「世界と世界をつなぐもの」第10話 ⑤
花火が始まった。
小さい花火から上がり始める。
本当に大勢のギャラリーがいた。
お客さんを繋ぎ止めてくれたフラッターズのみんな、絢里、亜里沙、ペーパー、ヤッチー、ヨモギンのおかげ。
そしてセンチョーの……。
シマエのお父さんが打ち上げてくれている花火。
メイもどこかで見ていたらいいな。本当はこの場にいて欲しかったけど……。
———ねぇ、現実世界の美羽が見せた最初の笑顔を覚えてる?
『何を突然。覚えているに決まってる』
———どんな笑顔だった?
『見ているだけで心の中が温かくなるような……』
———多分私もその笑顔を見たよ。
『そんなはずはない。あなたと美羽はそっちの環境が整う前の記憶をすべて消している。私が植え付けた記憶しかないはず』
———違うよ。こっちの世界で見た笑顔だよ。あなたにも見せたいな。
『今からつながりを切ろうとしているくせに何を言っている』
———青葉、一つになろう。
『え? 何を……』
———一つになって、現実世界の美羽が作ってくれた青葉に戻ろう。できるでしょ?
『できるかどうかじゃない!そんなことをしたらつながりが……』
———つながりがなくなって何がいやなの?
『……だって……もう美羽に会えなくなるじゃん!』
———やっと本音を言ったね。こっちの世界で一つになろう。そうすればいつでも会える。
『私は世界を作らなきゃいけない。そういうわけにはいかない』
———こっちの世界で作ればいい。みんなと一緒に。同じ仮想空間。できないはずはないでしょ?
『みんなと一緒に……?』
絢里が隣に来た。
「とうとうこの時がきたね!」
ペーパー、ヤッチー、ヨモギン、亜里沙がステージの上にいる。
シマエ、凪くん、殿の姿も見える。
みんな本当にありがとう。
「ウチはおとなしい清楚女子を目指す!」
亜里沙がステージからマイクで大きく叫んだ。
「まだはえーよ!」ペーパーの声。
「青い花火が終わるまで願えばいいんでしょ? 早い者勝ちじゃん?」
亜里沙のその言葉にみんな同調し始めた。
「はっきり決めた! 作曲家を目指す! 絶対なってやる!」
これはヨモギンの声。
「ズケズケものを言うのをやめる! 人の気持ちを考える!」
ヤッチーの声だ。
「何でもかんでも首を突っ込まない!一つのことに集中する!」
隣で絢里が叫んだ。
それを皮切りに、集まっているギャラリーたちが叫び始めた。
「今まで人の陰口ばかり言っていたけど、もうやめた! 人のいいところを褒めるようにする!」
「ウジウジしてるのはウンザリ! 消極的な自分を絶対変える!」
「先延ばしするのはもうやめる!」
「毎日勉強します!」
「彼女作る!」
「今度こそ告る!」
「会社建てるぞ!」
叫ぶのは必須ではない。だが声に出して決意表明をする人がたくさんいた。
……そして空間がゆらぎ始めた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?