![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/145494906/rectangle_large_type_2_9d062a55fa17878d333147bf2674f2a7.jpg?width=1200)
百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(九九、一〇〇)
百首到達 ٩(๑>∀<๑)۶🎉
おつかれさまでした!
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
九九.後鳥羽院(ごとばいん)
人もをし 人もうらめし あぢきなく
世を思ふゆゑに もの思ふ身は
(ひともをし ひともうらめし あじきなく
よをおもうゆえに ものおもうみは)
現代語訳
人は好き 人は嫌いさ 世の中を
いやだと思えば またもの思う
英訳
Though it is futile to ponder
the ways of the world,
I am lost in desolate musing---
I have loved some and hated others,
even hated the ones I love.
fu・tile / fjúːṭl(米国英語), fjtɑɪl(英国英語)/役に立たない、むだな、むなしい、くだらない、無能な
ponder / pάndɚ(米国英語), pˈɔndə(英国英語)/ 考えこむ
des・o・late / désələt(米国英語), ˈdesʌlʌt(英国英語)/荒れ果てた、住む人もない、寂しい、顧みられない、見る影もない、みじめな、(友も希望もなく)孤独な、わびしい
mús・ing / ˈmjuzɪŋ(米国英語), ˈmju:zɪŋ(英国英語)/思いにふける
hated / ˈhetʌd(米国英語), ˈheɪtʌd(英国英語)/hateの過去形、または過去分詞。(…を)憎む、 ひどく嫌う、 嫌悪する
解釈
承久の乱で隠岐に移された後鳥羽院の、そうした運命を歩もうとする日々の心が、「愛(を)し」「恨めし」というような直截な表現の中にもにじんでいる。
藤原定家は、この上皇に和歌の才能を評価されました。後鳥羽上皇は和歌の名手でもあり、鎌倉時代を代表する和歌集『新古今集』のプロデューサーです。しかし、後鳥羽上皇は捕えられ、「鎌倉方」の定家は権中納言になるほどの出世をしました。当然、後鳥羽上皇は定家を憎みます。定家もそれを知っています。定家は「しょうがないじゃん」と言える人ではありません。定家の胸に宿った「ジリジリするわだかまり」の正体は、後鳥羽上皇の憎悪の対象になった「自分」なのです。後鳥羽上皇の心理をわかればこそ、藤原定家はこの歌を選んだんでしょう。
感想
歌の名手が、こうしたジメっとした歌を取られちゃうのが残念。だけれど、歌が下手な人のジメっとした歌は見てられないかもしれない。ジメっとした歌でも耐えられるような言葉とリズムを獲得したい。
一〇〇.順徳院(じゅんとくいん)
ももしきや 古き軒端の しのぶにも
なほあまりある 昔なりけり
(ももしきや ふるきのきばの しのぶにも
なおあまりある むかしなりけり)
現代語訳
宮中の 古い軒端に 忍草(しのぶぐさ)
遠い昔は なおなお遠い
英訳
Memory ferns sprout in the eaves
of the old forsaken palace.
But however much I yearn for it,
I can never bring back
that glorious reign of old.
ferns / fɝnz(米国英語), fɜ:nz(英国英語)/fernの複数形。シダ
sprout / sprάʊt(米国英語)/芽、新芽、芽キャベツ、若者、青年
eaves /íːvz(米国英語), i:vz(英国英語)/《複数形》 (家の)軒,ひさし
for・sak・en / fɚséɪk(ə)n(米国英語), fɔːéɪk(ə)n(英国英語)/forsake の過去分詞 見捨てる、見放す、やめる、捨てる
yearn / jˈɚːn(米国英語), jˈəːn(英国英語)/(…を)あこがれる、慕う、(…を)慕わしく思う、懐かしく思う、切に(…し)たがる
reign / réɪn(米国英語), reɪn(英国英語)/(君主・帝王などの)君臨、統治、支配、勢力、治世、御代(みよ)
解釈
『百人一首』構想上、ここの「昔」は延喜・天暦の聖代かといわれている。順徳院のこの詠歎のかげにも、承久の乱の足音は近づいていた。巻末の父子二代の院の歌が悲歌の趣きをもつのも感慨深い。
百人一首の最後は、後鳥羽上皇の息子の順徳天皇です。お父さんの計画に巻き込まれて佐渡に流されますが、この歌にそんな事情は感じられません。百人一首の最後で、「終わってしまった王朝の世界」を、静かに偲んでいます。「古き軒端のしのぶ」は、檜皮葺(ひわだぶ)きの屋根の軒に顔を出した忍草(しのぶぐさ)と、「偲ぶ」をかけています。
天智天皇からはじまる百人一首は、王朝の時代の百人の和歌の名手の作品を並べるものですが、それはそのまま「王朝文化の歴史」でもあり、また同時に「人生そのもの」を感じさせるものでもあります。
感想
見る影もないような状況に、昔を想う。想像の世界、架空の世界。目の前には現実がないVRの世界。取り戻せないという切実な事実を二句三句「古き軒端の しのぶにも」で表現して、当時とのギャップを想像させる。想像の力強い。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。