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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(五一、五二)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

五一.藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)

かくとだに えやは伊吹の さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思ひを

(かくとだに えやわいぶきの さしもぐさ
 さしもしらじな もゆるおもいを)

現代語訳

こうとさえ 言えない伊吹の さしも草
そうとも知らない 燃える思いを

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Because my feelings
are too great to put into words,
my heart blazes like the moxa
of Mount Ibuki,
with a love you cannot know.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

blaze / bléɪz(米国英語), bleɪz(英国英語)/(激しい)炎、火炎、火事、火災、閃光(せんこう)、強い輝き、燃えるような色彩、(名声などの)発揚、連発、かっと燃え立つこと
mox・a / mάksə(米国英語), mˈɔksə(英国英語)/(灸(きゆう)に用いる)もぐさ

解釈

「さしも草」は、お灸に使う「もぐさ」です。その産地として有名だったのが伊吹ーー伊吹山で、これは琵琶湖の東にある伊吹山ではなくて、関東にある山だそうです。それでなにかというと、もぐさは火をつけるものだから、「燃ゆる思ひ」で、伊吹山は「こうとさえ言えない」の「言ふ」、さしも草の「さしも」は「そうだとも」につながって、「燃ゆる思ひ」の「ひ」は「火」でもあるという掛詞です。「かくとだに えやは伊吹の」は、「こうとさえ言えない、伊吹の」です。
「あなたは私の熱烈な気持ちを知らない」というプロポーズなんですが、ナンパの歌だと思ったほうがいいです。「こんなに激しき好き」と言いたいんじゃなくて、「こんなぬいセンスよく凝った歌を詠める僕って、素敵だと思わない?」という引っかけ方です。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

現代の短歌で、掛詞を多用することに成功してる歌ってあるんだろうか。ちょっとキラキラした、技巧的な、尖った感じになりそう。これは、当時に、どう受け取られてたんだろう。

五二.藤原道信朝臣(ふじわらのみちのぶあそん)

明けぬれば 暮るるものとは 知りながら
なほうらめしき 朝ぼらけかな

(あけぬれば くるるものとわ しりながら
 なおうらめしき あさぼらけかな)

現代語訳

朝になる また夜が来る わかるけど
それでもくやしい 朝の光さ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Though the sun has risen,
I know I can see you again
when it sets at dusk.
Yet even so, how I hate
this cold light of dawn.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

dusk / dˈʌsk(米国英語)/(たそがれの)薄暗がり、夕やみ

解釈

 この朝明けはまっ白に雪が降っていたという。一夜のうちに変った庭のさまを見ながら、別れて帰る一日の長さが、しみじみと思われたのであろう。発想にある稚いくらいの理屈が、かえって恋の場の純一な詠歎を感じさせる。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

これも、実際につきあっていた女性に贈られた「後朝の歌」で、「朝になって、しかたがないから君の部屋を出た。また夜が来て、すぐに逢えるのはわかるけど、それでもやっぱり、この朝の光はうらめしいな」です。こういう歌を贈る以上、道信は、「また、今晩も絶対に逢いに来るからね」と言っているわけです。
 (略)
王朝文化の全盛期、実方は「粋なプレイボーイ」を気取って、道信は誠実に純情。「どっちがいい?」というペアです。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

馬場先生が、稚(いとけない)いと言っている通り、あどけない感じを出すのが、今なら、あざといと言われそう。自分が真似ると下手なだけに失敗しそう。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。