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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(二一、二二)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に入ってきたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌時のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

noteで書くことに困った時にまとめる予定だったが、最近は週一回、必ずまとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首、取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら、意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて見る作業は、短歌の連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

二一.素性法師(そせいほうし)

いま来むと いひしばかりに 長月の
有明の月を 待ち出でつるかな

(いまこんと いいしばかりに ながつきの
 ありあけのつきを まちいでつるかな)

現代語訳

「今行く」と 言われたおかげで 九月(ながつき)の
有明の月を 待ちぼうけかな

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

As you said, "I'm coming right away,"
I waited for you
through the long autumn night,
but only the moon greeted me
at the cold light of dawn.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

dawn/dˈɔːn(米国英語), dɔːn(英国英語)/夜明け、あけぼの、暁、始まり、兆し

解釈

 素性法師は僧正遍照の子、定家は余情妖艶の体を詠む歌僧として高く評価していた。この歌は女の立場からうたったものであるため、実際に動く情よりも、もう少し余裕のある恋の主題への感興が動いている。結果的に待つ人は来ず、有明月がいかにも待たれ顔に上って来たところがおもしろみだが、新古今時代には「月頃待つうち、秋も暮れ、月さえおそい有明月になった」という、長い長い待つ恋に余情をよみとっていたようである。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

「九月のある夜の出来事」ではなくて、「ずーっと待ち続けて九月になって、それでもまだ夜明けの月を見ている」です。「長月」は九月のことですが、でも「長月の有明の月」と続けられると、「有明の月が出るまで長かった」という感じがしてしまいますから、そんな解釈もアリになるんです。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

モノや動物の気持ちで詠むということはあるけど、そうか、女性として詠むということを試したことがなかったかもしれない。「長い長い」という待つ時間の表現がいろいろあるね。そういえば、「待つ」苦しみ、つらさを、歌にしたことがなかったかもしれない。LINEを待つ、もどかしさを女性として、詠んでみようかな。

二二.文屋康秀(ふんやのやすひで)

吹くからに 秋の草木の しをるれば
むべ山風を あらしといふらむ

(ふくからに あきのくさきの しおるれば
 むべやまかぜを あらしというらん)

現代語訳

吹きだすと 秋の草木が 枯れるから
その山風を 嵐と言うのか

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

In autumn the wind has only to blow
for leaves and grasses to perish.
That must be why the characters
"mountain" and "wind"
together mean "gale.".

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

grasses/ˈgræsʌz(米国英語)/grassの三人称単数現在。grassの複数形。(家畜が食べるような葉の細い)草、 牧草
per・ish/pérɪʃ(米国英語), ˈperɪʃ(英国英語)/(突然または非業な死に方で)死ぬ、枯れる、腐る、腐敗する、滅びる、消滅する、品質が低下する

解釈

 さまざまな歌があっていい。多様であっていい。この歌をよむとつまらぬことを力んでうたっているところに、ふと心ひかれる。「むべ山風を」などという改まった言い方もおもしろいし、内容に比して、各段に格調が高い。もっともこうした字解きの興味は、時代的には興ぜられていたのであろう。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

「坊さんが女の立場で詠んだ恋の歌」という、大昔の演歌やムードコーラスみたいな和歌とペアになるのは、「ウンチク遊びの歌」です。「秋も終わり近くになると、草や木が枯れてくる。それは、吹く山の風のせいだ。なるほど、”山” と ”風” で ”嵐” の字になる。嵐は草木も荒らすんだなァ」です。
「だからなに?」と言いたいようなもんですが、これはそういう「言葉遊びの歌」なんです。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

言葉遊びであっても、そこにある情景が見えて、流れがあると、それらしくできるというのね。馬場先生が格調高いなんて言っちゃうような歌にはできないけど、短歌で言葉遊び、してみようかな。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。