![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/144710433/rectangle_large_type_2_57d775b0bb60b731790426cf2af5eb56.jpg?width=800)
百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(九五、九六)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
九五.前大僧正慈円(さきのだいそうじょうじえん)
おほけなく うき世の民に おほふかな
わがたつ杣に すみぞめの袖
(おおけなく うきよのたみに おおうかな
わがたつそまに すみぞめのそで)
現代語訳
だいそれて 世の人のため 頑張るよ
いま叡山で 修行始めだ!
英訳
Though I am not good enough,
for the good of the people,
here in these wooded hills
I' ll embrace them with my black robes
of the Buddha's Way.
解釈
慈円は良経の叔父に当り、天台座主に四度も就任した。一首は伝教大師が比叡山を開いた時の歌「阿耨多羅三藐三菩提(あくのたらさんみゃくさんぼだい)の仏たちわか立つ杣に冥加あらせたまへ」に拠っている。「わがたつ杣」は寺を立て宝塔をかかげるべく木を伐り出したことから、比叡山の別称となった。
「おほけなく」は「だいそれて」です。「だいそれたことだが、つらい憂き世の人の上に墨染めの袖を広げるよ」です。「わがたつ杣」とは、延暦寺のある比叡山のことで、「私は比叡山で、仏教修行の墨染めの衣の袖を広げます」です。つまり「世の人を救うために、これから比叡山で修行をするぞ!」と決意する歌です。百人一首の中でも例外的な、「とても真面目で前向きな歌」です。「慈円なら他にいくらでもいい歌があるのに、なんでこんな歌を選んだんだ?」と言う人もいます。きっと定家は、選びたかったんでしょう。
感想
こんな大層な宣言をするのは、当時でも、まして今では、はやらないだろう。でも、何かくだらないことを大仰に宣言するのは、あるかもしれない。俵万智さんあたりが詠んでそうな気がする(すぐ見つけられなかった…)
九六.入道前大乗大臣(にゅうどうさきのだいじょうだいじん)
花さそふ あらしの庭の 雪ならで
ふり行くものは わが身なりけり
(はなさそう あらしのにわの ゆきならで
ふりゆくものは わがみなりけり)
現代語訳
満開の 嵐の庭は 雪のよう
そこに降るのは 自分自身だ
英訳
As if lured by the storm
the blossoms are strewn about,
white upon the garden floor,
yet all this whiteness is not snow--
it is me who withers and grows old.
lured /lʊrd(米国英語)/ lureの過去形、または過去分詞。誘惑するもの、 魅惑、 魅力
strewn / ˈstrʊən(米国英語), stru:n(英国英語)/(…に)まき散らす、ばらまく、(…に)ばらまかれている
解釈
紛々たる春の落花に老いを歎く歌は、業平の「さくら花散りかひくもれ老いらくのこむといふなる道まがふがに」が想起されるが、業平の浪漫性に対し、これは老いをみつめる沈静な詠歎をもっている。
前大僧正慈円の「真面目で前向きな歌」とペアになるのは、この歌です。満開の桜の咲く庭に、激しい風が吹き出しました。つられて、桜の花びらが雪のように降りしきっていきます。それを見て、この作者は思うのです――「これは雪じゃない。自分自身だ」と。
栄華の末に、壮絶華麗に散っていく自分――それは豪華ではあるかもしれないけれど、でも「むなしい終わり」でもあるのです。そのように、この作者は言っているのです。
感想
降る雪を自分に例えるって、すごいな。古るにかけてるんだろうけど。何かひらがなにした時の動作がかぶるものがあれば、俺も、雨、風、雲、木、石、に例えてみようかな。もう使い古されてるだろうけど。詩を読むと今でも、そういう単語の持つイメージや、連想が生きている。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。