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日記【 遠足 】

もう7時だ!
時計を見ると2時。
もう7時だ!
5時。
もう7時だ!
6時半。

久々に遠出をした。
姉と妹が盆休みをとって、日帰り旅行を企画したのだ。
姉と妹といるのは苦しい。
私だけ変で頭がおかしくて気持ち悪い。
でも、断って雰囲気を壊したくない。

外には出たくない。特に遠くには。
外出前夜は眠れなくなる。薬で眠ったところで、
冒頭のような有様だ。

幼い頃からそうだった。
家を離れたくない。遠くへ行きたくない。
遠く、というよりは、「知らない場所」が怖かったのかもしれない。
遠足の前日は楽しみで眠れなくなるという気持ちが全く分からなかった。
不安で眠れないし、ワンチャン風邪でも引いて行けなくならないかと、
服をまくっておなかを床につけて眠ったりした。
結局遠足には行くことになったし、おなかを床につける大作戦は遅効性だったらしく、山登りの途中でお腹を壊してその後のことは想像におまかせする感じになった。

遠く、の許容範囲は
カウンセリングに行くための、「乗り換えのない電車40分」くらい。見慣れた道であることも必須条件だ。

今回の旅は車で2時間。
車ならまだマシだ。
車は、家にも似た空間だからかもしれない。
荷物が多くても重くならないし。

ナイフ、ランプ、財布、携帯、日傘、日焼け止め、メイク直し、お茶、薬、ウェットティッシュ、モバイルバッテリー、絆創膏 カバンに詰め込んで

行先は滝だった。
もちろん車で突っ込んだりしない。
歩いて歩いて歩いて歩いた。

水は澄み切っていて、
ぴっ、ぴっ、と泳ぐ魚と、その魚の影とがよく見えた。
久方ぶりにあめんぼを見た。小学生以来だ。なんだか嬉しい。しかし大量にいると若干気持ち悪かった。
その美しい川辺で一際目を引いたのが、ハグロトンボ。
その名の通り、羽根が真っ黒のトンボだ。
体はイトトンボくらいに細く、青や緑にキラキラ光る。
羽の動きはひらひらしていて、音もしないし、ホバリングもしない。大量にいても気持ち悪くない。
とても、いいものを見た。

姉と妹とはほぼ別行動だ。
これは毎度のことで、私はずっと離れた後ろをついて歩く。
楽しそうに川辺を歩く二人の後ろ姿の写真ばかりが増えていく。
本当は私なんか誘いたくないんだろうな。
断り待ちなのかな…なんて考える。空気を読めていないのかもしれない。
卑屈すぎるのは分かってる。
でも、本当にそう思う。私は居なくなるから、待っていてと
心の中でいつも謝っている。

靴を脱いで、足首ぐらいの深さの、一枚岩でできた川底に立つ。冷たくて気持ちいい。澄み切った水の流れは私の足にぶつかり別れ、また後ろで合流してジャバジャバと水流を作る。きれいな水は、なぜあんなにとろみが付いたように見えるんだろう。
飲みたくなる。
ダメ、ぜったい。

その後、いくつかの景勝地を回った。
ひとつは通行止めで、もうひとつはいわゆる「ガッカリ遺産」みたいなやつだった。
皆でぶーぶー言いながら、それはそれで思い出に残る、旅の醍醐味かなと思った。

なんつって、もう何処にも行きたくない。
違うかな。
姉と妹と居たくない。申し訳ない。

帰りのサービスエリア。
食事を摂りながら、姉と妹が仕事の話をし始める。
東京の大企業で働く二人だ。
会社が渋谷に移転だとか、こっちは今をときめく芝浦だとか。

私は一体、どうしてこんなにクズなのだろう。
いたたまれなかった。
それでも、二人の話をうんうん聴いた。

大企業に勤めたいわけじゃない。
ただ、二人みたいに、ちゃんとした、空気が読めて、頭が良くて、人当たりが良くて、普通で、普通で、普通の人になりたいだけなんだ。

でもそれは叶わない。どうしたら普通の人になれるのか、全く分からない。

ハグロトンボになって、ひらひらと音もなく
どこかに飛んでいきたいな

なーんつってね。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
今回の旅は、養老渓谷に行ってきました。
粟又の滝がとても綺麗でした。

のがの










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