「世界と世界をつなぐもの」第10話 ⑥
感じた人たちが周りを見てザワザワし始めた。
それと同時にゆらぎが少しずつ少なくなっていく。
「何があっても願い続ける! その信念が願いを叶えるんだよ!」
亜里沙がマイクで叫んだ。
すると、ゆらぎは再び増していった。
背景と共にゆらゆら揺れながら光の尾が高く昇っていく。
そしてパッと光って大きく開いた。
夜空に咲いた青空だった。
雲一つない空のような、さわやかな青が一面が広がる。
その瞬間、ここに集まった人全員分の願いが一気に駆け昇った。その一つ一つがうねりとなり、空間にさらなる激しいゆらぎをもたらす。
『くっ……耐えきれない。このままじゃ本当にちぎれちゃう。みんなの願いでこんなにゆらぐなんて……』
———いいの? このままそっちに残っていたら、あなたは天涯孤独。もう美羽とも会えなくなるんだよ。
「あたしは現実世界の美羽と一緒になる。一人の美羽として!」
美羽は叫ぶと、自分の心に向かい合うように目を閉じた。
そのとき、ゆらぎは目を開けていたら耐えられないほどの大きさにまで拡大した。
『美羽まで……もう耐えられない』
———今から私が願いを言う。その通りにして。いい? 青葉。
『本気で言ってるの?』
———本気だよ。
『どうなっても知らないからね!』
青葉は上を向いて、遠くにいる誰かに話しかけるように大きな声を出した。
「分かれていた青葉と共に生きる! 一人の青葉として。センターの人たちと共に!」
『行くよ青葉! 私を受け入れなさい!』
———来い!!
青葉が私に入る。
今までは外から傍観する感覚になっていたが、今回は違う。自分の意志のままで異質な感情が首をもたげてくる。
———これが『青葉』の心……。
その瞬間、空間は引きちぎれた。
世界を埋め尽くしていたデータとイメージが急速に暗闇の中へと引きずり込まれていく。
———なぜ?
ただ他との関わりがなくなるだけなのに、なぜ世界が暗黒になっていくの?
『時間はいつでも動いてる。君が誰かとつながっているから』
つながりがなくなったこの世界は……。
時間が……止まる?
※
美羽は探していた。
『美羽の日記』を。
見当はついていた。
貼り付けられたような違和感のある記憶。
多分、青葉が私の記憶データの中に付け足してくれたんだよね。
大切な思い出だとわかったから。
現実世界の美羽にとって、最初で最後の家族旅行となった大切な思い出。
羊谷フラワーランドの記憶。
細部まで記憶を観察した。
お父さん、お母さん若いな。
あれがあたし?
ちっちゃい〜。我ながら可愛い~。
と、そのとき不思議な情景が混ざってきた。
「青葉これ受け取って」
「なに? この箱?」
「友情の証だよ」
「開けていいの?」
「今は開けられないよ」
「ええ~、いつ開けられるの?」
「あたしが青葉にさよならするとき……かな」
「何言ってんの? 美羽がいなくなったら私一人になるんだよ?」
「もしそうなったら……の話だよ」
「『もし』とか絶対ないし! もう知らない!」
青葉とあたしの会話だ。
でもこんなことあったっけ? 記憶にない。
『さよならする』……?
これは現実世界の美羽の記憶だ!
その記憶に心を寄せる。
すると現れた。
『Mihane Diary』
花柄の小箱を開けた。
そこにあったパスワードは……。
現実世界の美羽が残していった気持ちが痛いほど伝わってくる。
そうだよね。
ずっと一緒にいたかったよね……。
……ずっと変わらないよね。
「美羽、あたしがあなたを未来へ連れて行ってあげる!」
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