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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(六五、六六)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
六五.相模(さがみ)
うらみわび ほさぬ袖だに あるものを
恋にくちなむ 名こそ惜しけれ
(うらみわび ほさぬそでだに あるものを
こいにくちなん なこそおしけれ)
現代語訳
恨み泣き 乾かぬ袖は まだいいの
恋に負けてく 私がやなの
英訳
Even my sleeves may rot
from bitter tears that never dry
but worse than that
is the tainting of my name
by this bitter love.
sleeves / sleeveの複数形 / slivz(米国英語), sli:vz(英国英語) / (衣服の)そで、 たもと
rot /rάt(米国英語), rˈɔt(英国英語)/ 腐る、腐敗する、腐朽する、(道徳的に)腐敗する、だめになる、やせ衰える、元気がなくなる、冗談を言う
bit・ter /bíṭɚ(米国英語), bítə(英国英語)/ 苦い、苦みの、つらい、苦痛な、激しい、厳しい、辛辣(しんらつ)な、痛烈な、憎しみに満ちた、冷酷な
tainting /ˈtentɪŋ(米国英語), ˈteɪntɪŋ(英国英語)/ taintの現在分詞。腐敗、 (道徳的)堕落
解釈
永禄六年内裏歌合の題詠の恋の歌だが、奔放な恋に生きた相模の本音のこもるものと思われる。「恋に朽ちなん」は、恋の噂に朽ちて捨てられる名、噂によごれてゆく名で、恋が秘めねばならぬのは、一つにはその真実が人の好奇心によごされるからである。こうした体験の累積の中から相模のこの歌は、屈折を秘めつつ纏綿としてうたい出されている。
「恨んで泣いて、袖は濡れっぱなしでだめになりそうだけど、それはまだいいの。私が詳しいのは、”恋に負けて捨てられた” と噂されて、私の評判がだめになってしまう、そのことなの」という歌です。「そういう激しい恋もあって、こういう誇り高い女もいるのかな」と思いそうですが、実はこの歌は、「歌合わせ」で詠まれた架空の恋歌です。だから表現がオーバーで、「霧→濡れる→涙の袖」という連想があってもいいのかなと思うのです。
感想
「朽ちなん」が強いなぁ。きっと令和に至るまで、真似して詠んだ人も多いだろう。「〇〇に朽ちなん」で、週刊誌に書かれてしまう芸能人の歌でも詠んでやろうかしら。
六六.前大僧正行尊(さきのだいそうじょうぎょうそん)
もろともに あはれと思へ 山ざくら
花よりほかに 知る人もなし
(もろともに あわれとおもえ やまざくら
はなよりほかに しるひともなし)
現代語訳
一緒にさ 感動しようよ 山桜
花のほかには 誰もいないし
英訳
Mountain cherry,
let us console each other.
Of all those I know
no one understands me
the way your blossoms do.
con・sole /kənsóʊl(米国英語), kənsˈəʊl(英国英語)/慰める、慰問する、(…で)慰める
解釈
天台座主行尊も、若い日に吉野の奥大峰に入って修行をしたのである。過酷な修行という点でも最高の行の大峰入りの春、ふと咲きかかる桜の花がしみじみと眼にしみ、心にしみたのである。孤独な生の実感が、たちまち桜に向けて人間的ななつかしさを昂らせていった歌。一気に読みくだされた声調も勁く美しく、自然への呼びかけが、人生的詠歌と混じりあいつつ一世界をなしている。
満開の山桜の咲くところで、きっとなにかに感動したんです。でも、どこにも人間はいない。だから、「一緒に感動してくれ」と、山桜の花に呼びかけているんです。
どうしてこの歌が、相模の歌とペアになるのかはわかりません。女性と坊さんの間で共通点もないし、さらには、どうしてこの人がここに登場するのかもわかりません。行尊は、この後に出て来る三条院(三条天皇)の曾孫にあたるからです。時代順からしてもメチャクチャな前大僧正行尊がここにいるのなら、きっと意味があるのです。相模の歌と並べてみましょう。行尊が、相模になにか言っているようにも聞こえます。「泣いて大騒ぎするのもいいけど、山の中に来てみな。誰もいないんだぞ、大騒ぎはむなしくないか?」 ーそんなペアかもしれません。
感想
「もろともに 〇〇と思へ 〇〇〇〇〇」このフォーマットも使えそう。当時、SNSがあれば、「ほんとうにあたしでいいの? 〇〇〇だし、〇〇もこんなに〇〇〇〇あるし」みたいなバズり方をしたかもしれない。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。