ひと席の余白から(2023年秋、坂道シリーズに思う)
■「齋藤飛鳥卒業コンサート」
2023年10月25日、「齋藤飛鳥卒業コンサート」のBlu-ray/DVDが発売された。同年5月の開催から5ヶ月強というスピード感でのリリースであり、おそらくソフト化されると思われる「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」を追い越す形であったことにもなる。2023年5月17日と18日の2日間の開催で、東京ドームでのライブチケットには合計で63万の応募があったという。それだけの熱量をもって臨まれ、迎えられたコンサートだったからこそであろう。
いまさら語るまでもなく、1期生(あるいは、「1・2期生」ということにもなるか。今年のツアーでは、3期生だけでなく4・5期生も、「後輩だけで回る最初のツアー」のような言い方をしていた)最後の卒業コンサートである。前稿「思い出という名の守護神(2023年夏の坂道シリーズに思う)」にも書いたように、卒業していった1期生メンバーのことを思わせる演出や語りが随所になされていたことはもちろん、「グループが輩出したスターを大歓声のもとで送り出す」というのは、白石麻衣以降、“声出し解禁”前における卒業の区切りのライブでいえば樋口日奈(2022年10月31日「樋口日奈卒業セレモニー」)までなかったことで、マスクの着用についても任意とした、“通常”に戻ったレギュレーションのもとでは初めてのことであったし、「卒業コンサートを東京ドームで」というのは、白石が見せてくれた夢であり、コロナ禍でつかみ損ねた幻でもあった。
「卒コン、本当にやります?」という思いもあった(1日目アンコールMC)という飛鳥だが、でも、“卒業”以外にもそんな大きな意味合いのあったライブだったから、それをほかならぬ飛鳥が担うことにも意味があっただろう。2日目の影ナレでは、「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」でも登場した乃木坂46LLC代表・今野義雄に加え、チーフマネージャーの菊地友までが登場して思いを語る場面もあった。
ひいき目や誇張ではなく、日本最大の女性アイドルグループになっているといっていい乃木坂46。だが、その商業的成功の規模に比すれば、ややウェットに思えるような熱さを、“運営”から感じることもままある。63万人以上ぶんのファンの熱だけでなく、そうした思いまで受け入れて、ステージに立ってそれを形にする。それって間違いなく、やっぱりスターだな、と思う。
■ “連れていってもらった”場所
乃木坂46としては3回目となる東京ドームでのライブ。5期生にとっては初めて立つ東京ドームのステージということでもあったが、3回とも出演している3期生でも、久保史緒里が「本当、東京ドームに飛鳥さんに連れていっていただいたなっていう感覚で」(「乃木坂46のオールナイトニッポン」2023年5月24日)と語るように、飛鳥(先輩)あっての東京ドーム、という感覚があったようである。ファンとしては、そんなこともうないよ、とも思うのだが。
これに続いて(卒業コンサート時点ですでに日程は発表されていた)開催された「真夏の全国ツアー2023」は、公演数は過去最多タイ、会場数(都市数)は過去最多、そして明治神宮野球場での4公演も過去最多であり、「最大規模のツアー」という肩書きを引っさげて行われた。
最終地の“神宮”、初代キャプテン・桜井玲香の「絶対に皆さんを後悔させないようなグループになります、どこのグループにも負けないようなグループになります、だからずっとずっと、乃木坂のことを愛し続けてください!」から8年。前年には「未来を担う後輩たちのために」という1・2期生の計らいによってつくられたライブがあり、そして数ヶ月前には、“連れていってもらった”東京ドーム公演もあった。
あの日そこに誰もいなかったメンバーたちが、「私たちが乃木坂46です」と宣言するための、16公演の旅路。事あるごとに「次世代」「新時代」「世代交代」みたいな言葉が渦巻いてきたグループの歴史。そこにメンバーの手によって、本当の新しい時代が書き加えられた瞬間であった。
いつも通り連想ゲームで話が飛んでしまうのだが、櫻坂46・菅井友香にとって卒業の区切りのライブとなった東京ドーム公演(「2nd TOUR 2022 “As you know?”」東京公演、2022年11月8-9日)から、もうすぐ1年が経とうとしている。ツアーファイナルとして設定された公演であり、本編までのセットリストはそれまでの公演と共通であったが、菅井の卒業公演としての色も強く、このときにも菅井に“連れていってもらった”という語りが多かったと記憶する。
