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『悪は存在しない』わかんないから思ったこと全部書いてみる

銀獅子賞を獲得した『悪は存在しない』を観た。
結論好きな映画だったけど、あまりにも消化不良すぎるので感じたことをつらつら書いてみる。

ストーリー展開のスピードが不思議な映画だった。
冒頭5分くらいただ森の中を進む映像が映り、あまりにも唐突で説明不足な映像から何かを感じ取るのに必死だった。(なんもわかんなかった)
そして急に森の映像が終わり巧の日常が長回しで映る。ワンカットで映像も音も無加工っぽい感じは『PERFECT DAYS』っぽくて好きだった。

でも『PERFECT DAYS』のようにじんわり作品を味わわせてはくれなかった。
グランピング施設の説明会から台詞が格段に増えストーリーが一気に進み始めた。

東京から来たよそ者と地元住民との対立はありきたりな構図だが、それぞれの発言者のキャラクター設定と俳優さんの演技が見事だった。
一番前に座っていた金髪の若い男は若さゆえか感情的で高橋と黛の話をまともに聞こうとしなかった。
蕎麦屋を営む女性は情に訴えかけるようなスピーチを披露しどこか満足気な感じが私はちょっと鼻についた。が、こういう人いる。
村の長は、その人望からみんなをまとめあげているように見えたが、実際は大したことを言っていないと思う。こういうもいる。
最後に発言した巧は綺麗事ではなく冷静な判断ができる人間だった。自然を守ろうとか言い出さなくてよかった。こういうキャラは好き。

様々な人が発言する中で私が一番好きだったのは高橋だ。高橋を演じた小坂竜士さんの“田舎者を見下す演技”上手すぎる。
かなり腹が立つ態度だったと思うが、私は田舎から出たくて上京した身なので、高橋の「これだから田舎は…」みたいな気持ちもわかる気がして、呆れたように溜息をつき、半笑いで質問に答えるその姿があまりにもそれすぎて好きだった。

その後の車中の高橋と黛の会話も好きだった。この作品の中で一番好きだったかもしれない。
セリフが予想通りな感じ。
先が読めてつまらないという意味ではなく、自分の価値観や感性とぴったりで自分が会話しているような気持ちになる心地よい感じがした。
こういう解像度高い会話好き。

でもこの後高橋は移住してグランピング場の管理人になりたいなどとほざいていた。これには、東京もんがまた言ってるわ…と田舎育ちの私は思った。これ田舎者としては結構怒りが沸く言葉だと思う。
ただの日常を珍しがられ勝手に理想に仕立て上げられ、老後はここでもいいかもとか言われる。
実際に移住している人もしているのでみんながみんなそうではないとわかっているが、やっぱり大多数の人は褒めているようで結局田舎を下に見ているのだ。
これは子鹿の死骸を黛が見下ろしながら無表情で通り過ぎていく描写にも表れていたと思う。あの画角良かった。
総じて高橋周りの話題は共感できる部分が多くて面白かった。

そして最後、花が失踪する。
東京VS田舎の対立に心を持っていかれすぎて花の失踪は急展開に思えた。何度も迎えを忘れたり、先生の忠告があったり、思えば伏線はたくさんあったが。
ここから本当に早かった。体感10分。
なんで高橋の首を絞めたのか、花はなぜ鹿を触ろうとしたのか(あれだけ森の樹木に詳しければ手負いの鹿が危険なことくらい知っていそう)

たった今、これを書きながら気づいた。

花=高橋、巧=野生、自然
花は手負いの野生の鹿が危険なことを知っていた。
それでも興味本位で手を出した。
鹿(野生)側も危害を加えられるのではないかと感じた。
その結果、自然との付き合い方を間違えた者は制裁を受けた。

ここまで考えてやっぱりわからないことが多すぎる。
巧は花と鹿を発見し高橋を制止するような動きをした。それは鹿を刺激して近くにいる花に危害が及ばないようにするためだと思った。でも多分違う。
映像に映っていたものがすべて現実だと仮定するなら、高橋の首を絞めて制止している間に肝心の花は鹿に襲われている。花を守りたいのならば鹿が動き出した時点でとりあえず花のもとに走り出すのでは?

じゃあ、ここにきて巧は実は鹿で高橋を殺したつもりが気づいたら花を襲ってました~みたいなファンタジーぶっこむ?そんなわけない

花を助けるのを忘れるくらい、後回しにするくらい高橋が憎かった?
田舎を馬鹿にされたくらいで?
しきりに映ってた奥さんの写真、奥さんの仇だったりする?

わからない。でも、私は、自分が今想像しているより大きく、花がこの作品の主題に大きな影響を持っていると思う。
そう思ったのは、最初と最後の視点。
最初の森シーンは多分花が歩きながら見上げている視点
最後の森シーンは巧に抱えられている花が仰向けで上を見ている視点
(意識があるのかは定かではないが)

でもこれに気づいたからと言って何かが分かるわけでもない。
やっぱり花と巧って自然を擬人化した存在だった?とか安っぽい結論に逃げたくなる。

わからない。答え合わせしたい。
でもそれと同じくらい、これだけの余白を残し、観客に議論を起こす名作が私の想像が及ぶ範囲で収まってほしくないという気持ちもある。
ずっと考えながら、あれも違うこれも違うってやっていたい。

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