済に時間がかかったり、現金だと数字が合わなかったり、紛失や盗難のリスクを抱えます。事前決済に寄ってお客さん一人当たりの対応時間も少なくなり、現金の取り扱いのリスクもぐっと減らすことができます。

3.お客さんが安心してサービスを受けられる
事前予約ができないと当日の売切れを心配したり、朝早くから列に並んだりしてサービスを受ける必要があります。事前予約によってお客さんのストレスを減らすことは、会場内の雰囲気の醸成や安全性にも繋がります。

余談ですが、今年から年末年始の東海道新幹線のぞみが全席指定席(予約制)となりましたが、自由席を求めるホームや券売所の混乱もなくなり、利用者にはかなり好評のようです。不特定多数の人が動くものを事前予約制にすることは提供する側と利用する側に大きなメリットをもたらしてくれると改めて感じました。

2.VIPサービスはこれで良いのか?

フェスティバルを快適に過ごすために有料で提供されるVIPサービス。サマソニでは以前からプラチナチケットが売られており、今年からフジロックでも"フジロックプラス"が導入されました。私もフジロックプラスを実際に買って体験してみました。

VIPサービスの一例としてはこのようなものがあります。
・VIP専用シャトルバスが使える
・VIP専用ラウンジを利用できる
・専用トイレが使用できる
・専用エリアで快適にライブが見れる
・飲食店やグッズで優先レーンが利用できる

基本的にVIPチケットはこれらのサービスが全てもしくは複数を1日中使用できるものとなり、値段も高額。しかし、フェスとはどこまで行ってもライブを見ることがメインです。VIPサービスを利用するタイミングというのは限定的で、コスパとしてはめちゃくちゃ悪い。

なぜこんなにも高いのかというとVIPサービスは販売数を限定しているからです。たくさんの人にチケットを売ってしまったら、「VIPチケットを買ったのに混雑してて利用できない」ということにもなりかねません。これは大きなクレームに繋がります。しかしながら実際は先ほど限定的と書いた通り、ほとんどの時間帯がガラガラで余裕のある状態となっています。VIPユーザーの動きが予測できないがために、チケットの販売数と価格を設定せざるを得ないというところにVIPチケットの非効率性があります。

シャトルバスとフードの優先レーンとラウンジが使えるフジロックプラス。お値段1日20000円。
ガラガラのシャトルバスや専用ラウンジ。快適ではあるが…


これは1本の紙のリストバンドでVIPユーザーの管理をすることを辞めて、全てのサービスをバラして販売することで解決できます。何時、何人がこのVIPサービスを受けるか分からない、という点に課題があるのであれば、各サービス単位、利用時間単位でキャパシティを設定し、それぞれに対して値段設定を行い、事前予約を受ければ良いのです。アプリであれば細かく簡単な操作で予約、即座に利用チケットの発行できますし、技術的には顔写真を登録して顔認証だけでチケットの有無を確認できるようにすることも可能でしょう。

「ラウンジ利用に終日8,000円も払えないが、この2時間で4,000円なら使いたい」「VIPチケット20,000円は高いが、この時間のこの便のシャトルバスだけなら1本で5,000円でも払う価値がある」と言ったように、フェスを快適に過ごすためのサービスのニーズと金銭的価値というのはオーディエンスの数だけあるものだと思います。必要な人に必要なサービスを、必要なタイミングで納得できる価格で。これがフェスのVIPサービスのあるべき姿だと私は考えています。主催者は利用数にムラのあるVIPのサービスを無駄なく売れるし、オーディエンスは使いたいサービスがピンポイントで利用できる。こちらのほうがお互いに幸せです。もちろん高い値段を出してでもいつでも全てのサービスを享受したいというニーズがあるのであれば通しVIPとしてリストバンドを発行しても良いとは思いますが、その場合でも事前予約は必須にすべきかと思います。

SYNCHRONICITYでの取り組み

今年のSYNCHRONICITYのアプリではこの発想に近しい取り組みを行いました。ライブハウスの2F席を時間帯ごとの入れ替え制の座席販売にチャレンジしました。席を購入すると座席に座ってライブが快適に見れ、入場規制が起きた場合でも入場することできます。VIP的な有料サービスです。

予約、決済、パスの表示を公式アプリで完結

通常のやり方の場合、全ての時間で会場で2F席が利用できるVIPリストバンドを高額かつ数量限定で販売するということになりますが、多くの場合、特定のアーティストを目的に購入されるので、利用が分散し多くの時間で空席が目立つことにもなりかねません。

今回の取り組みでは結果として、多くのお客さんに2F席をご利用いただき、イベント的にも新しい収益を作ることができました。また当日も空席がある場合はアプリからさっと予約ができるので「ちょっと疲れてきたから座って見たい」「入場規制が心配だから押さえておこう」といった使い方も可能で、お客さんの当日の行動の選択肢を増やすことにも成功しました。

