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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(四五、四六)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

四五.謙徳公(けんとくこう)

あはれとも 言ふべき人は 思ほえで
身のいたづらに なりぬべきかな

(あわれとも いうべきひとは おもほえで
 みのいたずらに なりぬべきかな)

現代語訳

「どうした?」と 聞く人なんか いてくれない
このままむなしく 死んじまうのさ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

"I feel so sorry for you."
No one comes to mind
who would say that to me,
so I will surely die alone
of a broken heart.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

I feel so sorry for you / とても気の毒に思う
No one comes to mind  who would say that to me. / 私にそんなことを言う人は誰も思い浮かばない。
I will surely die alone of a broken heart. / 私はきっと失意のうちに孤独に死ぬだろう。

解釈

 謙徳公は一条摂政とよばれた伊尹(これただ)のこと。「いみじき御集つくりて豊景となのらせたまへり」と『大鏡』にあるように、自歌集を仮名をつかって物語ふうに編んでいる。この歌はその巻頭歌で、「親しくしていた女が、疎遠になり、ついには逢うこともなくなった」という時の歌としている。「身をいたづらに」云々は、思いに屈して死んでしまうことだが、一首の中では諦めきれぬ未練な恋に対する詠歎が、上句の哀れな訴えを受けて深まっている。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

謙徳公が聞いてくれる人がいないのは、身分が高貴なためだが、そんなことは下々の私でも感じることはあった。自分に聞いてくれる人がいない時期は身に染みるのかも。今は、聞いてくれる人がいるということを嚙み締められる。意味をわかりやすくすることも大事だけれど、聞く人の状況によって、感じることが変わる歌というのはおもしろい。

四六.曽禰好忠(そねのよしただ)

由良の門を わたる舟人 かぢを絶え
ゆくへも知らぬ 恋のみちかな

(ゆらのとを わたるふなびと かじをたえ
 ゆくえもしらぬ こいのみちかな)

現代語訳

由良の門(と)を 進む船頭 舵がない
行方不明の 恋の道だよ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Crossing the Straits of Yura
the boatman loses the rudder.
The boat is adrift,
not knowing where it goes.
Is the course of love like this?

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

straits /strets(米国英語), streɪts(英国英語)/ straitの複数形。海峡、 瀬戸
rudder /rˈʌdɚ(米国英語), ˈrʌdɜ:(英国英語)/(船の)かじ、(飛行機の)方向舵(だ)、指導者、指針
adrift /ədríft(米国英語)/漂って、漂流して、あてどない、さまよって、的がはずれて、調子が狂って、ゆるんで
Is the course of love like this? / 愛の行方はこのようなものなのだろうか?

解釈

 歌枕の由良は、紀伊海峡の高波の海である。一首はその海漕ぐ舟人が波に梶を失い漂う不安を、恋の行方のあてどない不安と重ねてうたっている。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

激しい海に舵がないというのは、どれだけ怖いことだろう。身の不明感が強い。こういう例えを見つけ出して、詠みたいなぁ。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。