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妊娠出産の話 - 2015⑧ エヌ

近しい者は「エヌ」と呼ぶ。
NICU=Neonatal Intensive Care Unit=新生児集中治療管理室である。
エヌ・アイ・シー・ユーと読む。ニクでは通じない。
親が入院中のお子に面会のため日参することを「エヌ通い」という。


出産から9日後の午前。
私は産院を退院して自宅へ向かった。自宅で荷物をまとめてコロ助実家のお世話になりに行く。当時はまだ義実家に同居しておらず、隣町内に近居していた。
予定は1ヶ月。コロ助氏がこの数日後から2週間ほど海外出張で不在になることが前々から決まっていたためだ。私が赤ちゃんのお世話をして、義実家の皆さんにつるのお世話を手伝ってもらう。その予定だった。
なんでこの時期に入れたんだよバカヤロウ!ズラせよ!引き受けるなよ!と怒りを感じていたが、ぷく氏のことがあって、怒りから静かな恨みに変わった。
なんでこんな状況下ひとり気を遣って過ごさなきゃならんのか…
義実家家族からしても、赤ちゃんが入院中の母親なんて地雷原にしか見えなかっただろう。気を遣ったに違いない。

憂鬱だった。
貧血。入院による運動不足。腹が痛い。不在の夫。あまえんぼうのつる。病院に残してきたぷく。


義実家に居づらいので、ひたすらエヌ通い。
身体が隣町内への移動に500m歩くのすら辛い状況でも、逃げた方がマシ。
ただしエヌもまた逃避したい現実なのであるから、気は晴れない。
滞在は1時間、長くて2時間。
抱っこ・授乳・触れ合いの時間もあったが、じーっと動かないぷくをじーっと見つめるだけの時間の方が長かった。
そして、見つめれば見つめるほど、この子がスクスクとつるのように育つイメージを持てなくなっていく。赤ちゃんが可愛いってどういう気持ちでしたっけね?
保育器の横でうっすら涙を浮かべてぼーっとしている母親はあっという間に看護師さんらにメンタルきてるママ認定され…という詳しい話は次回書く。


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★酸素投与しながら抱っこ


そんな私にとって安息の場所は病院内のスタバだけだった。
つる保育園のお迎えまでそこでひとり時間を潰す。
ドリップコーヒーを頼むとレシートに表示される"One More Coffee"を毎日利用してチビチビ飲む。サラダラップを買って食べたら、時間を置いて焼菓子を買って食べる。搾乳は早々にやめていた。
時間を潰しながら、ひたすら検索をかけたり、NICUに通った保護者のブログを読む日々。いわゆる「天使ママ」系のブログを読んでしまいボロボロ泣いたりもした。
現在のぷく氏に近しい状態の疾患、親が似たような経験をしている疾患、どれも疑わしい。

通い始めて1週間ほど経った頃、ふと、コーヒーを飲みながら最初のカンファレンスでもらった書面を思い出した。
そこには、医師が注意して診ていることや今後の予定がまとめて列記されていた。
それらのキーワードをぜんぶ窓に入れてぐぐったらいいんでないの?と思いついて、翌日書類を持ち出して、検索した。
その時もコーヒーを飲みながら、今日もうまい、ボロボロの心身に染み渡るぜ、とか思っていたような気がする。

[ 胎児発育不全 筋緊張低下 哺乳 呼吸障害 陰嚢 精巣 色素 ]

→ プラダー・ウィリ症候群 

お?これはもしや正解にたどり着いちゃったんじゃない?
どれどれ


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