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思い出という名の守護神(2023年夏の坂道シリーズに思う)

■ “真夏”の到来

 乃木坂46の「真夏の全国ツアー2023」が始まった。2020年の中止を挟み、今年で10回目の「真夏の全国ツアー」となる。
 筆者は坂道シリーズ3グループをあまり軽重をつけることなく追いかけているが、恒例のツアーを必ず夏に設定する乃木坂46には王道を往くパワーのようなものを感じるし、なかでも明治神宮野球場公演は“夏の定番”ともなっている。日向坂46・櫻坂46もそれぞれ、横浜スタジアム・ZOZOマリンスタジアムという首都圏の野球場でその後を追おうとしているように見えるが、個人的には、“定番”の安心感を手に入れられるのであれば喜ばしいことだと思う。

 筆者は「真夏の全国ツアー2023」北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ公演を両日会場で見届けることができた。以降の日程でも何公演かは観られる予定ではあるが、やはり初演は特別である(特に筆者は、ライブのセットリストへの興味が強いので)。あるいは33rdシングルの発売も控えているので、ツアーの後半からは新曲がセットリストに加えられたりもするのであろうか。過去のツアーでは、日程にばらつきがあったり、異なる構成の公演が含まれていたりすることも多かったが、今年はそのような形ではないようだ。2か月間の太く長い“真夏”のあいだに、グループがどのように変わっていくのかが楽しみでもある。

 もう少しいえば、大きなライブとともに毎年やってくる、そして長い“乃木坂の夏”は、あるときから、メンバーの卒業と無縁ではいられなくなった。
 その端緒は深川麻衣の卒業コンサートが「真夏の全国ツアー2016」に列せられたことであり、2017年には11月の東京ドーム公演が伊藤万理華・中元日芽香の最後のライブと位置づけられ、2018年には初演の神宮・秩父宮で斎藤ちはる・相楽伊織が最後のライブを迎えた。2019年は千秋楽公演が桜井玲香の卒業公演の扱いとなり、2021年には福岡公演で大園桃子が、東京ドーム公演で高山一実がセレモニーとともに最後のライブを迎えている。2022年は久しぶりに卒業公演の形がとられないツアーとなったが、初演の前日となる7月18日に、樋口日奈と和田まあやの卒業発表がなされていた。

 今年も、自身の23歳の誕生日である8月24日をもってグループを卒業、芸能界を引退するとしている早川聖来が、7月13日の大阪城ホール公演2日目で卒業セレモニーを行うこととなっており(これよりあとの公演には不参加となる)、またツアーが始まるまさに前日であった6月30日をもって、北川悠理がグループを卒業している。
 5月の「齋藤飛鳥卒業コンサート」を経て、グループは正式に3・4・5期生のみの体制となっており、北海道公演のMCでも、特に3期生が「先輩のいない初めてのツアー」のような形で、そのことに言及する場面も多かった。一方で北川と早川の卒業は、4期生にとっては同期の卒業を経験する初めての機会ともなっている。北川の卒業がメンバーに伝えられたのは「齋藤飛鳥卒業コンサート」より後であったとも伝えられており、目まぐるしいグループの変化に改めて直面しているといえるのではないだろうか。

 “乃木坂の夏”が毎年変わらず訪れても、グループが同じ形をしていることはない。それは大人数のグループアイドルの宿命であろうし、筆者はそこにおもしろみを感じてもきた。しかし、個々のメンバーの卒業に対する寂しさはもちろんぬぐえないし、むしろ強くなっているようにも思う。

■「坂道合同オーディション」から5年

 今年の夏は、乃木坂46・4期生、および櫻坂46・2期生、日向坂46・3期生の「坂道合同新規メンバー募集オーディション」から5年というタイミングでもある。これらのメンバー全体を“同期”と大きくくくるならば、北川と早川に先んじて、櫻坂46・松平璃子が2021年3月に、櫻坂46・関有美子が2023年4月にグループを離れている(両名は“同期”のなかで最年長の学年でもある)。

