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41.手品の種は秘密中の秘密なのだ

オトンの趣味は手品をしてみんなを喜ばせること。
私が小学生の頃、子供会のイベントがあると、
体育館で全校生徒の前で手品ショウを披露していたオトン。

大きなトランプが手の中でどんどん小さくなっていったり、
火のついたタバコを飲み込んだり、
ステッキでたたくと、ヒヨコが生まれたり…。
シルクハットの中に生卵を落として、そのままスッポリ被るのが
クライマックスの芸だった!みんな固唾を飲んで見守る中、
オトンは見事にシルクハットの中の生卵を消すことに成功する。

一度だけ、髪の毛が卵まみれになって家に帰ってきたオトンを
見たことがあるが、大概は成功して拍手喝采をあびていた。
私の結婚式にも新婦の父として、手品を披露してくれた。
あのときは、大人のお客さんに大ウケで、上機嫌だったな。

そんなオトンが、全然手品をしなくなって
どうしてかなと思っていた。
目が見えなくても、ネタによってはできる芸がある。
デイサービスの方からも、ぜひまたやってほしい
と何度も言われていたが、そのたびに、オトンは
今はお休みしていますと、辞退していた。

この間、オトンがオカンに、手品の種はどこへやった?
と聞いているのを小耳にはさんだ。
オカンは、例によって「そんなん知らんで」。
それでピンときた。
そっか。手品の種をオカンが管理していたのだが、
どこかにやってしまってわからなくなっていたのか。
オトンは、昔から私たち子供には絶対に種をみせてくれなかった。
とはいえ、もうこんな年になったんだし、言ってくれればいいのに。。。

納戸の奥に仕舞われた、手品と書かれた段ボール箱を取り出す。
これは絶対に開けてはならぬ、パンドラの箱。
ドキドキ…。
中を開けて見ちゃうもんね!

オトンが言っていた種を探して渡したら、
「これが欲しかったんや」と
めずらしく感情を表に出して、大喜び。
今日、デイでみんなに披露したらしく、
ケアマネさんからも、今日はとても楽しかったです!
と、喜ばれた。
夕飯のときに、オトンから、「ありがとう」とまたお礼を言われた。
本当にうれしかったんだナ~。

ところで、この年になって
子供の頃、すっごく不思議だった、
手品の種がわかってしまった。

シルクハットに生卵の謎。
「なるほど!」

トランプがどんどん小さくなる理由。
「ふむふむ~。」

スポンジのヒヨコが子供を産む謎。
「はは~ん。」

何も持っていない手から突然ハンカチが出てくる手品。
「な~んだ。」

箱を開ける度に、にんまりほくそ笑む私。
オトンを見る尊敬のまなざしがちょびっと変化。

だから、オトンは、私に種を見られるのが嫌だったのかな?

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