改名を経た櫻坂46としては初めての東京ドーム公演であったし、大沼を含む、坂道研修生での活動を経て加入した、いわゆる“新2期生”にとっては、欅坂46時代の東京ドーム公演(2019年9月18-19日)は加入前(坂道研修生時代)の出来事であった。そうした経緯も踏まえると、“連れていってもらった”という語りは、いちファンである筆者の感覚とも合致しやすい。
11月の平日2日間という日程もあり、東京ドームを満員にできるかどうかはやや微妙なラインで、結果として1日目はわずかだが空席が確認できる程度であったと記憶する。2日間会場にいた肌感覚としては、「欅坂46を見にきた」というモチベーションの観客も相当数いた感じがあった。
チケット一般発売の前日にはトレーラーの動画が公開されたが、そこでは櫻坂46のOVERTUREとともに欅坂46のOVERTUREも用いられ、欅坂46時代の映像も多くとりまぜられていたほか、[fusion]の文字も躍っていた。
前述のように、ライブ本編のセットリストはツアーのそれまでの公演と共通であり、欅坂46の楽曲はアンコールで2日計6曲が披露されるにとどまった。このときすでに、1期生の卒業の際には欅坂46時代の楽曲を披露することは定番のような状態になっており、そこから外れるものでもなかったといえる。
卒業の区切りに東京ドームの扉をこじ開けたのが菅井の執念であったとするならば、「欅坂46を見にきた」観客にフルサイズの櫻坂46を見せたことも、その形を前提としつつ、そのなかであらゆる手段をつかって集客に努めたことも、そうしてほぼ満員までもっていった会場のステージに、“新2期生”とともに立ったことも、すべてが菅井の執念であったのだと思う。
■ 欠けた虹
「会場が満員にならなかった」ことがプラスにとらえられることはほぼないだろうが、グループにどんなに人気と勢いがあったとしても、あらゆるチケットがすべてプラチナチケット、というのも、それ自体が望まれることではない、というような感覚が、いちファンとしてはある。
坂道シリーズ(特に櫻坂46、日向坂46)は首都圏に強い地盤をもち、東名阪を離れるとやや集客が鈍る印象がある。全国ツアーでは、座席の位置にこだわらなければ直前までチケットが買える会場もある。それでも、逆に“ガラガラ”のようになってしまうケースは見受けられない。チケットの売り方(先行抽選と一般発売のバランス、みたいな意味だ)の部分ももちろんあるのだろうが、動員数をきちんと読めているということでもあろう。
CDについてきた全握券を握りしめて会場に行けば(あるいは手ぶらでも会場で購入すれば)、長時間並びはするものの“現場”には入れる、という状況でなくなってずいぶん経つ。全国ツアーとして数多くの会場/公演数でライブを行うのであれば、新たなファンの入口になってほしいとも思う。そのためには、「ふと思い立ったときにチケットが買える」という状況にも、意味は大きい。
残すところ追加公演のみとなった、日向坂46の「Happy Train Tour 2023」では、地方公演の終盤で「会場が満員になっていない」ということが話題とされた。
これは宮城公演のあと、翌週の最終地・福岡公演を控えた状態で発信されたブログで、「無理はしないでね」と遠慮がちではあったものの、福岡公演をPRする趣旨のものでもあった。
宮城公演は10月6日(金)・7日(土)、福岡公演は10月14日(土)・15日(日)という日程で、美玲が「席が空いてしまっていた」というのは10月6日のことを指している。筆者はこの4公演とも会場にいたのだが、特に宮城公演は一般発売を待たずにチケットが手に入っていたのでソールドアウトしていないとは知らず、上のほうの席で上下1ブロックずつくらい黒いシートがかかっている様子を見て、「客席の作り方、こんなふうだったっけ?」とぼんやり思っていた気がする。平日の地方公演なので激しい争奪戦になるほどではないにしても、空席を残したまま当日を迎えるとは予想していなかった。
見るからに寂しい感じの様子ではもちろんなかったし、「告知することで変わってたのかな?」ということでいえば、何ふり構わず宣伝攻勢をとっていれば埋まった程度の席数であったようにも思う。