 すでにグループを離れるメンバーがいる一方で、各グループのなかでの「坂道合同オーディション」組は、押しも押されもせぬ存在となっているといえる。
 乃木坂46でいえば、一昨年の全国ツアーでは遠藤さくらが、昨年の全国ツアーでは賀喜遥香が、それぞれ2回目の表題曲センターとしてライブの中心となったが、そうした日々を経て33rdシングルでは4作連続となるフロントに並び立つなど、グループの顔といえる存在となっている。アンダーセンターも前作では林瑠奈がダブルセンターの一角を務め、今作でも松尾美佑がセンターを務めることが公表されている。
 櫻坂46では2期生がグループの中心となっており、歴代の表題曲センターはすべて2期生である(森田ひかる、田村保乃、山﨑天、守屋麗奈、藤吉夏鈴)。日向坂46でも、10thシングル表題曲のセンターを上村ひなのが務めることとなっており、グループ内では3期生は少数派ながら、独自の存在感を発揮しているといえる。
 センターの話ばかりになってしまったが、そうした面ばかりでなく、「坂道合同オーディション」組がそれぞれのグループ内で果たす役割が大きいことは、ファンの間でそれなりの合意が得られるだろう。各グループともオーディションを経て後輩を迎えてもいて、それぞれにグループの“いま”を担っているといえるのではないだろうか。

 また、このようななかで、各グループにおいて“期別”の枠組みが改めて強調されているような印象もある。日向坂46は、もともと期別楽曲の多いグループであるが、10thシングルでも1期生から4期生それぞれに楽曲が制作されており、これは9thシングルから2作連続の形である。
 櫻坂46は直近の6thシングルにおいて初めて“期別”の枠組みを明確にし、1期生・2期生・3期生の楽曲がそれぞれ収録された。1期生はアルバム曲で、3期生は前シングルですでに期別楽曲が制作されていたが、2期生曲はグループ初となった。櫻坂46は改名以降、“グループ全体で作品づくりを行う”ことに名実ともに注力し、それをことさらに強調してもいたが、グループのアイデンティティがある程度確立され、あるいは3期生の加入も経て、それを少し緩めてもよい時期にきたということでもあったのだろうか。

——そういう経緯(引用者註:「坂道合同オーディション」組でも加入時期が異なるメンバーがいる)もあって、今回、二期生初の楽曲「コンビナート」を歌える喜びもひとしおかなと。
大園「二期生だけ“期別曲”がなかったので、うれしかったです」
井上「欲を言えば、同期が全員そろっている時だったら、もっとうれしかったんですけど…。卒業したメンバーや休業している遠藤光莉も一緒にいると思って、パフォーマンスしていきたいです。大人の女性っぽい歌詞と楽曲なので、どういう表現をしようかなって考えています。」

『TV GUIDE Alpha EPISODE PPP』(2023年6月29日発売)p.91

 そして、3・4・5期生の体制となった乃木坂46でも、「真夏の全国ツアー2023」のセットリストにおいて、改めて“期別”の枠組みが強調されている印象をもった。というより、4期生の加入を経た2019年ごろから断続的に続けられてきた“期別”での動きが、1・2期生の卒業後のグループに改めて新たな実をつけるような形となっているといえるだろうか。

■ 「新体制」の自信と自負

 「真夏の全国ツアー2023」北海道公演初演。いきなりメドレーで始まったセットリストに、おっ、と思った。メドレーでは「夏のFree&Easy」「太陽ノック」「走れ!Bicycle」「裸足でSummer」「ガールズルール」と“夏曲”が連ねられ(「走れ!Bicycle」は2012年8月22日発売で、「真夏の全国ツアー」が始まる前の楽曲であるが、時折“夏曲”扱いを受けることがある、という印象である)、さらに「ジコチューで行こう!」「好きというのはロックだぜ!」が披露される。
 ライブ冒頭で“夏曲”とされる表題曲はほぼ出し尽くしてしまったような状態であり、このあとのセットリストがどのように構成されていくのが、がぜん筆者は引き込まれていった。