3.オフィシャルグッズ売切れ過ぎ問題 

今年はどのフェスでもオフィシャルグッズがよく売れていた印象です。嬉しい話ではありますが「売り逃しが目立った」とも言えます。お客さんは欲しかったグッズが買えず、主催者は販売機会を失う。なにより本来そのアイテムにどれくらいの需要があったか?という学びを失います。完売するよりもちょっと売れ残るくらいの方がフェスにとって得るものが多い。グッズの早期ソールドアウトとはお客さんにとてってはもちろんですが、主催者にとっても一概にハッピーな状況とは言えないと考えています。

公式アプリでオフィシャルグッズ売切れ情報を更新。グッズは軒並みSOLDOUT。

アプリからのオフィシャルグッズの事前予約を複数のフェスで導入していただきましたが、作ってないものは売れません。予約の話とも重複しますが作る前に注文を受け付けるこれを本来はやるべきことなのですが、やれているフェスはとても少ない印象です。そんな中、ROCK IN JAPAN FESTIVALを始めとするJフェスの取り組みは完璧のひとことだったので紹介します。

グッズの事前発送をなくし、本番の会場受取に全振り

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023 ホームページより

グッズの事前発送は受付期間、発送準備期間、配送期間と対応に時間と手間がかかります。その分早く受け付けて、発注して、早く納品してもらわなければいけません。その点Jフェスでは通信販売は事後のみとして、グッズの納品を本番にターゲットすることで、ギリギリまで発注数量を調整することができるようになります。「事前発送を行わないと当日の売り場が混雑する」という意見もありますが、「当日のマンパワー&モバイルオーダーで解決」と「事前発送の事務作業の手間とスケジューリング」を天秤にかけると後者のほうがコストパフォーマンスは悪いのではないかと思います。

事前予約早めの受付け、早めの締切

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023 ホームページより

本番の1ヶ月前から受付け、2週ほど間前には受付を締め切っています。おそらくこの2週間前がグッズの発注デッドと思われます。事前の予約の状況を見て、当日の販売もある程度予測が立てられるのでより適切な発注ができるようになります。RO社ともなれば過去のデータからかなり正確な当日の販売数の予測が立てらているのではないでしょうか。

当日の売上を最大化する当日モバイルオーダー

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023 ホームページより

Jフェスはさらに当日モバイルオーダーも実施しています。事前予約に間に合わなかったお客さん、グッズの大行列を見て購入を諦めるお客さん、そのような方々にも購入機会を提供することで、取りこぼしなくグッズを販売することができます。当日モバイルオーダーは「在庫の管理が大変になる」という話が良く出ますが、始めから在庫を分ければよいだけの話ではあります。

バッファとしての事後通販

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023 ホームページより

Jフェスは通信販売のお届けをイベント事後のみとしており、これもかなり合理的な対応です。例えば会場内で想定以上に売れたり、事前予約の方に間違えて商品を多く渡してしまったりしても、事後発送用に確保していた在庫で補填して、事後発送用はまた後から作ることもできます。もちろん会場内で売切れて買えなかったアイテムや、会場に来られないファンにも購入の機会を提供することができます。

このように計画的にグッズを販売することは、在庫リスクを減らし、売上を高めることに直結します。他のフェスもJフェスの取り組みから学べることは大きいと改めて感じています。

4.観覧エリア抽選の可能性

コロナ禍で生まれた、観覧エリアの前方入替え抽選。密を回避するだけでなく、長時間の前方エリアの場所取りや熱中症の対策としても有効という側面もあり、JフェスやJOIN ALIVEなどでは継続して導入しています。Jフェスのメッセージでは以下のように述べられております。

コロナ禍で密集を避けるために導入したこのシステムですが、積年の課題だった長時間の場所取りがなくなり、ステージ前方エリアの多幸感が格段に上がったと感じています。JAPAN JAM 2023の参加者アンケートでも、9割の方が前方エリアの継続を望んでくれています。

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023

フェスのタイプや出演者のラインナップにもよりますが、私も全体を通して前方エリアの入替え抽選を望むオーディエンスは相当数いるという実感を持っています。

サーキット型フェスで初めての入替え抽選導入

FM802 MINAMI WHEEL 2023(通称:ミナホ)で私が知る限り、初めてサーキット型フェスで前方エリアの入替え抽選を実施しました。
サーキット型フェスはライブハウスで行われるため、会場のキャパシティに対して、人気のあるアーティストが出演することが多々あり、入場規制が頻繁に発生します。ですので、目当てのアーティストを見逃さないために、早い時間から長時間滞在するオーディエンスもいます。そのため、一番人気のアーティストの前の時間に出演するアーティストでも入場規制が発生し、そのアーティストを目当てにしていた人も入ることができないという不幸もよく起こります。

