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YOU'VE GOT A FRIEND

【雑誌「CAZ」にて1989年に連載スタートした「プライベートソングズ」を原文のまま掲載します】

  半年に一度、あるいは年に一度の割合で、思い出したように電話してくる男がいる。大学の同級生だったそいつは、群馬県にある会社に勤めていて、ここ数年顔を合わせていない。といっても、実際は思い出したから僕に電話してきたわけではない。彼らにとっては、毎回正当な理由があるのだ。
 あれは何年前だったか、久しぶりに聞く声が懐かしくて「仕事はどうなの?」とか「あいつどうしてる?」などと会話がはずんだ。そのうち、ヤツが言い出した。
「実はさあ、新車買ったんだ、オレ」
「えっ、ホント?」
「いやあ、前から欲しかったヤツだからさ、無理して月賦で買っちゃったよ。もう、家計は火の車、ハハハハ」
 しばらく車の話をして電話を切った。その後、ふと思った。「あいつは、なんの用事で電話してきたんだろう?」
 そういえば、子供が生まれた、という電話もかかってきた。
「いやあ、女の子でさあ、失敗しちゃったよ。オレに似てるんだもんな。将来かわいそうでさあ…」
などといいながらも、ヤツの嬉しさは隠しようもなく、声の中にあふれていた。
「そうかあ、奥さん似だと良かったのになっ」
と僕も同情の言葉をかける。美人の奥さんとは大学時代からのつきあいだ。ボウリング場でひっかけたにしては大当たりだ、と仲間うちでは評判だったものだ。

 ごく最近のこと。また、そいつから電話があった。

「いやあ、家建てちゃったよ。新築、80坪!すごいでしょ。無理しちゃったよ。2001年ローンの旅だもんなあ。これで転勤もできなくなっちゃったよ。ハハハハハ」
 坪単価が、都内に比べて50分の1とはいうものの、一戸建てとはたいしたものだ、と心から思う。結局、いつも自慢したくて電話してくるのだとはわかっているのだがーー。

 さんざん家の話をした後で、あいつは言った。
「カミさんたらひどいんだぜ。あんた、やっぱり音楽業界とかに向いてたんじゃないの、なんて今頃言うんだもの。結婚する時に、かたぎの仕事じゃなきゃ嫌って言うからやめたのにさあ」
 大学時代一緒にバンドを組んだこともあるそいつは苦笑した。
「そいつはあんまりだよなあ」
また僕が同情する。でも、そいつが結構幸福なことはわかっている。いったい次に電話がくる時は何を自慢されるだろう。
 そして、自分は確かに電話で伝えたい程嬉しかった事などあったのだろうか、とも考えてみる。少し悔しい。小林麻美と写真を撮った時、電話すればよかったなと思う。そういえば、この前、ニール・ヤングのコンサート、いい席で観たんだぜ。今度はオレの自慢話も聞けよな。友だちだろう?

YOU'VE GOT A FRIEND
1971年に発売されたキャロル・キングの名盤「つづれおり」の中の1曲 ジェームス・テイラーもとりあげ、大ヒットした名曲である

関口コメント:
福島県喜多方市の造り酒屋の次男坊Kのことを書いた文章だが、「突然ですがキリギリス」を読んだ方には「祐天寺密室すれ違い事件」の男だと言えば合点が行くはず。2浪しているので年上だが後輩という関係だったが、よく遊んでもらった。

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