見出し画像

百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(九九、一〇〇)

百首到達 ٩(๑>∀<๑)۶🎉

おつかれさまでした!


普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

九九.後鳥羽院(ごとばいん)

人もをし 人もうらめし あぢきなく
世を思ふゆゑに もの思ふ身は

(ひともをし ひともうらめし あじきなく
 よをおもうゆえに ものおもうみは)

現代語訳

人は好き 人は嫌いさ 世の中を
いやだと思えば またもの思う

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Though it is futile to ponder 
the ways of the world, 
I am lost in desolate musing---
I have loved some and hated others, 
even hated the ones I love.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

fu・tile / fjúːṭl(米国英語), fjtɑɪl(英国英語)/役に立たない、むだな、むなしい、くだらない、無能な
ponder / pάndɚ(米国英語), pˈɔndə(英国英語)/ 考えこむ
des・o・late / désələt(米国英語), ˈdesʌlʌt(英国英語)/荒れ果てた、住む人もない、寂しい、顧みられない、見る影もない、みじめな、(友も希望もなく)孤独な、わびしい
mús・ing / ˈmjuzɪŋ(米国英語), ˈmju:zɪŋ(英国英語)/思いにふける
hated / ˈhetʌd(米国英語), ˈheɪtʌd(英国英語)/hateの過去形、または過去分詞。(…を)憎む、 ひどく嫌う、 嫌悪する

解釈

 承久の乱で隠岐に移された後鳥羽院の、そうした運命を歩もうとする日々の心が、「愛(を)し」「恨めし」というような直截な表現の中にもにじんでいる。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 藤原定家は、この上皇に和歌の才能を評価されました。後鳥羽上皇は和歌の名手でもあり、鎌倉時代を代表する和歌集『新古今集』のプロデューサーです。しかし、後鳥羽上皇は捕えられ、「鎌倉方」の定家は権中納言になるほどの出世をしました。当然、後鳥羽上皇は定家を憎みます。定家もそれを知っています。定家は「しょうがないじゃん」と言える人ではありません。定家の胸に宿った「ジリジリするわだかまり」の正体は、後鳥羽上皇の憎悪の対象になった「自分」なのです。後鳥羽上皇の心理をわかればこそ、藤原定家はこの歌を選んだんでしょう。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

歌の名手が、こうしたジメっとした歌を取られちゃうのが残念。だけれど、歌が下手な人のジメっとした歌は見てられないかもしれない。ジメっとした歌でも耐えられるような言葉とリズムを獲得したい。

一〇〇.順徳院(じゅんとくいん)

ももしきや 古き軒端の しのぶにも
なほあまりある 昔なりけり

(ももしきや ふるきのきばの しのぶにも
 なおあまりある むかしなりけり)

現代語訳

宮中の 古い軒端に 忍草(しのぶぐさ)
遠い昔は なおなお遠い

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Memory ferns sprout in the eaves 
of the old forsaken palace. 
But however much I yearn for it, 
I can never bring back 
that glorious reign of old.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

ferns / fɝnz(米国英語), fɜ:nz(英国英語)/fernの複数形。シダ
sprout / sprάʊt(米国英語)/芽、新芽、芽キャベツ、若者、青年
eaves /íːvz(米国英語), i:vz(英国英語)/《複数形》 (家の)軒,ひさし
for・sak・en / fɚséɪk(ə)n(米国英語), fɔːéɪk(ə)n(英国英語)/forsake の過去分詞 見捨てる、見放す、やめる、捨てる
yearn / jˈɚːn(米国英語), jˈəːn(英国英語)/(…を)あこがれる、慕う、(…を)慕わしく思う、懐かしく思う、切に(…し)たがる
reign / réɪn(米国英語), reɪn(英国英語)/(君主・帝王などの)君臨、統治、支配、勢力、治世、御代(みよ)

解釈

 『百人一首』構想上、ここの「昔」は延喜・天暦の聖代かといわれている。順徳院のこの詠歎のかげにも、承久の乱の足音は近づいていた。巻末の父子二代の院の歌が悲歌の趣きをもつのも感慨深い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 百人一首の最後は、後鳥羽上皇の息子の順徳天皇です。お父さんの計画に巻き込まれて佐渡に流されますが、この歌にそんな事情は感じられません。百人一首の最後で、「終わってしまった王朝の世界」を、静かに偲んでいます。「古き軒端のしのぶ」は、檜皮葺(ひわだぶ)きの屋根の軒に顔を出した忍草(しのぶぐさ)と、「偲ぶ」をかけています。
 天智天皇からはじまる百人一首は、王朝の時代の百人の和歌の名手の作品を並べるものですが、それはそのまま「王朝文化の歴史」でもあり、また同時に「人生そのもの」を感じさせるものでもあります。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

見る影もないような状況に、昔を想う。想像の世界、架空の世界。目の前には現実がないVRの世界。取り戻せないという切実な事実を二句三句「古き軒端の しのぶにも」で表現して、当時とのギャップを想像させる。想像の力強い。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。