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「世界と世界をつなぐもの」第10話 ②
学祭もあとわずかの時間を残すのみとなった。
日も暮れかけて、模擬店もほぼ閉店し、ステージイベントもなくなり、少しずつ客の数も少なくなっていく……はずだった。
しかし今、学祭実行委員テントも他サークルの模擬店も明かりが消えていない。
まだ多くの人が会場に残っていて、誰も帰ろうとしない。
———なぜ?
「あれぇ? どうしたんだろ?」
美羽も不思議がっていた。
まだジュースなどを買う列ができている。各模擬店が出せるものをできる限り提供してお客さんに振舞っていた。
「ねぇねぇ、お店まだ閉めないの?」
美羽が聞いてみたら……
「水臭いですよ、委員長! 俺たちだって手伝いますから」
———え……?
「フランクフルト追加分ッス!」
シマエが追加購入してきた。まだ店を閉めるつもりはないようだ。
「みんなもう知ってるッスよ。この世界のこと。これから何をしようとしているかも知ってるッス」
———もしかしてみんなそのために……
みんなが食い止めていた。大学の生徒もお客さんも、1人でも多く残ってもらえるように。
それにしても昼間と変わらないくらいの客数に見える。いくらみんなが頑張っているとはいえ、この光景は異常だ。
「何となく花火までいなきゃいけない気がするから花火まで見て帰るか」
そんな声を何箇所かで聞いた気がする。
この奇怪な現象に首を捻っていたとき、絢里が駆け寄ってきた。
「ねぇ! 青葉! 美羽! フィナーレの花火を呼びかけるアナウンス聞いた?」
昼間から定期的に流れるように設定されたアナウンス。絢里の声のはずだけど。
「私の声なんだけど、これよく聞いてみて」
絢里が超スローで再生すると、アナウンスに紛れて、『最後まで居ろ』『花火に願いをかけろ』
などと、雑音のように入っていた。
「サブリミナル効果?」
潜在意識に働きかける効果があると言われているあれ? 美羽、よくすぐに思いついたな。
「それ! 誰かが音声を紛れ込ませていたの!」
この声どこかで聞き覚えが……。
録音現場にいたはずの絢里が知らないのに、こんなことをできる人なんて多分あの人しかいない。声といい、間違いない。
「センチョーだ!」
サブリミナル効果まで使ってみんなの足止めをしようとしていたなんて。
そのとき、スピーカーから大きなギターの音が響いた。
「さぁ!もうひとっぱしり行くよー!」
亜里沙の声。広い学内すべてに行き渡るような大声だ。
講堂前の『動的ゆらぎ』ステージから、ドラムの大音響が響く。
その音に導かれるように、客足が講堂前に向かった。
「今日は来てくれてありがとー! 私たちは学祭実行委員幹部で組織されたバンドユニット、フラッターズです! フィナーレの花火までの間、楽しんでもらえれば嬉しいでーーす!」
「いくよー、一曲目!聞いて下さい。『時間』」
生きているのが辛いとき
周りが何も見えなくて
自分のことしか見えなくて
自分の時間を止めたがる
そんなときは周りをよく見て
時間はいつでも動いてる
君が誰かとつながっているから
君を包んで動いてる
君が世界に必要だから
・
・
・
「絢里の声量ヤバッ!」
美羽は聞き惚れていた。
「作詞も絢里なの?」
絢里のスーパーマンぶりは留まるところを知らないな。もはやすごすぎてあきれる。
「作曲、ヨモギンだって! 曲作れるんだねぇ」
いつも細かい仕事を生きがいのようにこなしているヨモギン。その姿しか見ていなかったから、私も美羽もただ驚くばかりだった。
縦ノリしたくなる曲調にギャラリーも手を振り上げ、体を揺らし、ジャンプしての熱狂ぶり。
花火待ちの客がステージの方に続々と詰めかける。
ステージは続き、盛り上がりは最高潮に達していた。
『時間はいつでも動いてる。君が誰かとつながっているから』
なぜか私の心からそのフレーズが消えなかった。
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