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あにの 学童クラブの話

 幼い頃あには運動と集団行動が苦手でした。

 小学生になったあに少年。母はあに少年の小学校入学を機に仕事を始め、おとおとは保育所へ、あには放課後は学童クラブへと入れられました。

 放課後の遊び盛りの小学校1年生から3年生数十人を集めた学童クラブ。それを数人の先生で見なくてはいけないのですから、今思うとなんと恐ろしい仕事なのでしょう。
 必然的にドッチボールやキックベースなど、集団をまとめやすく、なおかつ子どもたちの体力を削るような遊びが行われることが多くなります。

 あには学童クラブが苦手でした。


 ある冬の放課後。あと少しで2学期も終わりというある日。とある若者たちのカリスマロッカーの逮捕がテレビのニュースを騒がせていた頃。学童クラブの先生が「みんなで小学校の校庭に行って遊ぶので何をするか決めましょう」といい出しました。

 学童に通うわんぱくボーイたちは「サッカー」「キックベース」「ドッヂボール」など、定番の競技を挙げていきます。

 あに少年は嫌でした。

 運動とかしたくないし。

 失敗したらまた責められるし。

 僕はなかよしの立川くんと先週のドラえもんの話をしたり、絵を描くのが上手な安倍くんと一緒にお絵かきをしたりしたいのに。

「他になにかやりたいことがある人はいませんか?」

 先生が話をまとめに入りました。
 このままではどれに転んでもまた運動をさせられてしまいます。

 あに少年は人前で話したり、発表したりするのも苦手でした。

 しかし、意を決して手を挙げたのです!

「せんせい!」

「はい、あにくん」

「じゆうがいいです!」

 その瞬間、いつも不機嫌そうな先生の眉間にシワが寄ったのがわかりました。

「……あにくん」

「はい!」

「自由って、いったいなんでしょうね」

「はい?」

 先生、どうしたの?

 あにの周りにいる子がざわつき始めます。

「キックベースやドッヂボールをやる時、先生はあにくんを鎖で縛ったり、閉じ込めたりしていますか? それは自由ではないんですか? 自由っていったいなんですか? どうすれば自由になれるんですか?」

 いつにない先生の圧に、あに少年返す言葉がありません。

 周りに座っていた2年生、3年生の先輩たちが小声で

「あにくん! 遊具って答えとくんだよ! 石山でもジャングルジムでもいいから!」

 とアドバイスをくれます。しかしそれこそあに少年の求める自由ではありません。時には友と語らい、時にはお絵描きをしたり、思うようにやりたいことをやりたいのです。その中には遊具も含まれるでしょう。しかし「遊具で遊ぶ!」と決めてしまうとそれはもう、あに少年の求める自由ではなくなってしまうのです。

 なんてことが頭の中でぐるぐると周り、体感では数分、実際は数秒の間をおいたあと、あに少年はポツンと「……ゆうぐ」と答え、無事苦手なドッヂボールに参加しないという選択肢を得ることができました。

 あに少年。小学校1年生。

 人生で初めて、自由とはなにか、そして自由とそれにともなう責任を考えた日のお話でした。


 それではみなさま、最後にこの曲でお別れしましょう。

尾崎豊で「Scrambling Rock'n'Roll」

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