【約1700文字小説】「覚醒には時を選べ」/#封印されし闇の力を解き放て
面白そう!と感じました。今まで書いたことのない分野ですが、参加させていただきます。よろしくお願い致します。
「制服第三中学から転校してきた、布津羽 乃人です。よろしくお願いします」
「乃人くんは、私服校は初めてだ。みんな仲良くするように」
ここは『私服乙軽中学校』。私服校の中でも乙中(私服乙軽中学の略)は個性的な人が多いと聞いていたけど、みんな私服の癖がすごい。
あの人はモビルスーツ?
こっちは全身リボン?
あの人……肉襦袢!
Tシャツにジーンズだけの僕が逆に浮いている。
「先生は用事があるから1時間目は自習とする。乃人くん、あの席に座ってくれ」
「は……はい」
新しい学校。緊張するなぁ。
でも、『あの席』って……どの席だ?
振り返ると先生はもういなくなっていた。
あ、空いている席がある。これかな?
その時、パーカーに黒いズボンを履いている一人の生徒が教室に入ってきた。
あ!普通の人だ!
と、ホッとしたのも束の間……。
「私の聖域に踏み込むとは何事か!」
え?僕を見て怒っている!
サンクチュアリ……?
「あ、待って!凱くん、この人は布津羽乃人くん。転校生なの」
魔女?が間に入って説明をしてくれた。
(ここは凱くんの席なの)
魔女さんは僕を振り返って小声で教えてくれた。
———自分の席が『聖域』なのか。
すると、凱くんと呼ばれた遅刻生徒は、無表情でため息をついた。
「転校生か。それなら仕方ない。今回は大目に見るが、次このような行為をしたら死神の裁きが下されると覚えておけ」
———死神の裁き?
思わず吹き出しそうになる僕を魔女さんが隠し、小声で忠告した。
(あの人の言葉を笑ったらダメだからね。ヤバいから)
真剣な顔で諭す魔女さん。
ふざけたようにしか見えないコスプレと表情がミスマッチ過ぎるが、真剣さは伝わってきた。
———ヤバいって、どうヤバいんだろう?
しかし確かめる勇気はない。僕はうなずいて真顔になった。
「この世界での私の名は菅地 凱。言わば夢人形だ」
———は?何を言っているんだ?
「夢人形?」
僕が聞き返すと、凱くんはフッと笑った。
「私は隣の世界から来た。パラレルワールドと言えば分かりやすいかな。だからこの世界の私は夢の存在。形だけの夢人形だ」
———え?
(凱くんは普通にこの世界の人だからね。ウチ、幼稚園も小学校も一緒だから)
魔女さんが小声で解説してくれた。
その時、凱くんの眉間に貼ってあるシールが光で反射した。
ふとそれに目線をやると、凱くんが反応した。
「これに興味があるのか?ほほぅ。凡人ではなさそうだな」
———いや、誰でも気づくわ!
「しかしこれを外すわけにはいかない。これを外したとき、どのようなことが起こるか私にも分からぬのだ」
———は?
「制御不能となればこの教室が……いや、世界がどうなるか分からない。崩壊が起こるかもしれぬ」
———何だ?この人?頭がおかしくなりそうだ。
思わず頭に手をやり、顔をしかめてしまった。
凱くんが僕を見た。
———あ!ヤベッ!気を悪くさせたかも。
だが意外にも凱くんは笑顔でうなずいた。それは僕に同情するようにも見えた。
「私もよくある。新しい精神が心の中から割って入るときがな。体が覚醒を望んでいる証拠だ」
———いやいやいやいや!
「しかし覚醒するにも場所を考えなければいけない。これをやろう。封印シールだ」
凱くんは自分の眉間に貼っているのと同じシールを僕にくれた。
僕が受け取った途端、凱くんの表情は友好的なものとなった。
「フフフ。どうやら君は私と同族らしいな。友情の証としてこれもやろう」
……安全ピン?
なぜに安全ピン?
「覚醒の時に使うといい。チャクラを解き放つのだ」
安全ピンでチャクラ?
ぷっ!
笑いが込み上げてきた。
ヤバい!笑ってしまう!
幸運にも、笑いそうになるタイミングで教室の扉が開いた。
凱くんの意識が扉の方に向く。
「予定変更!1時間目は体育にする!フライングエアゲートボールをするから校庭集合!」
やったー!
先生の言葉にみんなが沸き返った。
———フライングエアゲートボール……??
凱くんも嬉しそうに笑みを浮かべると、走って校庭に向かった。
あれ?床に何か光る物が……?
それは、凱くんの眉間に貼ってあった『封印シール』だった。
……それから何時間経っても世界は平穏なまま過ぎていった。
終
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