ただ、ひとつ記憶に留めているのは「JOYFUL LOVE」のときのことである。いわゆる「虹色大作戦」は空席を想定しないで行われるため、当該のブロックが含まれる桃色と紫色が欠けていることがはっきりとわかる状態であった。
「ひらがなくりすます2018」から5年、何十回と客席に虹がつくられてきた日々のなかで、うまくペンライトが揃わなかったりしたことこそあれ、“虹が欠ける”ことは想定されたことがない、メンバーもファンもそこを疑ったことがなかったのではないだろうか。あの日の客席を思い出すと、そんなことに気づかされる。
メンバーにはひと晩寝て起きたら忘れていてほしい程度の、ちょっとした巡りあわせの問題だったかもしれないけれど、確かに美玲が綴った通り、いくぶん悔しい光景だったようにも思う。
ちなみにその後の福岡公演については、「席が埋まらなかったんです」という語りでまとめられており、メンバーとしてはそのような認識となっているのだと思う。ただ、美玲をはじめとするメンバーによる発信の効果もあってということかもしれないが、2日とも最上段のブロックに1列程度の空席を一応見つけられる程度で、客席にはいつも通りのきれいな虹がかかっていたことを書き添えておく。
■ 空席との向き合い方
同じような状況は、櫻坂46の「3rd TOUR 2023」でもみられた。4月の東京公演からスタートしたツアーは、翌週の愛知公演、大型連休中の福岡公演を経て、少し空いて5月下旬に神奈川公演、そして最終地となる大阪公演が行われたが、大阪公演1日目のチケットが完売していないことについて、メンバーからの発信が相次いだ。
結果としてこのときは、この大阪公演1日目のチケットは完売に至っている。
櫻坂46の地方公演はもともと一般発売でも買える印象があり、平日であればなおさらである。前年の「2nd TOUR 2022 "As you know?"」の際には、メンバーからそこまで強い発信はなかったものの、グループとかかわりの深いグランジ・遠山大輔が激烈に宣伝していたと記憶している。
乃木坂46についていえば、全体のライブでは近年こうした状況はほぼないが、今年のツアーで初めて開催された沖縄公演は直前でも一般発売のチケットが購入できる状況であった。
会場に入ってみると、両日とも空席となっているのがどこか見つけることも難しいくらいであり、初の沖縄公演にあって(“遠征”のハードルがいくぶん高い場所ということもあり)、「行きたいがチケットが手に入らなかった」という現地のファンをつくらないことに成功したといえるラインだったのではないだろうか。
会場が大きかった時期までの「真夏の全国ツアー」や、ステージバック席が設けられるようになった頃のバースデーライブなど、以前は当日券が出る状況も散見されたものの、近年はそれもほとんどなくなっている。
アンダーライブは、近年でも「北野日奈子卒業コンサート」から続けてぴあアリーナMMでの3日間開催であった「29thSGアンダーライブ」や、全国Zeppツアーの形であった「31stSGアンダーライブ」の地方公演など、逆境に近いといえるような状況もあったものの、直近の「33rdSGアンダーライブ」では横浜アリーナ3DAYSを立ち見席までソールドアウトさせるに至っている。
乃木坂46も、かつてはいくぶん集客に苦労していた時期もあった。初期のイベントの類を除けば、1・2期生が後年までよく語っていたのは「真夏の全国ツアー2015」大阪2公演目(8月26日昼公演)のことである。開演直前に、空席(黒シート)のブロックがあることを伝えられ、「これがグループの現実だ」というようなことを言われた、というエピソードだったはずだ。
実際のところこれは夏休み期間中とはいえ蛮勇をふるって平日に昼公演を設定したことによるものなのではないかと思われるが、メンバーの心に刺さった出来事であったことは間違いない。
■ そこに“ひと席”あったとき
連想ゲームの末に空席の話を続けてきたが、結局は筆者を含めたいちファンにとしては、突きつめると自分がそのライブに足を運び、ひと席を埋めるかどうか(あるいは、そのためのチケットがご用意されるかどうか)という点しか関係はないし、及ぼすような影響もない。
「どうしても行きたい」と思わせられるようなライブは、もちろん往々にしてプラチナチケットであり、抽選に明け暮れたのちに一般発売までを戦い抜くことになることも多い。しかし、ソールドアウトしていない(あるいは、遅い)公演に、比較的後方の席にすべり込んで目撃した情景が、予想を超えて心に残ったりもする。
最後に少し自分の話をして終わることにしたい。
