【500字エッセイ】「秘密基地の味」
子供の頃、夏休みになると家の長屋(倉庫)には必ず200ml瓶の三ツ矢サイダーがケースでストックされていた。お中元を持ってきたり、お盆に来たりするお客さんをもてなすためのものだったが、私はよく目を盗んで飲んでいた。
もちろん、冷蔵庫でキンキンに冷えたものが美味しいのは当然だ。その当時だって間違いなくその方が美味しいのは知っていた。
しかし当時の私にとって、隠れて飲む、ぬるい三ツ矢サイダーは別格だった。
秘密基地の味がした。
口に入れると鼻から喉にかけて膨れ上がる三ツ矢ならではの芳香。はじけながら通り過ぎる炭酸の刺激。お盆が終わる頃になるとケース内は空き瓶だけになっていて、私をガッカリさせたものだ。
大人になった今、炭酸飲料を飲む機会は子供の頃と比べて圧倒的に減った。しかしたまに飲めばあの頃の感覚が蘇る。
長屋で親の目を盗んで飲んだ三ツ矢サイダーの感覚が。秘密基地の中にいるようなドキドキ感、ワクワク感が。
最近知ったのだが、娘が一番好きなジュースが三ツ矢サイダーらしい。
色々なフレーバーが出ているが、一番好きなのは元々の、昔ながらの三ツ矢サイダーだそうだ。
血は争えないものだ。
ちなみに、ちゃんと冷えたものが好きらしい。
……まぁ当然だが、ちょっとガッカリした自分がいた。
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