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46.オトンと涙

今朝、食卓にオトンのお箸を置くのを忘れた。
オトンがご飯を手づかみで食べ出したのを見て
ピキっと、私の中の何かがキレた。
オトンに
「お箸なかったら、ないっていってよ!
動物違うねんから手で食べんといて!」
と叫んで、お箸を渡した。
すると、普段温厚なオトンがめずらしくキレた。
お箸を床に叩きつけると、
部屋の扉をバタン!と閉めて出て行った。
寝室に入ると、すでに
オカンが布団を畳んでしまっていたので、
オトンは畳の上でごろりと寝転がる。
「寝る!」
と言って、そばにあった毛布をかぶった。

あ~あ。
こんなにオトンが怒るなんて本当に珍しい。
ほっておこうかとも思ったが、
ちゃんと伝えておかないといけない
と思い直して、オトンと対峙することに。
オトンの耳元で(オトンは耳も悪い)
「ごめんね。お箸を置き忘れて悪かった。
許して」
とあやまった。
オトンの怒りはこれくらいではおさまらない。
子供みたいに激高したまま。
それで、もっと自分の素直な気持ちを言うことに。
前の仕事を全部捨てて、介護のために
日本に帰省してきたこと。
それを後悔していないこと。
オトンの介護は、オトンがいろいろなことを自分で
我慢したり、なるべく他に迷惑をかけないよう
務めてくれていることで、随分楽で助かっていること。
認知症でおかしい行動をとるオカンにも
オトンは文句いわず従って、波風をたてないように
していること。
オトンはすごいよと褒め称え、ねぎらった。

そして、自分でもびっくりしたけど、
オトンをぎゅっと抱きしめて
「ありがとう」
と言った。
オトンの心が、溶けていくのがわかった。
オトンも
「介護に戻ってきてくれて、ありがとう。
これからもよろしく頼む」
と言って、お互い涙した。

お箸を置き忘れただけなのに、
なんか変な朝。
食卓に戻ると、オカンが、
「なんかあったん?」
と聞いてきたけど、
「別に」
と答えた。

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