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方向音痴疑惑

 10回や20回くらいしか行ったことがない場所に行くとき、ナビは必須である。
 その程度で知らない道を覚えられるわけがない。

 店に入って外に出ると、行きたい方向の逆に歩いていく。行きたい方向に一発で行けたら奇跡。

 それが私の当たり前だった。
 みんなもそんな感じだろう、と思っていた。

 しかしあるとき、疑念が生じた。

 『もしかして俺は……方向音痴なのか?』

 そう思い始めたのは、ある秋が深まった日のことだった。

 皆さんは、道が突如現れる現象をご存知だろうか。
 今までなかったはずの道が突然現れるのである。そして当然その逆もある。

 この現象のせいで私は、あと100〜200mで目的地に着くはずの場所から、30分以上かかって到着したことがあった。

 右に曲がると目的地があるはずの道が消えていた。
 ちなみにその場所は、それまでに何百回も通ったことのある場所だ。

 5回目のトライでその道は現れた。
 前4回のときには、まったく気にしていなかった所にその道はあった。

 この現象は、私の友人も『よく経験をする』と言っていた。
 方向音痴を自負する友人が。

 道に迷う話では、やけに話が合う友人だ。

 そのとき、かすかに脳裏をよぎった。

『もしかしたら自分は少しだけ方向音痴の気があるのかも』

 それからしばらく経った日のこと。
 友人の家に何人かで遊びに行ったときだ。

 買い出し当番を決めるじゃんけんをした。
 負けた人は、まっすぐに約20〜30mほど離れたコンビニへ行って、人数分のお菓子や飲み物を買って来る、というありがちなものだ。

 そういう時になると、じゃんけんが激弱になる私は見事に負け、一人で買い出しに行くことになった。

 自分は方向音痴かも?
という疑念が払拭できないでいた私は、帰り道を入念に確認。

「外へ出て左!」
と、つぶやきながら買い物をし、会計を終えて、出口を出て左に曲がった。

 しかしどういうわけか、いくら歩いても友達の家がない。

 何度も100mくらいの距離を往復した。

 でも見当たらない。

 さて困った。

 まずは気を落ち着けてよく考えよう。

 近くのベンチに座って、買ったおにぎりを食べながら考えた。

 しばらく思案した後、一つの仮説を立てた。

『あのコンビニに出口が2つあったとしたら』

 早速コンビニに戻る。

 仮説は正しかった。
 出口は間違いなく2つあった。

 自分の思いつきの素晴らしさに満足しながら、別の出口から出て左へ向かって歩く。

 するとそこには友人の一人がいた。
 迎えに来てくれたのかと思いきや、それどころではなかった。
「どこに行ってたんだよ! 探したぞ!」
 友人みんなで私を捜索していたのだ。

 私が友人宅を出てからすでに1時間以上経過していた。

 コンビニに行っても私の姿がない。
 『何かあったのではないか?』
と、手分けをして探していた、とのことだ。

 そういえば友人宅を見つけるのに必死で、時間は見ていなかった。

「もう少し遅かったら警察に届けるところだった」

 そう言われたとき、また疑念が蘇った。

 私は方向音痴なのだろうか?


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