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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(五一、五二)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
五一.藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)
かくとだに えやは伊吹の さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思ひを
(かくとだに えやわいぶきの さしもぐさ
さしもしらじな もゆるおもいを)
現代語訳
こうとさえ 言えない伊吹の さしも草
そうとも知らない 燃える思いを
英訳
Because my feelings
are too great to put into words,
my heart blazes like the moxa
of Mount Ibuki,
with a love you cannot know.
blaze / bléɪz(米国英語), bleɪz(英国英語)/(激しい)炎、火炎、火事、火災、閃光(せんこう)、強い輝き、燃えるような色彩、(名声などの)発揚、連発、かっと燃え立つこと
mox・a / mάksə(米国英語), mˈɔksə(英国英語)/(灸(きゆう)に用いる)もぐさ
解釈
「さしも草」は、お灸に使う「もぐさ」です。その産地として有名だったのが伊吹ーー伊吹山で、これは琵琶湖の東にある伊吹山ではなくて、関東にある山だそうです。それでなにかというと、もぐさは火をつけるものだから、「燃ゆる思ひ」で、伊吹山は「こうとさえ言えない」の「言ふ」、さしも草の「さしも」は「そうだとも」につながって、「燃ゆる思ひ」の「ひ」は「火」でもあるという掛詞です。「かくとだに えやは伊吹の」は、「こうとさえ言えない、伊吹の」です。
「あなたは私の熱烈な気持ちを知らない」というプロポーズなんですが、ナンパの歌だと思ったほうがいいです。「こんなに激しき好き」と言いたいんじゃなくて、「こんなぬいセンスよく凝った歌を詠める僕って、素敵だと思わない?」という引っかけ方です。
感想
現代の短歌で、掛詞を多用することに成功してる歌ってあるんだろうか。ちょっとキラキラした、技巧的な、尖った感じになりそう。これは、当時に、どう受け取られてたんだろう。
五二.藤原道信朝臣(ふじわらのみちのぶあそん)
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら
なほうらめしき 朝ぼらけかな
(あけぬれば くるるものとわ しりながら
なおうらめしき あさぼらけかな)
現代語訳
朝になる また夜が来る わかるけど
それでもくやしい 朝の光さ
英訳
Though the sun has risen,
I know I can see you again
when it sets at dusk.
Yet even so, how I hate
this cold light of dawn.
dusk / dˈʌsk(米国英語)/(たそがれの)薄暗がり、夕やみ
解釈
この朝明けはまっ白に雪が降っていたという。一夜のうちに変った庭のさまを見ながら、別れて帰る一日の長さが、しみじみと思われたのであろう。発想にある稚いくらいの理屈が、かえって恋の場の純一な詠歎を感じさせる。
これも、実際につきあっていた女性に贈られた「後朝の歌」で、「朝になって、しかたがないから君の部屋を出た。また夜が来て、すぐに逢えるのはわかるけど、それでもやっぱり、この朝の光はうらめしいな」です。こういう歌を贈る以上、道信は、「また、今晩も絶対に逢いに来るからね」と言っているわけです。
(略)
王朝文化の全盛期、実方は「粋なプレイボーイ」を気取って、道信は誠実に純情。「どっちがいい?」というペアです。
感想
馬場先生が、稚(いとけない)いと言っている通り、あどけない感じを出すのが、今なら、あざといと言われそう。自分が真似ると下手なだけに失敗しそう。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。