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Day①-2 エルサレム 聖地にもいるのね

異教徒も無料で…

男が一人、自動小銃に手をかけ、
いつでも撃てるぞと言わんばかりの雰囲気を醸す。
ここは、聖地への入り口。
イスラエル兵が睨みを利かせる検問。
小さなバッグ1つだけの身軽な僕は、
X線検査機を難なく通過。
パスポートのチェックもなし。
身構えた割には、あっさりとやり過ごす。

薄暗い階段を上り切ると、視界が開ける。
ここかあ。The Western Wall Heritage「嘆きの壁」。
この日は快晴!
青い空と足元のクリーム色がいいコントラストに。

本丸を前にして、まずはトイレ、行こう。
その内部は、奥にすごく広い作り。
手前側が大きい方で、奥が小さい方。
…便器の位置が高いの、日本人には。あるあるやけど。
手洗い場には、銀色の容器。
ユダヤの人は、これで丁寧に洗ってたな。
日本の神社みたいにお作法があるのね、たぶん。 

世界一「嘆きの壁に近い」トイレ

嘆きの壁には、そこからノーチェックで到達可能。
もちろん、何かアトラクションのようになっているわけでもなく、
入場料を取られるわけでもない。
世界中から人が集まっている一方で、
溢れんばかりの人が密集しているわけでもない。

ちなみに、壁に近づくには
何かしらの帽子をかぶることが必須とのこと。
途中、帽子をかぶっていない人のために、
白いポリエステル製のユダヤ帽「キッパ」が
大量に箱に入って置いてあった。
これを、ちょこんと頭に乗せる。
旅行前に髪を切れなかったから毛量が多い。
帽子を髪に載せて、ちょっとモミモミして安定させた。

「嘆きの壁」の前は広場 思い思いに時を過ごす
ユダヤ教の信仰の証「キッパ」無料で貸し出しも

みんな、壁に向かって祈ってる。
顔と壁の距離は3センチ。いや、くっついてる人も多い。
一心不乱に祈りを捧げる。

嘆きの壁。
その昔、ユダヤ教の神殿があって、
西暦70年にローマ帝国に破壊されたんだって。
残ったのは神殿の「西側の壁」の一部のみ。
だから、英語では「The Western Wall」と表現される。

流浪の民となったユダヤ人。
4世紀以降、20世紀まで、嘆きの壁には
年に一度しか訪問が許されなかったと。
今も、ユダヤの人たちはこの壁に向かって
神殿の再建とメシア(救世主)の来臨を祈ってるそうな。

壁は、当たり前だけど石造り。
隙間からは植物も生えていて、鳥が行き来してる。
そして、手の届く範囲にある石の隙間には、
無数の紙が挟まる。
これ、ここを訪れた人たちの願いが書かれているらしい。
日本の絵馬みたいに読めたりはしないけど。

壁に触れる。冷たい。
そして、表面はツルツル。
2000年近く、数え切れない人がここを訪れ、
思い思いに壁に触れているからだろうね。 

高さ19m 地下に埋まった部分を含めると32m
世界中の人の「願い」が差し込まれる

聖地で出くわす意外な存在

ガイドブックなんかで、その姿をよく見ていた壁。
実は、その奥がありまして…。

壁に向かって左側に入口があり、
その先は広い洞窟のようになっているんです。
そこには、さっきまでいた屋外の壁より
もっと多くの信徒の姿が。

本棚には大量の本。
信徒はみんな、体を揺らす。何かをつぶやきながら。
そして、リーダー格の年配者は、
誰よりも大きな声で何かを読み上げ、祈りを主導する。

立ったまま祈る人が多い中、
傍らに音楽の譜面台みたいなものを伴い
座りながら聖書を読み上げる人も。
ベビーカーと共に祈る人。
自動小銃を肩にかけたまま祈る人。
木製の家具の隙間に顔を突っ込んで祈る人。
山伏のような姿で祈る人。
祈り方は人それぞれ。

生まれながらに、その教えを当然のものとして受け入れ、
当然のように祈る。
日本人の僕は、何か羨ましさも感じたり。

「洞窟」内部はより神聖な空気が漂う ※冒頭の写真も「洞窟」の中

感慨に浸っていると、ユダヤの男性が声をかけてくる。
付箋を見せて、「ここにあなたの名字を書きなさい」と。
「そうしたら私が祈ってあげるから」と。
その場の神聖な空気の中、自然な流れで受け取り、
ペンを走らせようとする。

…でも、待てよ。
そんなことある?あなた誰?何者?
嫌な予感がして、不躾ながら値段を確認。
「それはあなたの御心次第」
そう言うよね。
でも、そう言いながら
開いて見せてきた本に挟まっていたのは50シェケル札。
2000円弱取るんですか、付箋に名字を書かせるだけで。
書く寸前の付箋を丁重に返却。
あんな神聖な場でそんなことあるんですね。
あの人、誰に咎められることもなく僕以外の人にも声をかけてたから、
黙認されてるんだね、たぶん。
それか、みんな祈りを最優先にしてて見てもないかどちらか。

仕切りを隔てて左が男性・右が女性のエリア Entrance for men onlyの表記も

お日様の下へ。
そういや、僕が歩いて回った所には男性しかいなかったな。
周りを見渡すと、壁に向かって右側、
こちらとは仕切りを挟んだ別の空間で女性陣が祈ってた。
壁はひと続きだけど、男女は分けられるのね。 

広場のちょっと高台から壁を見る。
壁の上からは、ニョッキリと金色のモスクの尖塔、
イスラム教の聖地・岩のドーム。
そして、近くにはキリスト教の聖墳墓教会。
ここは、3つの宗教の聖地。

世界中で起きている宗教をめぐるいざこざ。
目の前の渾然一体とした様だけを見ると、
世界に紛争など存在しないようにも思えてくる。

時代を遡ると今とは全く異なる景色が広がっていたそうな

つづく

この記事は、30代のテレビ制作者である筆者が、ガザでの戦闘開始から遡ること半年前の2023年春、イスラエルとパレスチナを一人旅したときに書き留めたノンフィクション日記です。
本業では日々のニュースを扱う仕事に関わり、公正中立を是としていますが、この日記では私見や、ともすれば偏見も含まれているかもしれません。
それでも、戦争・紛争のニュースばかりが伝えられるこの地域のリアルを少しでも感じてほしいと、自身の体験や感情をありのままに綴ります。
いつかこの地に平穏が訪れ、旅行先として当たり前の選択肢となる―。
そして、この日記が旅の一助となる日が来ることを信じて。

TVディレクターのおちつかない旅 筆者

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