それは「サプライチェーン」ではない

私たちの通信業界は「建設」分野を含んでいる、と言いますか私たちソフトウェア開発分野よりも建設要素の方がはるかに古くから通信業界の一部を構成しているので通信業界に「より古く伝統的な」建設業界的な慣習があるのは、考えてみれば当たり前なのかもしれません。
そのひとつが「取引口座」そして「多重請負構造」です。
企業間取り引き、とくに「大手」との取引をする際に求められるのが「口座」です。
サービスを提供したり、製造して納品したりと、むしろ「債務履行の信用を調査したい」のは供給側なのになぜか不思議なことに下請け側が口座開設・信用調査を求められる構造です。この慣習は少々歪(いびつ)で弊害が大きいような気がします。
もちろん元請け・調達側には是正の動機がないのでしかるべき監督官庁が行政力をこうしすべきだと思います。

運送業のいわゆる「2024年問題」にも多重請負(下請け)の話題が出てきます。一説によれば「実際に運送を担う業者」が受け取っている報酬は荷主が支払った額の5~6割だそうです。(実感ではIT業だともっと少ないように思います)
”その商流で長年運送を請け負っていても” 商流が短くなることはほとんどないでしょう。つまり「一つ飛ばして、上流の会社に口座を持つ」ことはほとんどできないだろうということです。ひとつ中を抜いて上流の会社と取り引きできるとなれば、下請けの企業は「中の企業が請けていた額と自社が請けていた額の”間”に価格設定する」でしょう。そうすれば中を抜いた上下ともメリットがあるように思われます。ですが、ちょっと考えたらわかりますが、このようなことは二度はできません。おそらくほかの商流から締め出されるでしょうし、件の「上流」の企業もエコシステムの中でブラックリスト入りでしょう。商流を短くする、というのは言うほど簡単なことではありません。

しかも、もともと「原発注者」から直接請けていた仕事について、最初は「特例的な措置」で直接取引していたものが安定的・継続的な取引になるとなったところで「口座のある中間業者の下に入ってくれ」と言われることすらあります。私たちも実際そう言われたことは何度もあります。この手法は誰が得をするのか、私にはいまだに理解できていません。

現在、コストプッシュ型の「悪いインフレ」下にあると言われています。
製品やサービスの「原価」は最末端の下請けが負担しています。中間は、極論すれば痛くも痒くもないのです。
政策はコストプッシュ型のインフレをデマンドプル型に捻りこもうと躍起になっていますが、この原価高騰の折にさらに人件費上昇を促進する政策なわけです。
多重請負構造の短縮・簡素化に向けた施策が求められるんじゃないかと思います。

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