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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(四七、四八)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

四七.恵慶法師(えぎょうほうし)

八重葎 しげれる宿の さびしきに
人こそ見えぬ 秋は来にけり

(やえむぐら しげれるやどの さびしきに
 ひとこそみえね あきはきにけり)

現代語訳

雑草が 茂った家の 寂しささ
人には見えず 秋は来ちゃった

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

How lonely this villa
has become, overgrown
with goose grass weeds.
No one visits me--
only autumn comes.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

vil・la/vílə(米国英語)/いなかの大邸宅、(避暑地や海辺の)貸し別荘、(一戸建てまたは二軒続きで庭付きの)郊外住宅、…住宅、(古代ローマの)荘園
òver・grówn/ˌovɝˈgron(米国英語), ˌəʊvɜ:ˈgrəʊn(英国英語)/(草などが)一面に茂った、一面に茂って、大きくなりすぎた、(年齢・体力不相応に)背が高すぎる、(大きすぎて)ぶかっこうな
goose/gúːs(米国英語), gu:s(英国英語)/ガン、ガチョウ、ガンの雌、ガチョウの肉、あほう、まぬけ、とんま、(びっくりさせるために)人の尻の間を後ろから手で突くこと
weeds/wíːdz(米国英語), wiːdz(英国英語)/「weeds」は名詞「weed」の複数形です 雑草、紙巻きたばこ、刻みたばこ、マリファナ(を入れた紙巻き)、ひょろ長い人、やせた弱々しい人

解釈

この歌の「宿」は、「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに」と詠んだ河原左大臣の豪華な別荘、河原院(かわらのいん)です。河原左大臣が死んで百年もたった時、その豪華な別荘はぼろぼろになっていました。『源氏物語』には、光源氏が恋人の夕顔を連れて出かけた空き別荘で物の怪にたたられるシーンが出て来ますが、その化け物屋敷みたいな空き別荘のモデルが、その河原院だと言われています。
 恵慶法師の友人はそこに住んでいて、人を集めて遊んでいたんだそうですが、この歌は、そういう時に詠まれた歌です。「荒れた邸に秋が来た」という題を出されて、恵慶法師はこの歌を詠みました。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

ちょうど秋が来たって、歌を詠みたい時期に来たけれど、どんな場所で、秋を感じるかで印象は変わるんだな。独りで感じることもできるし、友人や家族と感じることもできる。

四八.源重之(みなもとのしげゆき)

風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
砕けてものを 思ふころかな

(かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ
 くだけてものを おもうころかな)

現代語訳

風が吹く 岩打つ波は 自分だけ
砕けてあわれな 僕の心さ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Blown by the fierce winds
I am the waves that crash
upon your impervious rock.
Though my heart shatters,
my love rages yet.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

fierce/fíɚs(米国英語), fíəs(英国英語)/獰猛(どうもう)な、凶暴な、激しい、すさまじい、猛烈な、荒れ狂う、不快な、ひどい
crash/krˈæʃ(米国英語)/ガラガラ、ドシン、ガチャン、(飛行機の)墜落、(車の)衝突、(相場・商売などの)つぶれること、急落、破滅
im・per・vi・ous/ìmpˈɚːviəs(米国英語), ɪmpɜviɛs(英国英語)/通さないで、不浸透で、影響されないで、損傷しないで、耐えて、(…に)無感覚で、鈍感で
shatters/ˈʃætɝz(米国英語), ˈʃætɜ:z(英国英語)/shatterの三人称単数現在。粉みじんに壊す、 粉砕する
rages / 「rages」は名詞「rage」の複数形です (抑えがたい)激怒、憤怒、激しさ、猛烈、猛威、熱望、渇望、大流行(のもの)

解釈

激しい比喩をもって、千々に思い砕ける心の中を表している。もちろん岩のような対象は恋の相手の心で、「おのれのみ砕けて」というところに波の様子を写すとともに作者の実感もあったのだろう。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

おーもーいー、けど、そういう心持はわかる。
若い時なら、許されるだろう、というか、こういう心持のまま、歳は取れないだろう。激しい言葉を重ねつつ、成立させるのはえらい。聞いてる人は、白けるか呆れるかしないのかしら。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。