鮑素麺に水貝、あなざく、夏の定番料理も年々少しずつの進化を
お盆休みが過ぎて、少しずつ昼夜の気温が下がってきました。東京は、夜もだいぶ涼しくなってきて、秋の気配を少しずつ感じている今日この頃です。
こんにちは、乃木坂しんの料理長、石田伸二です。
8月は、5日(金)から8日(月)の4日間、今回で11回目になる器の会を、京都のガラス作家、杉江智さんをお迎えして開催いたしました。普段の献立では、さまざまな作家さんの器を使って盛り付けていますが、器の会では、お招きした作家さんの器だけですべてのお料理を盛りつけています。
これまで、漆器だけの器の会はありましたが、ガラスの器だけは初めて。見た目が透明ということとともに、熱伝導がよく割れやすいガラスは、普段の料理に比べると制約も多く苦労しました。
しかし、それがかえって新しい発想にも繋がるもので、お客様には、普段とは違った乃木坂しんのお料理をお楽しみいただけたのではないかと思っています。
夏の名残を料理で感じていただきたい
葉月(8月)は、乃木坂しんで毎年恒例になっている料理が多くある月です。鮑素麺に鮑の水貝、鮎の塩焼き、穴子の酢の物のあなざくなどです。ほかの料理についても、器の会の開催も決まっていて早くから献立の内容を考えていたこともあり、試食会でも大きな流れは変らず、微調整程度で完成した献立です。
たとえば、あなざくのあなごの切り方を、三杯酢との相性を考えて試食のときよりも細く変えたり、鮑素麺の泡を少し抑えめにして、出汁と鮑ときれいに混ぜ合わせて食べていただくことを意識するようにしています。
乃木坂しんにとって夏の定番料理も、毎年少しずつですが進化をしています。夏の名残を感じに、ぜひいらしていただけたら幸いです。
Youtubeチャンネルでは、真剣な試食会の様子をアップしています。あわせてご覧ください(チャンネル登録もよろしくお願いします)!
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先附|鮑素麺 肝ダレ
真っ白いクリームのような泡は、鮑で作った泡です。その下に素麺と鮑の肝ダレが隠れています。素麺は、白髪素麺と呼ばれる極細の素麺。鮑の肝ダレは、裏ごしした鮑の肝に、二番出汁をほんの少し足して伸ばしてから、お醤油で味を調えています。それを、混ぜながら食べていただくお料理です。
鮑の泡は、冷凍した鮑をすりおろして鮑の出汁を加え、空気を含ませながらミキサーで攪拌して作っていきます。今年はこの泡を少なくして、泡の存在感を控えめにしています。こうすることで、口当たりが素麺の要素が強くなり、鮑や肝ダレの良さを感じやすくなったと思っています。
蓋つきのつるべ型容器に氷を張り、その上に載せたガラスの器に盛り付けています。つるべというのは、昔の釣瓶井戸の形から来ているもので、夏らしい涼しさを感じていただけると思います。
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前菜|炙り大穴子と胡瓜、三杯酢
岩手県大船渡市に揚がる1㎏サイズの大穴子を炭火焼にしました。とくに大穴子は、煮るよりも焼く方がおいしいと思っていることもあり、炭火焼した穴子にキュウリ、三杯酢をあわせたシンプルな仕立てです。
味がしっかりした大穴子を食べていただきたいので、三杯酢を強くしすぎて、穴子の味を消さないことがポイントです。漬け込むというより、最後に和えるイメージで作っています。
キュウリは、大きめに切ってから塩を振ってしっかりと水分をしぼって抜いてから使っています。この方が、かえってみずみずしくなって、食感もよくなります。これでもかというくらいまで、しぼって水抜きするのがポイントです。
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椀物|鱚の一夜干しと蓮根餅、ミニオクラ
「蓮餅をお椀にしたい」という発想から生まれた料理です。そのなかで、夏なら枝豆がおいしいだろうと思い、枝豆蓮根餅にしました。
鱚は、一夜干しというより、ひと晩風にあてたもので半生な状態です。お出しする前に両面を炭火にあてています。半生の身のやわらかい食感は独特で、味わいも適度に凝縮していて生とは違う良さがあると思います。お出汁は、鰹節と昆布の一番出汁を使っています。
いつも作る蓮餅は、玉素(卵黄に塩、油をいれて攪拌したもの)を合わせて生地を作ります。普通ならここに枝豆を混ぜ合わせますが、今回は、すりおろした蓮根に葛と湯がいた枝豆を合わせてお鍋で練り合わせ、粘りを出してから型に流して固めたものを揚げて仕上げています。
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造り|水貝(鮑、茗荷、白瓜)
先月に続いてお造りのひとつは、伝統的な生の鮑のお料理の水貝です。塩で余分な水分を抜いて角切りにした鮑を、茗荷や白瓜とともに塩水に浮かべて、それを肝ダレにつけて食べていただきます。
つけダレは、お醤油や三杯酢にするお店もありますが、より鮑を味わっていただけるように鮑の肝に純米酢と濃口醬油と味醂、酒を合わせ弱火で火入れした肝酢ダレで召し上がっていただきます。
毎年夏の定番になっている水貝も、大きく仕立てを変えていません。しかし、塩水の塩分濃度を去年に比べて強めにしたり、肝ダレの酸味をしっかり出すようにしたりと、鮑自体の味わいをどうしたらより感じてもらえるかを考えながら、少しずつ良くしていっています。
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造り|盛り合わせ
マグロ胡麻ポン酢山葵・苦瓜おひたし、アオリイカと紅芯大根・スダチあんとふりスダチ、鰯酢〆ともずく酢、鱧焼き霜に煎り酒ゼリーと花穗
お造りの盛り合わせも、年に一度8月にやっているものです。
