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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(二九、三〇)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

noteで書くことに困った時にまとめる予定だったが、最近は週一回、必ずまとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

二九.凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)

心あてに 折らばや折らむ 初霜の
置きまどはせる 白菊の花

(こころあてに おらばやおらむ はつしもの
 おきまどわせる しらぎくのはな)

現代語訳

てきとーに 折ってもみようか 初霜が
降りて迷わす 白菊の花

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

To pluck a stem
I shall have to guess,
for I cannot tell apart
white chrysanthemums
from the first frost.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

pluck / plˈʌk(米国英語)/(ぐいと)引き抜く、引き抜く、摘む、摘んであげる、羽を(料理のために)むしり取る、かき鳴らす、金品を盗む
stem / stém(米国英語), stem(英国英語)/(草木の)茎、幹、葉柄、花梗(かこう)、(果物の)果柄、(バナナの)果房、茎状のもの、(杯・ワイングラスの)脚、(道具の)柄、(パイプの)柄
I shall have to guess / 推測しなければならない
tell…apart / 〈二者を〉区別する.
chrysanthemums / krɪˈsænθʌmʌmz(米国英語)/ chrysanthemumの複数形。キク (菊)

解釈

この歌の比喩は今日からは大げさすぎて受け入れられないが、初霜と白菊という、白と白の取り合せに興じている気分の風趣がここにはある。一首の着想をやわらげているのは「心あてに折らばや折らむ」という動きのある心のなつかしさで、その本領はさらに一首あげれば「春の夜のやみはあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる」というような、上官の艶にゆきわたった技巧派のよさがあった。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

今は、大げさ過ぎて受け入れられないという比較ということだが、何かと何かを比べるということ、詠む時に考えたこともない。色、形、匂い、五感で比較できるものを詠み込んでみようかな。

三〇.壬生忠岑(みぶのただみね)

有明の つれなく見えし 別れより
暁ばかり 憂きものはなし

(ありあけの つれなくみえし わかれより
 あかつきばかり うきものはなし)

現代語訳

有明が つれなく見えた あの日から
夜明けがいちばん つらくなったよ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

How cold the face
of the morning moon!
Since we parted
nothing is so miserable
as the approaching dawn.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

part / 〈…を〉分ける; 引き離す[分ける]

解釈

この一首はことに新古今時代において人気が高く、定家愛誦歌の一つであったらしい。下句のもつ身をもむような詠嘆が、有明の美しさと照応しつつ求めがたい恋の余情を、艶にも妖しくも思わせ、そこに一つの人生的感慨がにじむようにも思われたのであろう。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 和歌の名手が作った歌には、「どうとでも解釈出来る」という部分があって、そこら辺が和歌の神秘です。夜明けになってもまだ月がある。ーー有明の月です。その月がつれなく見えたのは、「その夜一緒だった女がつれなかったからだ」という解釈もあります。そうするとこの男は、ずーっとつれない女を恨み続けているということになってしまいます。でも、その正反対にも解釈出来ます。有明の月を「つれない」と思うのは、その夜一緒の女性が好きだからです。「空にはまだ月がある。だったらもう少し一緒にいてもよかったのに」と思うと、別れがつらい。それ以来、夜明けになると、別れたままの彼女が思い出されて、つらくてしようがない。どっちの解釈がいいですか?

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

定家が愛誦したと言われたら、覚えてみたくなるもの。高校生の時、暗記させられたけど、当時は、漢文は好きだけれど、日本語のやわらかい言葉は苦手だった。せっかくなので覚えてみよう。どうとでも解釈できるっていう歌は、狙って作るのは難しい。だって、伝える努力を怠っていると思われる。シチュエーションから、どっちともとれる、というのならありかも。まずは冷泉家の祖、歌聖が好きだったという歌を覚えるところから。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。