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百人一首復習ノート・おかわり(五、六)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。そうはいっても、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することは、短歌に向き合うためには必要なことかもしれない。

教養としてではなく、あくまで自分の作歌のタネとして、作歌のテクニックという実利を期待して、「百人一首復習ノート」として、百人一首の歌の意味と解釈に触れた。

今度は、二周目として、和歌の後ろに広がる世界、短歌の持つイメージ、詩作の楽しみに触れてみようかと思っている。

一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首がペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形で触れるようにしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

百人一首復習ノート(五、六)

五.猿丸太夫(さるまるだゆう)

奥山に もみぢ踏みわけ 鳴く鹿の
声聞くときぞ 秋はかなしき

(おくやまに もみじふみわけ なくしかの
 こえきくときぞ あきはかなしき)

現代語詠み直し

山奥に紅葉を踏んで鳴く鹿の声が聞こえる 秋は悲しい

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

道を、塞ぎ、塞ぎ、
誰も近づかない奥の奥の山のなか、
赤が、秋が、散っていく、
私の中でも、なにかが終わる、
季節、空が生き急ぐように模様を変えた。

赤を踏み抜いた、秋を踏み抜いた、歩く鹿の鳴き声だけが、
私のところに届くのです。
秋、どうして私を置き去りに、
しようと後ろ姿を見せるのですか。
秋、とりわけ悲しい季節。
遠のいていく気配が私の外側に、満ちている、落葉、落葉。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

・雄鹿が雌鹿を求めて鳴く声&紅葉は王道で定番のモチーフ!
・花札の「赤いもみじに鹿」の札の由来であるらしい
・神事に関係した乞食(ほかいびと)だったのでは。
・季節を定めて祝福に訪れてくる神々への信仰に源流を持ち、神の姿をした祝福芸人(ほかいびと) ピエロのような…?
・乞食者詠(ほかいひとのうた)が万葉数にある(天皇の寿ぐ歌)
・自分/鹿 が踏み分けるのか?
・自分が紅葉を踏み分けた行為に妻思う鹿の声が重なって山の淋しさと秋の静けさが感じられる

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

東さんの短歌は、人がどこで聞いているかわからないので、山を踏み分けるのは、(山に入った人ではなく)鹿という解釈を強めに感じる。これは文字数の制約上、しょうがない。タヒさんは、人が山を分け入っている要素も取り入れている。英語の詩としてどう成立しているかわからないけれど、ピーター・マクミランさんもうまい。

How forlorn the autumn.
Rustling through the leaves,
going deep into the mountains,
I hear the lonely deer
belling for his doe.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

六.中納言家持(ちゅうなごんやかもち)

かささぎの 渡せる橋に 置く霜の
白きをみれば 夜ぞふけにける

(かささぎの わたせるはしに おくしもの
 しろきをみれば よぞふけにける)

現代語詠み直し

カササギのかけた天の川の橋霜の白さに夜は深まる

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

天の川のせせらぎを聞きながら暮らすふたりは、手を伸ばしても届かない、声を投げても届かない、暗闇のなか、向こう岸にいる相手の光を探して、目を凝らしている。あしもとには、さあさあと流れる星の川がうごめいて、美しく、美しいまま想い人の光を、かき消していた。

私たちを包む宇宙の暗闇を、照らしながら横断する光の川ですら、あのふたりを引き裂いていた。あれから、カササギたちが黒と白の翼を重ね、光の川に橋を渡したはずだけれど、いま、その橋には霜が降りているんだろうか。地上から見た天の川には、星と星と星のはざまに流れて、翼の黒を見つけることができやしない。どこを渡るというのだろう。光が夜に刃向かうように研ぎ澄まされ、黒を打ち消していく、そんな、夜の最深部に私は迷い込んでいた。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

2つの説あり
・冬の夜空を見上げると天の川の星がまぶしく輝いていて霜のように見えた
・御所のきざはしにおく霜を見て、夜が更けて行ったことをしった

 天の川=かささぎ橋
 男女の仲を取り持つ橋

中国の伝説
七夕の夜には一年に一度 彦星織姫の逢瀬のためにかささぎの群れが天の川に翼を広げて橋を作って渡したと…

・七夕(七月)といえば当時は秋 なのに冬の霜の歌!?

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

この「復習ノート・おかわり」では、どうしても、タヒさんの現代詩に印象を持っていかれるのだけれど、そう、短歌の形式には、文字(音)の制約があるのだ、ということを改めて知る。タヒさんも東直子さんも、百人一首に詠まれた対象は変えない。現代と印象が違おうが、現代人が印象を受け取らなかろうが、カササギはカササギだ。短歌は文字数の制約から、その昔の印象を上書きできない。音も変えれない。それでも、現代語の短歌におさめないといけない、作り手側の苦悩を想像してしまう。

※引用図書の紹介

歌人・東直子さんが、現代の短歌として、百人一首を詠み直したもの。

次は、詩人・最果タヒさんが、百人一首を詩として作り直したもの。

競技かるたのマンガ『ちはやふる』の作者・末次由紀さんが、マンガを描くにあたり、取材したメモを再構成したもの。東直子さん、最果タヒさんが詩情を感じたところが、どういった背景や人物像に立脚したものかを確認するために使おうと思う。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。