 その後はツアーでは恒例といえるユニット曲のコーナーや、アンダー曲のコーナーもあったが、それ以外の選曲はあまりにも一貫していた。3・4・5期生の期別曲と、現役メンバーのセンター曲。特に後者は、「逃げ水」「夜明けまで強がらなくてもいい」「僕は僕を好きになる」「ごめんねFingers crossed」「君に叱られた」「Actually…」「人は夢を二度見る」と、“夏曲”に列する形で披露された「好きというのはロックだぜ!」とあわせて、表題曲をすべて網羅した(これに加えて、梅澤美波がセンターである「空扉」も披露されている)。
 期別曲は豊富な曲数を生かして日替わりで披露しつつ、アップテンポの「バンドエイド剥がすような別れ方」と「I see…」、および会場全体が手拍子に包まれる「僕が手を叩く方へ」は全員で披露する形で終盤の畳みかけに用いられており、「あくまで現役メンバーの武器をもってツアーを戦う」というような意志が明確に感じられた。オリジナルの期のメンバーがセンターステージで踊り、他の期のメンバーはある程度自由な動きはありつつも、花道やメインステージであくまでパフォーマンスを中心として披露。「バンドエイド剥がすような別れ方」の弾けるようなサビの振り付けを先輩メンバーが一列になって踊る風景が、なぜだかすごくエモーショナルに映った。

 本編最後は全員での「人は夢を二度見る」。いわゆる“座長”にあたる井上和(この言い方は「真夏の全国ツアー」では近年そこまで押し出されていない印象だが)のスピーチはアンコールで行われる形がとられ、「人は夢を二度見る」の披露前にはダブルセンターの久保史緒里と山下美月が日替わりで客席にメッセージを送った。
 このツアーが終わった頃には、3期生は加入7周年を迎え、8年目のキャリアに突入することになる。何度も道に迷い遠回りをした日々のむこう、「10年前の僕からは 今の自分がどう見えるか?」と歌うその歌詞は、やはり3期生の、なかでも久保と山下の、その現在地にあまりにも重なる。グループのなかには揺るぎない立ち位置があると見え、グループ外の仕事もいっこうに途切れることがなく、そのすべてに結果をもって応えている。ともすれば「苦しんだり、壁にぶつかったりすることはもうないだろう」のように見てしまうけれど、グループ全体がより強く羽ばたかなければならない大切な時期にあって、さしもの両名も、その重圧に苦しんだ部分もあったようである。

なんか自分のことばかり話してしまってすみません
でも当初センターをやらせていただくと決まった時はこのテイストの楽曲が来ると思っておらず
正直すっごく困惑しました

そこからまた1から創り始め
焦りと共にリリース期間を迎えてしまった部分もあります

目まぐるしい毎日を送らせていただいている中でもっと頑張らなきゃいけないのに
結果的に楽曲にかけられる時間が少なく手一杯になってしまっていた私の力不足です

だけどそんな状況だからこそ
後輩のみんなの素晴らしい活躍
先頭に立った同期の逞しさ
そして久保の強い眼差し
深呼吸して周りを見回してみたら沢山の事に気づけました

私ももう一度夢を見られるよう頑張ります
歌番組ももう少ないですが
なるべく万全の状態で出演できるよう
尽力します

山下美月公式ブログ 2023年3月29日「人は夢を二度見る( ˙꒳​˙ )」

この期間を振り返り言葉にすることって、
思ってたよりずっと、心にずしんと、くる。
言わなくていいことを
言っているのかもしれないです。
だけど、嘘偽りなく、
今の気持ちを残しておきたい。
今後の為にも。
ごめんね。
ちょっとだけお付き合いください。


