「世界と世界をつなぐもの」第10話 ④
私は絢里に復讐を誓いながら、ステージを降りた。
その後もフラッターズのライブは大盛況。みんなノリに乗っていた。
「いよいよだね。美羽。桜小路さん……私も『青葉』って呼んでいい?」
「え……あ、いいけど……いよいよって?」
急に実行委員の誰か(確か船橋さんと中江さん)から声をかけられて、ちょっと飛び跳ねてしまった。
「ここにいる人はみんな知っているよ。今から何をしようとしているのか」
「え?」
美羽と顔を見合わせた。
「亜里沙から聞いたよ。私たちにも言ってくれなきゃ。 仲間じゃん!」
「派手にやらかそう! とっておきの願いを考えてきたから!」
「人も記憶も消すなんてありえない! 絶対つながりを切ろうね!」
船橋さんと中江さんが捲し立てていたとき、心の中に青葉が入ってきた。
『本当にやめな。ロストするよ。それでもいいの? みんな死んじゃうんだよ?』
———ロストって製作者側から見れなくなるだけのことだよね? データがいきなり消えるわけじゃない。そうだよね?
『そ……それは』
———それなら私たちには何の問題もないよね?
『でも、美羽は? お父さんやお母さんに会えなくなる』
———ご両親は美羽を応援しているよ。『思ったようにしなさい』って。『いつでも味方』だって。
『そんな……2人とも美羽を自分の子だと思っていないからそんなことを……」
———それは違う!……いや、そうかもしれない。でも『美羽が生きた証』だって、『美羽の結晶』だって、そう言ってたんだよ。『私たちの美羽』って。だから現実世界の美羽を託したんだよ!
『でもそれだったら……』
———子供と同じくらい大切に思っているからこそ美羽を信じているんだよ。一緒に人生を歩んできた美羽は天国に行ってしまったけど、その証が、その結晶が、どこかで元気に過ごしている。そう思うだけで元気になれる。前を向いて歩いて行ける。人間ってそういうものなんじゃない?
『……ホントに変わったね。もう陰キャな青葉じゃないみたい。あなたほど人と関わっていないから私にはそういう気持ちが分からないよ』
ステージでは絢里が呼びかけていた。
「今年の花火は、スターマインの直前に大きな青い花火が上がります。『青い花火に決意をしようプロジェクト』と題した企画をご覧いただけましたか?」
ギャラリーだけではない。校内一斉放送を利用して、大学内すべての人へメッセージが届くようにしていた。
「誰でも自分の嫌いな部分や変えたい部分を抱えて生きています。そんな自分を変えるために決意表明をするのです。心の中で願うだけでオッケー。青い花火が消えるまでずーっと願い続けてください! 叫びたい人は叫んでもいいですよー」
ギャラリーから笑いが起きる。
絢里の語りかけは、十分みんなの注意を引き付けていた。
「青い花火がきっと願いを叶えてくれます。自分の変えたいところを青い花火に願いましょう!」
ステージ後方からOKのサインが出た。
「それではお願いします! 花草祭グランドフィナーレ! 打ち上げ花火の開幕です!」
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