見出し画像

百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(四三、四四)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

四三.権中納言敦忠(ごんちゅうなごんあつただ)

逢ひ見ての 後の心に くらぶれば
昔はものを 思はざりけり

(あいみての のちのこころに くらぶれば
 むかしはものを おもわざりけり)

現代語訳

実際に やった後から くらぶれば
昔はなんにも 知らなかったなー

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

When I compare my heart
from before we met
to after we made love,
I know I had not yet grasped
the pain of loving you.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

grasped / græspt(米国英語)/graspの過去形、または過去分詞。(…を)(手で)ぎゅっとつかむ、 しっかりと握る

解釈

 きぬぎぬの歌である。一夜をとも寝したことによって、情がいっそう深くなったことをうたっている。逢ってもらえなかった日々の長さを「昔」と表現しているのもおもしろく、一夜でがらりと変わってしまった昔と今の感覚が独自である。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 平安時代の「逢う」は、ただの「逢う」じゃありません。女は、簾の向こうにいます。だから、「逢う」となったら、男はその中へ入って行かなければなりません。つまり、「ベッドルームへ侵入」とおなじことです。「逢って、見た」は、「肉体関係を結ぶ」ということなんです。そうなる前ならともかく、一度関係を持ってしまったら、「じっと我慢」とか「ただ純情」ではおさまりません。「ああ、好きだ。また逢いたい」と、イライラジリジリしてしまいます。そして、そうなってやっとわかるのですーー「昔もいろいろ考えてたと思うけど、今にして思えば、あんなのは ”恨み”の内に入らなかったよな」と。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

これも次の歌も、こんなストレートなことを詠んでたとは。まぁ、そうだよね、実際に知ってしまったから、我慢できなくなってしまうんですよね。

四四.中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)

逢ふことの たえてしなくは なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし

(あうことの たえてしなくは なかなかに
 ひとをもみをも うらみざらまし)

現代語訳

セックスが この世になければ 絶対に
こんなにイライラ しないだろうさ!

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

If we had never met
I would not so much resent
your being cold to me
or the way
I love you so.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

re・sent / rɪzént/〈…に〉腹を立てる,憤る,憤慨する
cold to me / 私に冷たい・そっけない
or the way / あるいは

解釈

一首は業平の歌の「世の中に絶えて桜のなかりせば人の心ののどけからまし」によって発想されているが、それ以上に理づめなところも、かえって屈折の深い、身をもむような恋の体験を推察させる。逢うことを求めながら逢えない恋、を題としてこなした歌。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 「逢う」がどんなことかは、もうおわかりですね。それで、この歌をおとなしく解釈します。「あなたが好きだ。でも逢えない。それがつらくて、自分にもイライラするし、あなたにも八つ当たりしてしまう」です。でも、この歌は、もっと過激になります。「セックスというものがなかったら、他人にも当たらないし、自分にもイライラしない」です。
 これは、「歌合わせ」で詠まれた「架空の恋歌」で、だからどうとでも解釈出来るのです。この歌の作者は、きっと有名なこの和歌も知っていましたーー在原業平作の「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」です。「桜の花がなかったら、世間の人は静かだろう」というのですから、この歌だってーー。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

なるほど、業平のほうがまだ奥ゆかしい。
性的なことも詠むのは、時代もあるし、今のオープンな世にあっても、受け取り側で感じ方が違う。性的な話もネタも好きなので、詠めるといいな。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。