他界をするならこんなふうに【神クズ☆アイドル6巻感想】
この記事は神クズ☆アイドル6巻 ヤクモ編終了までのネタバレを含みます
(タイトルが他漫画のオマージュなの良くないなと思いますが、しっくりきてしまったのでこれで行かせてください!先生!俺まだ行けます!)
↑特装版の小冊子面白かったです。実録レポマンってなんでこんなに楽しいの?
ヤクモ編に登場した、黒いちごさんというオタクの他界の仕方が美しい、という話がしたい。
アイドルオタクと切っても切り離せない事象、それが「他界」「坦降り」=オタクを辞めることだ(この記事では他界に統一する)。推しが結婚したから、炎上したから、罪を犯したから、歳を取ったから、喧嘩したから、ファンサをもらえなくなったから、もっと推せる人が見つかったから。逆にオタク自身の生活環境の変化など……他界の理由はいつでもどこにでも転がっている。かくいう私も、今年の推しの誕生日に他界を一瞬考えた。理由は「推しとの描く夢の違い」、いや、もっと分かりやすくいうなら「方向性の違い」だ。(↓の日記は読まなくても大丈夫です)
まあ結局顔がカッコいいしライブは楽しいし推し以上の人間がまだ見つからないので(推せる黒髪太眉天然男性の情報を随時募集しております!)推し続けているわけだが、乱暴に括ってしまえば黒いちごさんの他界の理由も「方向性の違い」だろう。
黒いちごさんの「マンガみたいな格好の女の子になりたい」という、なかなか理解を得がたい趣味を肯定し、同じ「物語の世界」に10年以上一緒にいて守ってくれる騎士様。それが七瀬ヤクモだった。
そんなヤクモがアイドルとして生きていくために、次の挑戦をするために選んだ刑事ドラマ出演。物腰柔らかな騎士様は、不真面目な刑事を演じることになってしまう。ヤクモは演技初挑戦で、もしかしたら世間にバカにされて「物語の世界」はいとも簡単に壊されてしまうかもしれない。
黒いちごさんはヤクモを……いや、「物語の世界」を守りたくて、花束に「アイドル業に専念しろ」と脅迫状めいたメッセージカードを添え、プレゼントボックスに入れてしまう。おい!厄介オタクじゃねーか!と思うが、心あたりがありすぎて苦しくなった。推しに、もしくはオタク友達に八つ当たりをしたことのないオタクだけが黒いちごさんに石を投げなさい。私は投げられません。10年推してるとそういうこともあるよネ……♪
そして黒いちごさんの脅迫……願いは叶わずドラマが放映され、黒いちごさんは現実を突きつけられる。
こんな刺さるモノローグあるか?黒いちごさんが素晴らしいのは、ヤクモが変わろうとしている理由をきちんと察し、ヤクモが悪いのではないと結論付けられているところだ。犯罪とか推しが100で悪い他界の理由もあるが、方向性の違いについてはもう仕方ないというか……自分と推しは他人なのだから、違って当たり前なのだ。今まで同じ道でいられたことが奇跡のようなものだ。
そして黒いちごさんは、他界を選び、最後のファンレターを書く。
そして手紙がアップになっているコマを見るに、最後は「本当にありがとうございました」と締めている(した、の過去形のところが隠されているのがこれまた憎い演出だなとも感じた)。あなたのファンを辞めます、と直球では言わないものの、推しに他界を宣言しているも同然のファンレター。これは賛否あると思うが、古参で認知されており、ヤクモがファン想いのアイドルである以上何も言わずに他界するのは心配をかける可能性がある……し、黒いちごさん自身も踏ん切りがつかないだろう。何より、恨みつらみを書いていないだけで他界ファンレターとしては満点じゃないだろうか、まあ書いたら運営に弾かれちゃうだろうけど。
インターネットにいわゆる担降りブログを書いて踏ん切りをつけることもできるだろうが、推しの名前で検索に引っかかってしまえばこれから推しを好きになる人の芽を摘んでしまうかもしれないし、私のようなオタクの文章大好き人間に「このアイドルってそんな感じだったんだ」と思わせてしまうこともある。自分が他界した後のことは知らん!と言うならまあそれで良いのだが、立つ鳥跡を濁さずという気持ちがあるのなら最適解ではないだろう。
結果として、このファンレターを読んだおかげでヤクモは黒いちごさんの他界に気付き、覚悟を新たにすることができた。
そして何より美しいのが、この後の黒いちごさんのヤクモに対する態度だ。テレビに映る、普通の格好のヤクモにかけた言葉が
なのに痺れた。罵倒することも、無言でテレビを消すこともできたのに。黒いちごさんはヤクモの選択を否定せず、自分の人生を、自分の「物語の世界」を自身の手で守り、作っていく。ファンレターの件もそうだが、黒いちごさんは古参厄介オタクでありながらも根は誠実で理性的な大人だ。
私は先述した通りtwitterなりはてブなりnoteなりでオタクの文章を読むのが大好きなのだが、他界します!降ります!と宣言してからも長々と、何かある度に元推しをdisり続けるオタクは往々にして存在する。「他界した自分は正しいのだ」「今も推しているなんて馬鹿だな」と言わんばかりにネチネチと元推しに固執し、砂をかけ続けるのは、見ていて気持ちが良くないし、何より美しくない……と私は思っている。だから、黒いちごさんのこの他界の仕方に一種の憧れすら感じた。私は(このnoteに綴った日記ののように)全部をインターネットに書いてしまう人間なので難しいかもしれないが、他界するならこんな風でありたい。
神クズ☆アイドルのオタク描写は誇張もあるがどこか現実に根付いていて、とにかく読んでいて楽しい。それなのに、他界するオタクという暗くて描きにくいテーマですらここまで丁寧に、優しく、でもちゃんと現実的に描いてきた。本当に肘樹先生はすごいや!と改めて感心した。何様?
黒いちごさん、本当にありがとうございました。