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『イマジナシオン』のPartⅠで好きだった短歌

2022年12月の誕生日にもらった歌集『イマジナシオン』

一気に読むのがもったいなくて、少しずつ読んでいる。Ⅰ~Ⅴにパートが分かれていて、今、PartⅠを読んだところだ。

気になった歌はいろいろあるけど、3つだけ書き留めておく。

なにもかもたまねぎの所為にしてやったキッチンで今、堂々と泣く

『イマジナシオン (新鋭短歌シリーズ)』©2022 toron*/書肆侃侃房

いいなと思ったのは、たまねぎを切って目に染みた瞬間だけじゃなく、その前の出来事を想像してしまったことだ。泣こうと思ってたまねぎを買ったのかもしれないし、泣く理由がたまねぎを買う前にあったのだ。泣いている今、たまねぎを買った時、その前の出来事、と少なくとも3つの時間が見えるところがよかった。無理に3つの時間をねじ込めば、ただ情報量が多いだけになってしまう。そうならずに背景を想像させてしまう場面を切り取れるところがいい。

くちびるに触れるあたりをつと触れて盃ふたつ買う陶器市

『イマジナシオン (新鋭短歌シリーズ)』©2022 toron*/書肆侃侃房

器を買う時、眺めたり持った時の手触りを確認することはあれど、唇の感触を確認するために触ったことはなかった。そして二つ買うということは、もう一人の唇の感触も知っているのだろう。盃に触れたのは一回だが、その瞬間に二重に感触を確認してしまう事実が含まれていて、それはきっと周りからはわからない、本人にしかわからない一瞬を切り取っていて、その気持ちを共有してもらえたようで楽しい。

おふたり様ですかとピースで告げられてピースで返す、世界が好きだ

『イマジナシオン (新鋭短歌シリーズ)』©2022 toron*/書肆侃侃房

「おふたり様ですか」のセリフがなければ、ピースをして、ピースを返すやりとりとなる。無音にすることでこんなにもハッピーな瞬間が他にもあるのかもと思えるのが素敵だ。

toron*さんの歌は、ちょっと見た範囲だと三十一音の定型に収まっている歌が多かった。これがちょっとした安心につながっている。さくさく読めるし、楽しい場面が多いので、読んでいて嬉しくなる。最後の「おふたり様」は6音だけれど、「さま」の「さ」は一音で切れないし、実際のセリフとしても「様」一音の短さとも言えるので無理がない。またちょっとずつ読み進めて、気になる歌の感想を残していこう。

他の章の感想


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