今回ミナホではMrs.GREEN APPLE、スキマスイッチという桁違いの人気アーティストの出演を予定しているということもあり、BIGCATとSUNHALLという大きめの2会場でアプリでの入替え抽選制を実施しました。

Mrs.GREEN APPLEは当日に出演発表→抽選→当落発表を実施。
ビッグネームのサプライズ出演でも事故なく安全に運営が実施できた。

第一希望〜第三希望で希望度別にエントリーができるため熱量の高いファンは当選しやすいようになっているため、多くのオーディエンスに対して、本当に見たいアーティストは観覧が確約されているという状況を作り出せたことで、同じ場所に長時間滞在をする必要がなくなり、その時間で別のライブを見るなど、時間を有効に使えるようになりました。

待機場所を作ったり、動線を確保したりとスペースや構造に余裕がある会場でないと運用ができない、運営の負担も発生するというハードルはありますが、オーディエンスやアーティストのことを考えると、サーキット型のフェスこそ導入する価値が高いのではないかと感じました。

ファミリーエリアの事前抽選

FM802 RADIO CRAZYでは昨年に続き18歳以下とその同行者を対象にした「Kind AREA supported by 木下グループ」というキャパシティを制限したエリアを客席の一部に設け、アーティスト単位で入替える事前抽選を行いました。このエリアによって、お子様連れや初めてフェスに参加する中高生が安全な環境でライブを見ることができるようになるという素晴らしい取り組み。

各ステージの客席の一部にKind AREAを設置

当選すれば、ぎゅうぎゅうのエリアに小さな子どもを連れて入る必要もないですし、「入場規制で入れず、見れなかった」と泣きつかれることもなくなるので、親としても安心です。
実際に小学生の男の子2名を連れた私の姉家族もKind AREAをフル活用して快適にライブを楽しんでいました。フェス全体として、30〜50代の子供連れのオーディエンスが増えてきているため、彼らの負担や不安を減らす取り組みの必要性を強く感じています。

5.緊急事態はアプリが生命線に

今年のSAKAE SP-RINGは災難に見舞われました。直前の台風の影響で開催中止は免れたものの高速道路は通行止め、新幹線も運転見合わせ。2日間で300組ものアーティストが出演するイベントです。全国からアーティストも数多く出演を予定しており、30組以上のアーティストの出演に影響を与えました。

出演時間に間に合うか分からないアーティスト、遅れてなら到着できそうなアーティスト、どうにもならず出演をキャンセルするアーティスト…刻一刻と状況が変わり、主催者もお客さんも大混乱。(私も都内を朝に出て、栄に着いたのは夕方…)

そんな中で、アプリのタイムテーブルを最新の状況にリアルタイムで更新すし、お客さんにお知らせすることで、現場の混乱を最低限に留めることができました。これが、紙のタイムテーブルとSNSや公式サイトだけでの情報発信となっていたらゾッとしますね。緊急時はアプリの存在がイベントの生命線になることを再認識しました。


6.呼び出し式の整理券はフェスに不向き

混雑回避のため物販整理券など導入するフェスも増えてきましたが、整理番号順に呼び出すタイプの整理券はフェスに不向きだと感じました。

番号順に呼び出すタイプの整理券は整理券を持った人が入口の近くにずっといることを前提としている仕組みになっています。多くの人が同じ時間に同じような行動をすることが想定される、ワンマンライブなら有効に機能すると思いますが、フェスはお客さんの行動も予定もばらばらで、予定通りに会場に付くかも分からない、そんな中整理番号が呼び出される時間も分からない、現地にいても呼び出される時間にどれくらいの人が近くにいてどれくらい番号が進むかも分からない。ブラックボックスだらけの中での運用になります。

フェスの整理券は「時間指定」これが絶対だと感じました。お客さんの多くは事前に綿密なタイムスケジュールを立てて行動しています。予定通りに進まいないことは大きなストレスになります。
「並ぶ時間は5分だけどいつ呼び出されるか分からない」より「この時間に最大でも30分並べば確実に受付してもらえる。」の方がフェスティバルのお客さんには安心して利用してもらえると感じました。

JOIN ALIVEはアーティスト毎に30分単位で整理券を発行。


今年様々なフェスの現場を見て、全体的に感じたことは以上です。

今年はイベント専用電子コイン、スタンプラリー、クーポン発行、チケット販売、アーティストグッズの表示など個々の取り組みとしても新しいことを数多く実施しました。

フェスのDXは『フェスのコンテンツをオーディエンスに最大限に楽しんでもらうため』にある

と昨年書きましたが、その考えは変わらず。来年もよりフェスティバルやイベントの価値が高まる機能やサービスに加えて、主催者の課題をよりサポートできるサービスを提供していけたらと思っています。ご興味があればこちらまでお問い合わせ下さい


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