自分一人じゃ何もできないと、
この期間に改めて痛感しました。

壁を越えたら、また次の壁がある。
厚みも高さも増していくばかり。
期待、焦り、不安、落ち込み、悔しさ、
とにかくいろんな感情を味わいました。

正直いろんなことがあったけれど、
後悔がなかったといえば嘘になるけれど、
そんな32枚目期間を振り返って、今。
確実に、
強くなれたと胸を張って言える自分がいるのも
事実です。

久保史緒里公式ブログ 2023年6月27日「夢を見た先で待ち受けていた景色。」

 それでも、ふたりは32ndシングルの期間を全力で駆け抜け、良い形でバトンをつないだのだと思う。加入以来、一筋縄ではいかないいくつもの困難の先にあったのは、自分たちが正真正銘の先頭に立つグループの未来。あえて、ということだろうが、「インフルエンサー」も「制服のマネキン」も、「Sing Out!」も「きっかけ」も今回のセットリストからは排されており、ライブ本編でここまで述べてこなかったコーナー/楽曲は、歌唱中心で披露された「シンクロニシティ」のみ。あるいはその「シンクロニシティ」は、久保と山下の初選抜の曲でもある。
 そこにあったのは、あの日の未来であり、しかしどこまでもグループの現在である。それを紛れもなく“乃木坂46のステージ”とする、グループとメンバーの自信と自負。そんなふうに感じられるセットリストであった。

■ 「乃木坂をよろしくね」

 32ndシングル期は終わっていったが、「人は夢を二度見る」については、ライブなどでの披露が重ねられていくのはむしろこれからであろう。春発売のシングルは、ツアーまではライブでの披露も少なく、年末年始や夏の時期のように音楽特番が多いわけでもないから、テレビ番組での披露もそこまで多いというわけではない。
 そのような状況にあって、初めて大きなライブで披露されたのは、5月18日の「齋藤飛鳥卒業コンサート」DAY2のことであった。リリース後の音楽番組の時期はすでに過ぎており、このときに続く披露が「真夏の全国ツアー2023」であった、と称しておおむね差し支えないほどである(発売記念配信ミニライブはこの間のことであったが)。

 「齋藤飛鳥卒業コンサート」は、いまさらいうまでもなく正真正銘「最後の1期生」の卒業コンサートの場であり、グループ加入から4288日のキャリアを重ね、グループとファンを知り尽くした飛鳥による、過去の卒業コンサートのオマージュのような演出も時折みられた。
 どこまで意図していたのかはわからないし、いくぶんかは“オタク”にありがちな深読みかもしれない。でもやっぱり、冒頭で客席に深々と頭を下げたのは橋本奈々未だし、三角形の照明が並ぶ長い花道を歩いていったのは生田絵梨花だし、グッズにもなった自らのキャラクターの気球に乗ったのは西野七瀬だし、「サヨナラの意味」で後輩に寄り添われながら前へと歩いていったのは白石麻衣なのだ。
 そもそも、声出しができる満員の東京ドームで卒業コンサートを行うというのは白石が残した幻であったし、メンバーとしての活動を区切ってから5ヶ月近く待ってまでそれを実現させたのは、グループと飛鳥の執念にほかならない。あるいは最後のスピーチを「今日で、卒業します。」と切り出したのはやっぱり橋本のオマージュとしか思えなかった。あの日と同じように最後にゴンドラで上っていったあと、あの日は上がらなかったダブルアンコールの声に応えてメインステージに登場した飛鳥の姿は、どこまでもあまりにも、“夢の続き”であった。

