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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(二七、二八)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

noteで書くことに困った時にまとめる予定だったが、最近は週一回、必ずまとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

二七.中納言金輔(ちゅうなごんかねすけ)

みかの原 わきて流るる いづみ川
いつ見きとてか 恋しかるらむ

(みかのはら わきてながるる いずみがわ
 いつみきとてか こいしかるらん)

現代語訳

瓶の原(みかのはら) わいて流れる 泉川
いつ見てこんなに 恋しいのかなあ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

When did you first spring into view?
Like the Moor of Jars
divided by the River of Springs,
I am split in two―so deeply flows
the river of my love for you.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

moor / mˈʊɚ(米国英語), mˈʊə(英国英語)/(…に)つなぐ、もやう、停泊させる
jar 
/ dʒάɚ(米国英語), dʒάː(英国英語)/(広口の)瓶、つぼ、ジャー、瓶 1 杯(の量)
di・víd・ed / dɪˈvaɪdɪd(米国英語)/分割された、分かれた、分離した、まちまちな、深く裂けた、裂開した
split in two / 両断する
flows / floz(米国英語), fləʊz(英国英語)/flowの三人称単数現在。flowの複数形。(絶え間なく)流れる、 流れ出る、 わき出る

解釈

 これも上の句はすべて「いつ見き」を引き出すための序であり、水の美しい泉川の流れが賞でられた歌枕の地瓶原(みかのはら)(京都相楽郡)を活用している。ためにイメージは清純な美しさを保ち、まだ逢い寝の一夜さえもっていない恋の、憧れの心がよく表現されている。作者は「さねかづら」を詠んだ定方とはいとこになる。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 現代だと、「あなたをいつどこで見た」はかんたんですが、平安時代に男と女が「逢う」ということは、まず起こらない。女は邸の中の簾の向こうにいて、顔を見せませんから。つまり、会ったこともないのに「会った」と言う。そんな口説き方は今でもありますが、それは昔からのことみたいです。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

まだ会ったこともない女性に対して、思いを寄せるという感覚が現代の自分にはないけれど、それくらい恋しいという気持ちも、十代のころにはあったように思う。昔の歌を引っ張り出せば、そんな気持ちも昔から持ってこれるかもしれない。

二八.源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん)

山里は 冬ぞさびしさ まさりける
人目も草も かれぬと思へば

(やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける
 ひとめもくさも かれぬとおもえば)

現代語訳

山里は 冬が寂しさ 強くなる
人も来ないし 草も枯れるし

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

In my mountain abode
it is winter
that feels loneliest―
both grasses and visitors
dry up.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

a・bode / /əbóʊd(米国英語), əbˈəʊd(英国英語)/「abode」は動詞「abide」の過去形 / (…を)我慢する、我慢する
loneliest / 「loneliest」は形容詞「lonely」の最上級 / lonelyの最上級。孤独な、 ひとりぼっちの

解釈

 作者は光孝天皇の孫、賜姓の源氏だが正四位下にとどまり不遇であった。一首の背景にあるのは、冬枯れの山里の景より、むしろそうした心象の侘しさと、そこにみきわめたようにみつめられている人生への観照の思い出あったろう。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 冬になれば、草木も枯れる、雪が降れば、遠い山里にまでやって来る人もいなくなる。「人も来ないし草も枯れるし」なんですが、昔の人には、そんなくどい言い方をする必要がありません。「かれる」には、「枯れる」と「離(か)れる」の両方の意味があったからです。
(略)
この歌が出来た頃には、「山里は秋こそことにわびしけれ 鹿の鳴く音に目をさましつつ」という歌もあって、それに対して、「いいや違う!」と挑戦状を叩きつけた歌だという話もあります。それで「冬のほうが寂しい」と言いながら、ちょっと笑っているのかもしれません。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

「秋がさびしい」という知られた前提があって、際立つのか。
でも、そんな前提がなくても「まさりける」は、その寂しさを強調してくれる。下手に強調するとわざとらしくなるけれど、これが読まれた時は、きっとそんなこともなかったんだろう。でも、秋が寂しいの前提に、ちょっとそれを冷笑する、という態度のほうだったかもしれない。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。


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