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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(九七、九八)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

九七.権中納言定家(ごんちゅうなごんていか)

来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに
焼くや藻塩の 身もこがれつつ

(こぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに
 やくやもしおの みもこがれつつ)

現代語訳

来ぬ人を 松帆の浦は 夕凪ね
藻塩を焼くわ 私もジリジリ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Pining for you 
who does not come, 
I am like the salt-making fires 
at dusk on the Bay of Waiting-- 
burning bitterly in flames of love.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

pining / ˈpaɪnɪŋ(米国英語)/pineの現在分詞。(…に)思いこがれる、 (…を)恋い慕う
dusk / dˈʌsk(米国英語)/(たそがれの)薄暗がり、夕やみ
bit・ter・ly / bíṭɚli(米国英語), ˈbɪtɜ:li:(英国英語)/ひどく、痛烈に、苦々しそうに、身を切るように

解釈

 塩焼くようにふすぶる恋の悶えを、淡路の歌枕「松帆」に寄せてうたっている。余情妖艶の歌風を理想とした定家の自選歌であり、古来の百人の秀歌に比肩して見劣りしない歌として自負した一首。松帆の浦に塩焼く乙女を歌った万葉長歌を本歌としている。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

定家自選の歌。万葉集からの本歌取り、それも長歌の、というのがにくい。過去と未来をつなぐ百首ということだろうか。

九八.従二位家隆(じゅにいいえたか)

風そよぐ ならの小川の 夕ぐれは
みそぎぞ夏の しるしなりける

(かぜそよぐ ならのおがわの ゆうぐれは
 みそぎぞなつの しるしなりける)

現代語訳

風そよぐ 御手洗川(みたらしがわ)の 夕暮れだ
禊は夏の しるしだったなあ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

A twilight breeze rustles 
through the oak leaves 
of the little Nara River, 
but the cleansing rites 
tell us it is still summer.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

twi・light / twάɪlὰɪt(米国英語)/(日の出前・日没後の)たそがれ(時)、薄明、薄暮、(薄明に似た)微光、(全盛期・栄光・成功の後の)たそがれ(の状態)
rus・tle / rˈʌsl(米国英語)/さらさら音を立てる、さらさら音をさせて動く、動き回る、活躍する、牛を盗む
oak / óʊk(米国英語), ˈəʊk(英国英語)/オーク、オーク材、オーク材の製品、(大学の)堅固な外扉、オークの葉
cleansing / ˈklɛnzɪŋ(米国英語), ˈklenzɪŋ(英国英語)/cleanseの現在分詞。清潔にする、 洗う
rites / raɪts(米国英語)/(宗教的な型どおりに行なわれる荘厳な)儀式、祭式、儀礼、典礼

解釈

 上賀茂社の神域深く、ならの小川はいまも水豊かに澄んでいる。六月祓(みなづきばらえ)のみそぎが終れば、もう秋はすぐそこだ。山近い上賀茂は、秋の気配も早い。川のせせらぎの音もきこえるばかり、律の美しい歌である。一首は屛風歌として詠まれたものだが爽涼の実感がある。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

夏の儀式であるけれども、風、川、夕暮れと涼やかさを強調している。浄化の儀式、昔は、衣を新たにする民間儀式であったともされる。爽やかさで、夏であることを忘れそうになる。このnoteを書いている6月末、昨今の猛暑の気配がすでに伝わってきているけれど、こういう歌の気分でやりすごしたい。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。