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百人一首復習ノート・おかわり(一一、一二)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。そうはいっても、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することは、短歌に向き合うためには必要なことかもしれない。

教養としてではなく、あくまで自分の作歌のタネとして、作歌のテクニックという実利を期待して、「百人一首復習ノート」として、百人一首の歌の意味と解釈に触れた。

二周目は、和歌の後ろに広がる世界、短歌の持つイメージ、詩作の楽しみに触れてみようかと思っている。

一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首がペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形で触れるようにしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

百人一首復習ノート(一一、一二)

一一.参議篁(さんぎたかむら)

わたの原 八十島かけて こぎ出でぬと
人には告げよ 海人のつり舟

(わたのはら やそじまかけて こぎいでぬと
 ひとにはつげよ あまのつりぶね)

現代語詠み直し

海原のかぞえきれない島々へ漕ぎ出した、そう伝えよ釣舟

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

星や太陽や月を沈めても、
なに食わぬ顔をする、海がここに広がっている、
無数の波がうちよせて、無数の島がこの先にある、
近づく釣り舟はいつか必ず離れていく、遠のいていく、
さようなら、さようなら。
行こう、私はどこまでも行ける、
そう、旅立っていったと、あの人には伝えておくれ、
あの浜へ、帰っていく釣り舟よ、私から、離れていく釣り舟よ。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

・37歳の頃、遣唐使に任ぜられるが、大使の藤原常嗣と不和になり、病気と称して乗船しなかった。嵯峨上皇の怒りを買い、隠岐の国へ流刑に。この歌はその時のもの。
・「今昔物語」には逸話が。「閻魔大王と交流があり昼は宮廷に仕え夜は地獄に通った…」血の中に神霊的なものが流れていた
・舟に乗る漁師たちは自由なのに自分は罪人だ。力強く別れを詠み上げる。
・小野篁は188センチの大男。隠しきれない生命力! 188センチって 当時だとめっちゃ巨人だよねー

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

「大海原」「問いかけ」「釣り舟」あたりが歌の構成要素。東さんも、タヒさんも、小野篁の印象をつけてはない様子。元歌のほうが、多義を含んでバランスいいという。

一二.僧正遍昭(そうじょうへんじょう)

天つ風 雲のかよひ路 ふきとぢよ
乙女の姿 しばしとどめむ

(あまつかぜ くものかよいじ ふきとじよ
 おとめのすがた しばしとどめん)

現代語詠み直し

空の風よ雲の中の通り道ふさいで乙女の姿とどめよ

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

舞うとあなたの指先が、またたく光につながり、溶けるよ。
揺れては立ち去るあなたの瞳が、影に触れてはきらめいている。
わたしを包むように、立ち尽くしている巨大な世界が、
あなたの息と共鳴をして、今、連れ去られようとしていた。

あなたが、この世界のすべて。
舞うひとびと、あなたの皮膚が世界の輪郭、
きっとこの時間が終われば、あなたは空へと帰っていくのだ、
おおきな星を抱きしめるため、
その無限そのものの体で、空の果てへと行くのだろう。
わたしは、だから祈っています、
あなたがのぼる雲の階段が、少しのあいだ、風で途切れることだけを。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

・美男子として有名。小野小町と恋仲であったとされている。仁明(にんみょう)天皇の崩御を機に35歳で出家。この歌は出家前のもの
・「歌のさまは得たれどもまこと少し」と紀貫之に批評されている
・エリート役人だった頃、宮中で陰暦十一月に開かれる「豊明節会」五人の未婚の美女「五節の舞姫」を詠んだ歌
・雲のかよひ路=天上に通じる路(天女が往来する)その道を吹き閉ざしてほしいと歌う。男の願望丸出しの歌

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

「雲の通り道」「舞う乙女を見ていたい」が歌の構成要素。東さんは「とどめよ!」、タヒさんは、「乙女の美しさ」を中心に。元歌が両方の意味をもって、三十一音で存在してるのがすごいな。

※引用図書の紹介

歌人・東直子さんが、現代の短歌として、百人一首を詠み直したもの。

次は、詩人・最果タヒさんが、百人一首を詩として作り直したもの。

競技かるたのマンガ『ちはやふる』の作者・末次由紀さんが、マンガを描くにあたり、取材したメモを再構成したもの。東直子さん、最果タヒさんが詩情を感じたところが、どういった背景や人物像に立脚したものかを確認するために使おうと思う。


いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。