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おむすび通信#3 私と魔法少女と現代音楽 (辻田絢菜)

 第3回目の担当になりました、作曲の辻田絢菜です。何を書こうか迷っていますが、今回は自己紹介的なことを兼ねて第一回公演と作品を振り返ってみようと思います。というのもこの公演が行われた2016年は、ちょうど大学院を卒業し初めて外で自主的に作品を発表することになった年だったということもあり、(常に探し続けている)「自分らしい発想の作品」についてより一層考えを巡らせはじめたタイミングなのです。

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 突然ですが、私は所謂女の子らしい(今や旧時代な表現かもですがあえて)可愛いものが大好きです。特に幼稚園だったころ大流行していた美少女戦士セーラームーンや、周りのみんなはもうアニメから卒業する年頃に至っても一人だけ興味津々で繰り返し見ていたおジャ魔女どれみといった魔法少女系のモチーフへの趣味は、もう一生切っても切り離せないものだと確信を得ました(最近)。
 そのような大好きな魔法少女たちの世界はとてもキラキラとしていて、しかしその裏で彼女たちは絶望を抱えていて(魔法少女まどか☆マギカなどをご覧ください。。。)、そのきらめきや憧れや闇といったイメージを自分の音楽の世界に落とし込めたら…。漸く最近言葉にすることができるようになりましたが創作するときに毎回このような事をどこかで考えていて、「少女の小箱Ⅰ」はこの発想に至った初期の作品になるのではと振り返りました。

 私は中学生の時に音楽家を志し、都立芸術高校、東京藝術大学・同大学院という場で作曲と音楽理論を勉強してきました。学生時代は学内で発表の機会が設けられ、その時から自分らしい発想の作品について考えながら色んなことを試しました。その流れで今も書き続けているのが「Collectionism」シリーズです。これは空想上や伝説上の生き物などをテーマに、そのイメージを音楽によって表現し採取/蒐集していくというコンセプトの作品シリーズです。一番新しい作品は2019年 NODUS vol.2でも発表し、今も興味は尽きることがないのですが、在学中から「Collectionism」シリーズだけを疑わずに書き続けてきた自分に疑問を持ち、別ラインで新たに自分らしい発想をもった作品を作りたいと思っていました。そのため同シリーズでも「CollectionismⅢ/EpisodeⅠ "魔法少女" (2015)※1 」という作品を書いており、この作品も2016年の「少女の小箱Ⅰ(2016)」に至る発端だったように思います。

前置きが長くなりましたがそろそろ作品をご紹介します。

少女の小箱Ⅰ(2016) / maiden's casket Ⅰ(2016)
Cond.湯川紘恵 Sop:中江早希 Fl:山本葵 Pf:増田達斗

(NODUS vol.1 -失われた響きを求めて- 2016年7月5日(火)収録)

 編成はソプラノ、フルート、ピアノから成っています。声というメディアを編成に含んだ理由は、主人公の少女の存在を感じさせるためです。言葉が聴こえることによって言葉の意味の聞き取りに集中してしまうのを避けるため、ソプラノは元々意味のあった言葉を分解し再構築した意味のない言葉を歌っています。これはこの演奏会で同時に上映された「月に憑かれたピエロ」での成熟しきった内容とシュプレヒシュティンメに対比する部分でもあります。少女の持つキラキラとした無邪気さやコロコロと興味が変わる鋭さは同じ怖さでもピエロから感じる恐ろしさとは全く別の感覚です。その違いやセクションによって変化する音の質感を楽しんで頂けたらと思いました。

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 少女の小箱Ⅰ(2016) リハーサルより

 最後の「シャボン玉を飛ばす」という試みもそのキラキラなイメージをより強化するための試みです。ちなみに美しいシャボン玉はソプラノの中江早希さんが演奏会前日から大きく割れにくいシャボン玉を作るためのシャボン液の作り方を研究してくださった結晶です。こちらはぜひ動画でお楽しみください。

最後に当時のプログラムノートをそのまま掲載します。

 この作品内で歌手によって歌われている言葉のようなものは、ある時自分の中から拾い集めた単語や言葉を並べ、分解し、再構成したものです。従って、何語でもなく、意味もありません。その代わりに、音楽的に元の言葉の意味やイメージを表現しています。赤ちゃんや小さい子供が、まだ日本語にならない言葉で何かを伝えようとする様子が一番近いのかもしれません。
 また今回、「小箱」という単語から感じる立体的なイメージを表現するため、初めて視覚的要素を伴う音を取り入れました。
 解体された箱の展開図はどんどん組み立てられ立体になり、楽しいこと、ドキドキすること、いらだち、信じたかったこと、ワクワクすること…中には少女の大切な宝物がたくさん詰まって行きます。


※1  CollectionismⅢ/EpisodeⅠ "魔法少女" (2015)


執筆者プロフィール:

辻田絢菜
都立芸術高校卒業。東京藝術大学音楽学部作曲科を経て、同大学院修士課程作曲専攻修了。‘13年 安宅賞受賞。'14年 第83回日本音楽コンクール作曲部門(オーケストラ作品)入選、岩谷賞(聴衆賞)受賞。同作品が'15年 第25回芥川作曲賞(サントリー芸術財団主催)にノミネート。‘18年 NHK委嘱作品「CollectionismⅪ/Sidhe for orchestra」放送初演。
作品は芸大フィルハーモニア、東京フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団などにより演奏され、その様子はNHK-FM「現代の音楽」などでも紹介されている。演奏会の為の芸術音楽、映像作品への楽曲提供、オーケストレーションなど活動の場は多岐にわたる。

Twitter https://twitter.com/ayamelodixxx
Web https://ayana-tsujita.tumblr.com/

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次回 #4 は青柿将大が担当いたします(9/19更新予定)。
お楽しみに!

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