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百人一首復習ノート・おかわり(一、二)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。そうはいっても、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することは、短歌に向き合うためには必要なことかもしれない。

教養としてではなく、あくまで自分の作歌のタネとして、作歌のテクニックという実利を期待して、「百人一首復習ノート」として、百人一首の歌の意味と解釈に触れた。

今度は、二周目として、和歌の後ろに広がる世界、短歌の持つイメージ、詩作の楽しみに触れてみようかと思っている。

一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首がペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形で触れるようにしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

百人一首復習ノート(一、二)

一.天智天皇

秋の田のかりほの庵の苫をあらみ
わが衣手は露にぬれつつ

(あきのたのかりほのいおのとまをあらみ
 わがころもではつゆにぬれつつ)

現代語詠み直し

秋の田の稲刈り小屋はさびしくて私の袖もこんなに濡れて

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

いま、わたしの頭上を夜が越えていく、
実りをはじめた稲をまもるため、
田んぼのそばに立てた仮小屋でわたしは毎夜、朝をまつ。
屋根も粗く編んだものだから、ぽたぽたと露が、
やむこともなくおちつづけ、
夜が染み込む、わたしのそばに、息づいている、
ぴたりぴたり、袖は常に、夜の気配に濡れている。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

・本当は天智天皇が詠んだ歌ではないかも?
・万葉集によく似た詠み人知らずの歌あり
 「秋田刈る借廬(かりほ)を作り
  わが居れば
  衣手寒く露ぞ置きにける」
・次第に調子が整い(改変され)成熟して調べは流麗に。
・万葉集から平安の 時代への移りかわりをよく表している詠歌。

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

小屋から落ちる露に濡れるところ、特に詩情を感じさせるところらしい。みすぼらしい小屋と自分の心情のさみしさが一致する。

二.持統天皇

春すぎて夏来にけらし白妙の
衣ほすてふ天のかぐ山

(はるすぎてなつきにけらししろたへの
 ころもほすちょうあまのかぐやま)

現代語詠み直し

春は去り夏到来ね純白の衣を干すよ天の香具山

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

時の流れというものを私は見たことがないのだけれど、
川の流れのように光を反射させながら、透明のなにかが
今も目のまえで立ち去っていうように思う。きらめく、
光の粒を季節として、人はつかまえ、大切にした。

いつのまにか、あそこに見える香具山に、すべてを吸い
尽くしそうな、呼吸の音さえ聞こえそうな、まみどりの
山肌に、白い布が干されていました。しゃん、しゃん、
しゃん、と誰かの手のひらが、掲げられては下げられて、
指先から雫がとびちっている、そんな気配を感じていた。
夏が、来ていたんですね。空の青が、行きかえる季節、
緑や白の階段をおりて、地上の影すら溶かす季節だ。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

・万葉集では
 「春すぎて夏来たるらし白妙の
  衣乾したり 天の香具山」

・衣乾したり(断定)→衣乾すてふ(衣を乾すという)表現がやわらかくなっている
・夏来たるらし(夏が来たらしい)→夏来にけらし(夏が来たのであろうか どうもそうらしい)
⇒春霞がただようように全体の調子をやわらげる効果
・「春」は陰暦で1・2・3月 「夏」は4・5・6月のこと
・「白妙の」は「衣、袖、袂、雪、雲」など白いものにかかる枕詞
・白しか詠まれてないが明らかにこの歌の目前には早い春の青と緑が見える
・”天の香具山”は大和三山(香具山・畝傍(うねび)山・耳成(みみなし)山)のひとつで、天から降ってきた山と言われる(眼前に雄大に広がる様が感じられる)

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

香具山は、一度、奈良で見ました。

「白い」衣を「干す」、そして、それにより夏の到来をはっきりと感じるところに詩情があるんですね。はためく白い布が目に浮かびます。

※引用図書の紹介

歌人・東直子さんが、現代の短歌として、百人一首を詠み直したもの。

次は、詩人・最果タヒさんが、百人一首を詩として作り直したもの。

競技かるたのマンガ『ちはやふる』の作者・末次由紀さんが、マンガを描くにあたり、取材したメモを再構成したもの。東直子さん、最果タヒさんが詩情を感じたところが、どういった背景や人物像に立脚したものかを確認するために使おうと思う。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。