![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/116952521/rectangle_large_type_2_95d936c82255e023194a145c245b1c1a.jpg?width=800)
百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(三三、三四)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
noteで書くことに困った時にまとめる予定だったが、最近は週一回、必ずまとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
三三.紀友則(きのとものり)
ひさかたの 光のどけき 春の日に
しづ心なく 花の散るらむ
(ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
しずこころなく はなのちるらん)
現代語訳
ひさかたの 光しずかな 春の日に
落ち着かなくて 花は散るのさ
英訳
Cherry blossoms,
on this calm, lambent
day of spring,
why do you scatter
with such unquiet hearts?
lam・bent / lˈæmb(ə)nt(米国英語)/ゆらめく、淡く光る、柔らかく輝く、軽妙な
scat・ter / skˈæṭɚ(米国英語), ˈskætɜ:(英国英語)/(…を)まく、まき散らす、散財する、(…を)ばらまく、(…を)まき散らす、ばらまく、追い散らす、四散させる、散らす
un・qui・et /`ʌnkwάɪət(米国英語)/落ち着きのない、そわそわした、不安な、不穏な
解釈
さくらの花が散るのを詠んだのだと特に詞書きされているのは、梅に対する区別というより、古今時代に開幕する桜の人気の背景に、農作を占う桜への信仰が、花の散ることへの観察ともかかわりつつあったのかもしれない。
春の日は穏やかで、幸福そのもの、そこに、満開の桜が散って行く。一度散りはじめた桜は、休むことなく、ずっと散り続ける。それを「落ち着かないな!」と思って怒っているのではない。桜が散るのに合わせて、いちいち騒ぐ人もいないでしょう。「花は落ち着かないな」と思う人は、その分、落ち着いている。そのギャップが、人生です。
感想
花が散っている。こういう理由とも言えない理由で花が散っているというところが好き。夏目漱石の『彼岸過迄』の中に、留年した理由が、「そこが浪漫家だけあって」と書いてあって、その一文だけで得心したことがあった。説明できるのなら言葉をどんなに尽くしても書くべきだ、と思っていた学生時代に、あぁ、これでいいじゃないかと思ったことがあった。それを思い出した。
三四.藤原興風(ふじわらのおきかぜ)
誰をかも 知る人にせむ 高砂の
松も昔の 友ならなくに
(たれをかも しるひとにせむ たかさごの
まつもむかしの ともならなくに)
現代語訳
いま誰と 話合えるの 高砂の
松さえ昔の 友だちじゃない
英訳
Of those I loved, none are left.
Only the aged pine
of Takasago
has my years, but, alas,
he is not an old friend of mine.
pine /pάɪn/【植物, 植物学】 マツ(の木)
a・las / əlˈæs(米国英語)/ああ!、悲しいかな!
解釈
長命ははたして幸福なのだろうか。周辺に死なれた老いの孤独が、「たれをかも知る人にせむ」「友ならなくに」という屈折したことばの中に述懐の色を深めている。しかしこの歌の人気の一面は、その侘しさを歌枕の高砂の松に寄せて、文芸的香気を漂わせている点であろう。
和歌の主人公は老人で、昔からの友達はみんな死んでしまって、知り合いはいません。誰か友達がほしいんですが、知っている人はいないんです。いるとすれば、それは長寿の象徴として有名な、兵庫県の海辺にある「高砂の松」くらいだと思うのですが、そこで生まれ育ったわけでもない主人公は、「べつに昔からの知り合いじゃないしな」と思うのです。「そんなに長生きするつもりもなかったのに」と思う主人公その人が、実は、すべての木が葉を落としてしまった人生の冬に、独り緑の葉を茂らせて残る、「松」なのです。
感想
こういう歌が堪える年齢になってしまった。50歳代、60歳代、70歳代には、もっと響くだろう。今は友だちもいるし、飲む相手もいるけれど、きっと誰もいないと感じる状況が増える時期が来るだろう。今の幸せ時期のあとにもまだこんなことが待っているかと思うと… 一人の人生ですら、諸行無常過ぎる。一生、幸せでい続ける人なんていない。つらい。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。