 後出しならなんでも言えるというだけの話だが、DAY1を終えた時点で、「たぶん明日は『人は夢を二度見る』をやるだろうな」と筆者はなんとなく思っていた。乃木坂46は「未来に向かって進んでいる」、「私に向けてくれた愛情をメンバーのみんなに向けてくれたら」と、DAY1のアンコールで語られており、そのための選曲があるだろう、と感じていたのは確かだ。
 同じく春に行われた卒業コンサートにおいて、発売を間近に控えていた「シンクロニシティ」、およびそのカップリング曲もセンターを務める「Against」だけでなく、「トキトキメキメキ」「スカウトマン」まで選曲した(「乃木坂46時間TV(第3弾)」での開催発表の際には、「(自分の)卒業シングルにはしないし、卒業ライブにもしないつもり」と言い切っていた)生駒里奈のことを思い出す部分もあった。

 DAY2も終盤に差しかかったブロック。飛鳥ひとりによる長めのMCが挟まれ、「乃木坂にはみなさんの声が必要」「これからもどうか私たちの後輩をどんどん押し上げていってほしい」と客席に呼びかけた。そして「これからも乃木坂46のことをよろしくお願いします」としたうえで、後ろに控えていた後輩たちにも「乃木坂をよろしくね」と声をかける。感情が高まり、目には涙が浮かんだ。そして「この曲を一緒に歌わせてもらいたいと思います」。震える声での曲振り、「『人は夢を二度見る』」。
 「シンクロニシティ」の生駒と異なり、もちろんだが飛鳥は「人は夢を二度見る」のオリジナルメンバーではない。この日出演していた全メンバーで披露されたその曲にあって、飛鳥はダブルセンターの久保と山下の真ん中後ろに立って歌唱を始めた。曲中では卒業コンサートらしくメンバーと触れ合う場面もあったものの、おおむね通常通りのダンスパフォーマンスに参加し、最後の最後まできっちりと振りを入れてしなやかに踊る様子がどこまでも頼もしかった。
 やがて飛鳥は、「二度見ステップ」を踏みながら、徐々にフォーメーション全体の後ろに下がっていく。そしてラスサビの終わりでは、ディスプレイに映るメンバーへの直筆メッセージを背にして最後列に立っていた。グループのセンターの位置では久保と山下が終わりのポーズを決める。最後列で微笑む飛鳥の目に涙はもうない。
 そこにはいないはずだった飛鳥が、メンバーみなとステージに並び立ち、後輩たちを見守る。その姿が、誰よりも“乃木坂46”を全うしてきた彼女のその時間とともに、グループの過去を守り未来を照らす守護神に見えた。

■ 思い出はずっとそこにあるから

 そんな卒業コンサートがあったから、「真夏の全国ツアー2023」北海道公演については、「ああそうか、思い出はもう(いったんは)振り返り終わったんだな」というような感想を抱く部分もあった。
 思えば乃木坂46は、いつからかずっと、断続的に思い出を振り返ってきた、そしてそれをステージ上で表現してきたグループである。バースデーライブに卒業コンサート。「真夏の全国ツアー」でも、“過去の名曲”にスポットライトを当てるブロックが設けられたり、ファン投票でセットリストが組まれたりすることもあった。あるいはアンダーライブでも、アンダー曲の全曲披露が行われたり、「思い出」にクローズアップしたブロックが設けられたりしたこともあった。

 もちろん、今回のツアーでこうした形のセットリストが組まれたことで、ただちにグループのそうした個性が変わっていくような感じがあるわけではないし、北川と早川の卒業にあたっては、むしろ4期生を中心に「思い出を振り返る」場面が厚く設けられてもいる。しかし大きな流れとしては、グループの現在を前面に出し、まっすぐな推進力をもって進んでいこうとしているタイミングである、というだけのことだ。

 グループが“完全体”であることって、ほとんど奇跡といえるくらいで、普通はないことなんだな、と最近よく思う。「いつかまた“16人の「4番目の光」”を見られることがあればいいな、と思う」と書いたこともあったが、それは結局叶わぬ夢のまま終わってしまった。