筆者はここのところ、一般発売で手に入る状況にあるライブに勢いあまって(遠征でも)参戦することが多い。それは元をただせば、先に引用した「29thSGアンダーライブ」について、矢久保美緒が「チケットが完売しなかったことがすごく心残りで、来なかった人が『行けばよかった』と後悔するようなライブにしたいと思っていました。」と語っていたことが心に残っていたからかもしれないと思う。
「29thSGアンダーライブ」については、10000人規模の3DAYSだったことに加えてまだコロナ禍も色濃く、2日目と3日目に配信があり、「現地で見てみたら空席があった」という程度にとどまらないほどには、集客に苦労していたようであった。前日の「北野日奈子卒業コンサート」の帰り、コンコースに「29thSGアンダーライブ チケット発売中」の旨の大きなパネルが何枚か掲げられていたことを覚えている。
筆者自身も、北野の卒業コンサートの会場に直後訪れる気分まで自分をもっていけず、配信もあるし、引っ越ししたばかりで出費がかさんでいるし、と自分にいろいろと言い訳をして、現地には足を運ばなかった。
結果として「29thSGアンダーライブ」は、ライブとしてのクオリティが高かったのはもちろんだが、セットリストの傾向に変化がみられるなどもあったほか、3日目アンコールでの「きっかけ」のアカペラ歌唱や、和田まあやによる「このまま頑張っていたらみんなでアンダーライブ、東京ドームでできるんじゃないかと思いました」という宣言など、印象深いシーンも数多く生まれた。
和田は次のシングル限りでグループを卒業することになるが、「30thSGアンダーライブ」以降続いた公演数の多いアンダーライブはメンバーのパフォーマンスを押し上げていく。「31stSGアンダーライブ」には一般発売で3公演足を運んだが、5期生の合流を経た「32ndSGアンダーライブ」は、かなり頑張ってもなかなかチケットが手に入らない状況になった。
そして「33rdSGアンダーライブ」。開催発表があったときは規模の大きさに驚いたが、3公演ともをソールドアウト。筆者自身は3公演とも足を運ぶことができたが、正直運がよかったと思う。
こうした経緯を見届けてきたからこそ、日に日に「29thSGアンダーライブ」に足を運ばなかったことを後悔する気持ちが募ってくる。これから先、アンダーライブがたどり着く場所を想像したとき、その力強いうねりが発生した場所は、あの日のぴあアリーナMMであったと思うからだ。
とはいえ、当然ながら時計の針を戻すことはできない。これからの自分にできるのは、こうした後悔をもうしないように心がけていくことだけだ。
坂道シリーズは押しも押されもせぬメジャーグループで、そのライブは満員の観客席がそこにあることを前提としてつくられる。でも、そこに空席がひとつあることを見つけたとき、心を踊らせてその場所に手を伸ばせるようなメンタリティでファンを続けていきたいし、あるいはそれができるだけの余裕と健康さをもって暮らしていきたいな、とも思う。
ここまでを書きながら、空席が目立つ会場も多かったというアンダーライブ東北シリーズに、修学旅行が被った宮城公演ではなく日曜の設定だった山形公演に足を運んだのが初めてのライブ体験であった久保史緒里さんのエピソードや、同じく東北シリーズで、連絡の行き違いから関係者席が確保できておらず、当日券を買って参加した北野日奈子さんのご家族のエピソードなども思い出しました。
満員でなかったり、そこまで席数がなかったりする客席には、それはそれでドラマがあります。
かなりの数のライブに足を運んできた2023年も終わりに向かおうとしています。ツアーなりアンダーライブなり、セットリストのベースは同じでも、多くの公演数を見ていくと景色が変わってくるな、という発見がありました。
年内で残すところは、櫻坂46の「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」が2公演、日向坂46のツアー追加公演が1公演(2日目)のチケットを確保していますが、どうにかして1日目も行きたいところです。また、櫻坂46と日向坂46の「新参者」公演も運良く当選しているので楽しみにしていますが、こうなってくると乃木坂46のほうも見たいな、という欲が出てきてしまいますね。
ブログのほうもよろしくお願いします。来月にはようやく[9]の記事、中元さんと北野さんと切り口にした回も公開できる見込みです。
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