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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(四九、五〇)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

四九.大中臣能宣朝臣(おおなかとみのよしのぶあそん)

みかきもり 衛士のたく火の 夜はもえ
昼は消えつつ ものをこそ思へ

(みかきもり えじのたくひの よるはもえ
 ひるはきえつつ ものをこそおもえ)

現代語訳

恋の火は 夜警の明かり 闇に燃え
昼はひっそり ものを思うよ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

This troubled heart of mine
is like the watch fire of the guards
of the palace gate --
It fades to embers by day,
but blazes up again each night.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

fades / fedz(米国英語), feɪdz(英国英語)/fadeの三人称単数現在。fadeの複数形。(若さ・新鮮さ・美しさ・強さなどが)衰える
embers / ˈɛmbɝz(米国英語), ˈembɜ:z(英国英語)/emberの複数形。燃えさし、 残り火
blazes / ˈblezɪz(米国英語), ˈbleɪzɪz(英国英語)/blazeの三人称単数現在。blazeの複数形。(激しい)炎、 火炎

解釈

 衛士のたく火の夜の激しさと、昼のあるかなきかのさまとを対照的に取り出し、その両方が恋に悩む心の表裏をよくイメージ化している。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 今度は「せつない恋」のペアです。
「衛士(えじ)」というのは、全国から交代で集められる一般の国民で、「御垣守(みかきもり)」ーーつまり、天皇の住む皇居の周りの門を護衛する任務につきます。その労務担当が、諸国に割り当てられた「税金」でもあったわけです。そういう門番がいるんだと思うと、「みかきもり衛士のたく火の夜はもえ」は、「勇壮」というよりも、「夜の中でどことなくわびしく、そしてせつなく燃える火」のように感じられます。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

景色や情景を切り取ってしまうことを考えるので、一首の中に、実は昼と夜が両方いることは、私にはほぼない。対比としてもわかりやすいし、昼はこう、夜はこう、っていう歌はおもしろいかもしれない。

五〇.藤原義孝(ふじわらのよしたか)

君がため 惜しからざりし 命さへ
長くもがなと 思ひけるかな

(きみがため おしからざりし いのちさえ
 ながくもがなと おもいけるかな)

現代語訳

君のせい 惜しくもなかった 命さえ
長生きしたいと 思っちゃったよ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

I thought I would give up my life
to hold you in my arms,
but after a night together,
I find myself wishing
that I could live forever.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

解釈

 一夜を過した女のもとに送ったきぬぎぬの歌。「あひみての後のこころ」とくらべつつ歌った敦忠と同じように、これもまた、一夜の共寝によって、「死んでもいい」と思っていたのが、「より長く生きたい、あなたのために」と思うようになった、とうたっている。双璧の巧みな口説的発想であるとともに、若い男の情の鮮やかなまでにくっきりとうたわれているのが美しい。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

英訳を見ると、ほんとうに簡単な言葉だけで詠まれているのがわかる。雰囲気を作ってるのは「おしからざりし」「ながくもがなと」という言い方だな。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。