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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(九三、九四)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
九三.鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん)
世の中は つねにもがもな 渚こぐ
あまの小舟の 綱手かなしも
(よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ
あまのおぶねの つなでかなしも)
現代語訳
世の中が このままならなあ しっかりと
渚に小舟が 引かれて行くよ
英訳
That such moving sights
would never change--
fishermen rowing
their small boats,
pulling them onto shore.
解釈
定家から万葉を学ぶことをすすめられた実朝の歌。語調にも万葉ぶりがくきやかなこの一首には、いつの日にか見たであろう働く民の姿が、わずかな羨望とともに実朝の現実に反映し、「世の中はこうした平穏の日々のままであってほしい」という詠歌をさそっている。
「世の中は常にもがもな」は、「世の中は変わらずにあってほしい」です。「常」が「無常」の反対語であると考えると、実朝の願望もわかるでしょう。諸行無常の『平家物語』の後の時代なんです。「無常ということはあるな」と、実朝は思います。そして海岸を行く舟を見ます。漕いで行くだけの舟なら不安定ですが、その舟には丈夫な縄がついていて、浜辺ではその縄を引っ張っています。だから、舟は安定して進むのです。その綱を実朝は「愛(かな)しい」と思います。悲しいのではなく、愛しいのです。なんだか無邪気です。実朝が悲しいのは、実はその無邪気なところです。実朝は和歌に憧れて、藤原定家の弟子になりました。定家の愛弟子みたいなものです。
感想
世の中・社会のこと、未来のこと、遠いことと、身近なことを対比するやり方。どんな状態? を初句と「つねにもがもな」の二句だけで表現できたので、三句四句、五句の途中までかけてゆっくり表現して、その様子が愛しいとまで言えちゃう。短く表現できたから、生活・暮らしを丁寧に表現できる。
九四.参議雅経(さんぎまさつね)
みよしのの 山の秋かぜ 小夜ふけて
ふるさと寒く 衣うつなり
(みよしのの やまのあきかぜ さよふけて
ふるさとさむく ころもうつなり)
現代語訳
みよしのの 山の秋風 小夜ふけて
古都は寒さに 衣打つ音
英訳
A cold mountain wind blows down
on my old home in Yoshino,
and as the autumn night deepens
I can hear the chilly pounding
of cloth being fulled.
póund・ing / ˈpaʊndɪŋ(米国英語)/強打(の音)、ひどい打撃、大敗
chill・y /tʃíli(米国英語), ˈtʃɪl.iː(英国英語)/(寒くて震えるほど)冷え冷えする、うすら寒い、ひんやりとした、寒けがする、冷淡な、冷ややかな、ぞっとさせる、スリラーの
解釈
砧の歌は多く詠まれてきたが、この一首さびさびとした秋風の中に、一点の艶をひそめている。「ふるさと」に古京の味わいがあることと、結句につづく語調のかげに、遠く在る夫を想う孤閨の寒さを、『和漢朗詠集』などの詩賦と重ねて感じ取ることが一般化していたせいもあろう。
「世の中は変わらずにあってほしい」と言う源実朝の歌とペアになるのは、都の貴族藤原雅経です。
「都」はどうなっているのか? この歌の「ふるさと」は「生まれ故郷」ではなくて、「古い都の跡」です。奈良県の吉野には、古く「都」がありました。そこに天皇が別荘を作ったからです。天皇がいれば、そこは「都」です。だから、天皇の別荘――つまり離宮のあった吉野は「古い都」なのです。
古い都は秋風の中、寒い冬に向かっています。「都」なのになにもなく、夜に聞こえるのは、衣を打って柔らかくするための砧(きぬた)を叩く音だけです。しんとしたこの「古都」の様子が、藤原定家にとっては、「現在の都のイメージ」でもあったのでしょう。「ふるさと寒く」は印象的です。
感想
一度、吉野に行ったことがあります。きっと万葉の頃と変わらない山と川がそこにありました。
み吉野の象山の際の木末にはここだもさわく鳥の声かも
みよしののきさやまのまのこぬれにはここだもさわくとりのこえかも
山部赤人
滝の上の三船の山に居る雲の常にあらむとわが思はなくに
たぎのうへのみふねのやまにいるくものつねにあらむとわがおもわなくに
弓削皇子
実際に行ったことがある人以外にも、その風景があるものを詠むと、三十一音を超えた情報量を盛り込めますね。そこに視覚情報以外の音まで加えちゃうとか、贅沢な感じ。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。