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【エッセイ】一人だけのお墓まいり

 今日は不燃物ゴミの日。そして私は不燃物回収場所の立ち当番。地区で順番に立ち当番をしている。早起きをし、早朝、不燃物回収場所に行くと、すでに缶、ガラス、電池、陶器などが分別ボックス入れられていた。私の担当時間は30分間。その時間内で、不燃物を持ってくる住人と会話をしながら、分別ボックスに不燃物を入れてもらう。


 ある高齢の男性がやって来た。挨拶をされたが、どなたかわからなかった。

「いつもおばあちゃんにはお世話になってます。最近は姿を見ないけど元気ですか」という。

母の知り合いのようだった。

「もう94歳になり、あまり外に出ないんですよ」

そんな会話から始まった。

「以前、お彼岸やお盆でお墓まいりに行くと、毎年、ウチのお墓に花が飾られていて、妹でも来ているのかと思っていたんですけど、ある年に、お宅のおばあちゃんが花をウチのお墓に飾っているところに出くわしてね。お線香も立てていましたよ」

私は全く知らなかった。思い返すと母はお彼岸やお盆にはたくさんの花を手押し車に乗せて、お墓詣りに行っていた。

話はさらに続いた。

「おばあちゃんは、ウチのお墓だけでなく近所のお墓にも花を飾ってましたよ。なかなかできないことですよね。おばあちゃんによろしく伝えてくださいね」

そう言うと、空き缶を置いて帰って行った。

そうだったのか、母はお寺に行くと、父のお墓だけでなく、近所の方のお墓にも花を飾り、お線香を立てていたのか。

知らなかった。歳を重ねて、あまり外に出ず、家にいることが多くなった母だが、誰にも言わず、一人でそっと多くの方の供養をしていたんだ。何か胸が熱くなり、すぐにでも母に会いたくなった。

立ち当番終了まであと10分だ。


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