 掛橋沙耶香のライブ中の事故はすでに1年近く前のこととなり、林瑠奈と岡本姫奈の活動休止もやや長引いている。巡りあわせのいたずらでもあるが、あれほどまでにグループにおいて存在感のあった早川聖来の“神宮”が、2019年の一度きりだったと考えると、さすがに少し切なくなってしまう。

 叶わなかった夢、手に入らなかった、あるいは失われてしまった理想の形。でも、思い出のなかに閉じ込められたそれは、なぜかいつも“完全体”である。「4期生はずっと16人」とメンバーがいう。そうだよな、と思う。
 “思い出”の存在は、それを振り返っているときもそうでないときも、いまを守ってくれる。

 北海道公演の2日間で会場の温度がいちばん上がったのは、日替わりで披露されたなかの4期生曲「ジャンピングジョーカーフラッシュ」ではなかったか、と思う。もちろん他にも盛り上がる曲はたくさんあったのだが、会場の規模と“声出し”、ライブの流れ、そして比較的近年の楽曲であることなど、さまざまな要素があいまって、かなりの爆発力をみせていたと思う。

ああ 青春の日々よ
輝やけるのはいつまでか?
今日までって言われたって
後悔しないように…
一緒に騒ぐだけで
かけがえのない時間になる
何が一番 思い出なのかって
ジャンジャンジャンピングジョーカーフラッシュ

「ジャンピングジョーカーフラッシュ」2サビ

 ライブでは歌唱されない2番の部分であるが、「ジャンピングジョーカーフラッシュ」のこの歌詞は、楽曲全体の明るさと対照的でもあって、運命の皮肉すら感じてしまうくらいに切ない。
 「ジャンピングジョーカーフラッシュ」は早川の休業期間の曲であり、そのオリジナルメンバーは、字義通りにとるならば“16人”ではないし、早川と掛橋は活動期間を入れ違ってしまった形でもあるから、“16人”が揃って披露したこともない。
 しかし早川は「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」以降は「ジャンピングジョーカーフラッシュ」に参加している。楽曲が最後まで、“16人”をつないでいるのだ。

何が一番 思い出なのかって
 ジャンジャンジャンピングジョーカーフラッシュ


 文章が思っていたのと違う方向に行ってしまって収拾がつかなくなってきたので、このへんで強引にしめておきます。
 3坂道を追っていて、かなり忙しいという感覚があります。ずっと同じように追ってきたつもりですが、インタビュー記事のある雑誌をあらかた手元に置くようにしたのはコロナ禍以降のことなので、各グループの活動のペースアップとあいまって、こちらとしてはアクセルを踏みすぎているのかもしれません。
 楽しいのですけど、この記事くらい頭の中がぐちゃぐちゃとしています。

 これから日向坂46・影山優佳さんの卒業セレモニーがあり、8月には櫻坂46・菅井友香さんの卒業公演となる昨年のツアーファイナルのBlu-rayが出ます(個人的には、特典として映像化される1日目のアンコールにかなり注目しています)。乃木坂46のツアーが終わると、間髪入れずに日向坂46のツアーが始まります。この期間にアンダーライブもあるのでしょうかね。
 それぞれのグループがそれぞれに形を変えながら前に進んでいます。思い出は日に日に増え、形に残っていきます。それぞれのグループに、それぞれの守護神がいるということでしょう。

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 北野さんの話を挟み込むのがノルマのようになっていますが別にそんなつもりはなくて、でもふと思い出したので、最後に引用しておきます。

「もう卒業しちゃったコがいるから無理なんですけど、2期生って永遠に完成しないパズルみたいなものなんです。パズルってひとつひとつのピースは形が違うじゃないですか。それが、なんかパズルみたいですよね。でも、完成しなくてもいいと思うんですよ」(北野日奈子)

『BRODY』2017年10月号 p.66

 ブログのほうもよろしくお願いします。
 (「日常」と卒業コンサートの記事、勝手な思いですが、もう少し読まれてほしい、という感覚があります。)

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