マグロは、試食では昆布締めにしたものを胡麻ポン酢につけて、あしらいの苦瓜のお浸しとともに食べるようにしていましたが、比較的強い味の胡麻ポン酢があるなかで、マグロに昆布締めをして風味を足す必要ないのではないかということを話し合い、昆布締めをやめました。そのかわり山葵を合わせてあります。これがとてもよく合うと思っています。
身に塩を当て、皮目は熱い炭に当てただけの鱧は、煎り酒ゼリーと花穗(紫蘇の花)で食べていただきます
アオリイカは、甘味を出すように両面に切り目を入れ、蛇腹切りにした紅心大根に酢橘の餡をかけた上に盛り付けています。
酢〆にした鰯は、下に細く刻んだ針生姜ともずく酢が隠れています。
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焼物|鮎塩焼き
先月に続いて焼物は、鮎の塩焼きです。
長野県から愛知県、静岡県を流れる天竜川のなかでも長野県で獲れた鮎の塩焼きです。頭と腹、尻尾を3口に分けて召し上がってみてください。同じ鮎ですが、一口ひと口の印象が違うことに気付いていただけると思います。
というのも、鮎を串打ちし焼き台で焼き始めるときに、頭の方を下げ、しっぽを上げて斜めにして焼いています。こうすると熱を加えてできた脂が、頭の方に溜まっていき、頭はから揚げのように火が入ります。そして、腹は炭火で塩焼きに、尾は熱風をあてて干したような焼きあがりになるのです。ぜひ3口でお楽しみください。
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八寸|冬瓜とトマト出汁、カマス炙り棒鮨
とうもろこし天ぷら、鱧の子の煮凝り
「乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」という思いを込めて作っている八寸。今月もいろいろな食材をとり揃えました。
お造りが、今月は盛り合わせだったこともあり八寸はシンプルにしています。
鮎塩焼のお凌ぎとして、冬瓜とトマト出汁を用意しています。さっぱりとお召し上がりください。
ほかには、カマスを炙った棒鮨、とうもろこしの天ぷら、写真にはありませんが、鱧の卵があるので、鱧の子の煮凝りを追加で加えています。
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強肴|天草鰻かば焼き、無花果白和え
熊本県天草で養殖されている大きな鰻を蒲焼にしました。あしらいには、無花果の白和えをお付けしています。
蒲焼は、白焼きをしてからタレにつけて焼いています。蒲焼では、白焼きが大切で、白焼きをしっかりせずに中途半端ですと、タレがしっかり身に定着せずに流れてしまって味がついていきません。もちろん照りもつかないので、しっかり白焼きをすれば、タレを2度かければ十分な仕上がりになります。
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鍋|鱧と玉葱鍋仕立て、実山椒
鱧とタマネギの鍋仕立てです。鱧の骨の出汁に追い鰹でとった出汁に、冷凍しておいたタマネギを加えて鍋仕立てにしています。
タマネギは、冷凍にしておくのがポイントです。その方が甘味が出やすく、やわらかい食感になるからです。イメージは、くたっとしたオニオングラタンスープのような食感です。
濃口醤油と味醂を加えて味を整えていますが、それらはあくまで上味。鱧の出汁とタマネギの甘味を食べていただきたい料理です。
カウンターのお客様には、目の前で鍋仕立てにし、お部屋のお客様には、画像のような蓋物にしてお出しさせていただきます。
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食事|すっぽん玉子とじ
または蕎麦米雑炊、または鯛の滋味造り
すっぽんの卵とじをやることは、じつは7月から決めていました。6月頃からスッポンを使いたかったのですが、さすがにまだ早い(笑)。7月でもまだ早いと言われてきたなかで、ようやく今月、すっぽんの玉子とじをお出しできることになりました。
僕自身、すっぽんの卵とじが大好きなんです。修業時代のお店でも出していた料理で思い出もあります。スッポンが旬になってきたら、焼いたり鍋仕立てにしてもいいですが、今のこの時期は、あえてメインっぽくしなくてもいいと思っています。
すっぽんで、夏の最後を乗り切っていただけたら幸いです。
なお、毎月の玉子とじと同じ考え方でご家庭でも再現しやすい親子丼の作り方をYouTubeで紹介しています。ご興味ある方はご視聴いただき、ぜひ作ってみてください。
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西瓜ゼリーと塩アイス
水わらび(シャインマスカット)
塩アイスは、バニラアイスに塩を加えたもの。スイカのゼリーは、カンパリを少しだけ加えてあります。
スイカには甘味を足していない分、アイスの塩味で甘味の輪郭を出していくイメージです。また、わずかに加えたカンパリの苦味が、全体の味を引き締め、よりスイカの甘味や香りを感じさせるアクセントになっていると思います。
水わらびは、酢橘のジュースにわらび餅を浮かべたもの。瓶詰にしてありますので、そのままお持ち帰りもしていただけるようになっています。
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今月も、魅力的な様々な食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。
「乃木坂しん」店主 石田伸二
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構成・文・撮影=江六前一郎