「世界と世界をつなぐもの」第10話 ③
ステージを見ながら、美羽が尋ねてきた。
「ねぇ青葉、本部の青葉は妨害してくると思う?」
「多分。でも私は青葉に体を乗っ取られる気はないから大丈夫だよ」
「でもさっきの阿佐部さんみたいにセンターの人を使ってくるかも」
「それは多分大丈夫」
「どうして?」
「青葉は阿佐部さんのことを相当怒っていると思う。美羽の小箱を奪おうとしたから。この世界に来させないかもよ。巻さんはデータ化されたし」
青葉は美羽を本当に大切にしているから。
美羽に何かしようとしたら絶対許さないはず。
「センチョーさんは?」
「センチョーは私たちに味方しているみたい」
「あ、さっきのサブリミナル効果のやつ?」
「それもだけど、花火の件も引き受けてくれたし、さっき阿佐部さんが持っていた装置も多分……」
「人を消す装置?」
「そう。装置をダミーとすり替えたか、データ化プログラム自体を壊したか。どっちにしても一緒にいる人しかできないと思わない?」
「そっか。センチョーさんしかできないね」
センチョーが味方してくれるのは嬉しい。
でも、本部に反することをして大丈夫なのだろうか。
「やるときは絶対にもう一人の私自身が阻止しにくる。でも邪魔はさせないよ」
もう心は決まっている。
「でも、青葉の体を強引に奪おうとしたら?」
「もしそうなったら、私にちょっと考えがあるから」
その時のことは何度も考えていた。
もしそうなったら、その時こそチャンスかもしれない。
ステージでは、曲のつなぎ目にボーカルの絢里がマイクを握った。
「ここで皆さんに紹介したい人たちがいます! 学祭の実行委員長、新田美羽さん! 副委員長の桜小路青葉さん! ステージの上へ!」
盛大な拍手と雄叫びが耳をつんざく。
———えええー!! ステージの上ぇぇぇ!?
逃げようとしたが、私は美羽によって捕獲された。
「青葉の考えそうなことはわかってるから」
愛らしいウィンクを残し、私を強引に引きずってステージに向かう。
ギャラリーは大爆笑だ。
———かえって目立ってる!
私は抵抗をやめて、素直に美羽とステージに上がることにした。
「この2人がいたからこそ、学祭は最高に盛り上がりました!皆さんからも盛大な拍手をお願いします!」
拍手喝采の嵐に少し涙が出そうになったが、ステージ上にいるという緊張感の方が勝って涙も沈んだ。
「美羽は『みんなが笑顔になって帰って行ける学祭にしたい』という思いで実行委員長になりました。皆さん、笑顔になれましたか?」
「なれたー!」
「ありがとー!」
言葉と共に拍手の嵐が巻き起こる。
ギャラリーの拍手、笑顔、楽しそうな雰囲気。
それを見ただけで、『ありがとう』の言葉だけで、胸がいっぱいになった。美羽もウルウルしている。
———良かったね、美羽。
「それでは委員長! ここで今の感想を一言でどうぞ!」
絢里の無茶ぶりに、美羽は即答した。
「『金網デスマッチ』じゃなくて良かったぁぁぁ!」
———目に涙を溜めながらの絶叫がこの言葉なの?
実行委員会のメンバーは大爆笑。
事情を知らないギャラリーはポカンとしていたが、事の顛末を教える実行委員が多数いて、理解した人からザワザワと笑いが起きていった。
絢里のマイクパフォーマンスは続く。
「ちなみに今回のテーマ『ゆらぎ』は副委員長の発案でした!」
おお~~、というどよめきと拍手の中、放送が流れ始めた。
『世の中はゆらぎに満ちています。世界情勢はいつもゆらいでいて、その煽あおりを受けているのはいつも社会的弱者……』
———!!!! これ、私のテーマ説明のスピーチ!! こんなのなんで録音してるの!?
史上最大級の赤面が襲いかかってきた。
絢里が私を見て笑顔で舌を出す。
———絢里のやつぅぅぅぅぅ!!!!!
そんな私の心情をよそに、ギャラリーからは拍手喝采と感嘆の声が起きていた。
「昨日、今日と皆さんが考えるたくさんの『ゆらぎ』を見せて頂きました。どれも本当に素晴らしかったです!」
学祭の成功を称える人たち、仲間を称え合う人たち、そして自分自身を称える人まで、ギャラリーはたくさんの賞賛の声に包まれた。
「それでは私たちのゆらぎを聞いてください! 『消えゆく記憶の中で』」
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