【ライブ・レビュー】アンダーグラウンド・シーンの現場から ① 〈武田理沙・松本ちはや デュオ〉 2023.4.23 稲毛「CANDY」

こじんまりとした駅前の商店街を横に入った先、年季の入った狭いジャズ喫茶に、渋い雰囲気の白髪のおっさんが満員、つまり観客全員が男性! 女性は出演者と店主のみ。わざわざここまで聴きに来るのは、年季の入った目利きぞろいなのだろうが、もっと若い層にも、こういうとんがった音楽を聴きに来てほしいものだ。

武田は簡便なシンセとエフェクター類を、ピアノと代わる代わる、または同時に弾く。このシンセが相当手が込んでいて、カラーボールが四方八方へ飛び交うみたいで面食らった。噂通り、たしかにクレイジーだ(ほめてる)。ピアノはドビュッシーみたいで普通だが、うまい。ただピアノを完全に鳴らしきれるわけではないので、シンセが主で、ピアノはエフェクト的な用途。昔、佐藤允彦がピアノにリングモジュレーターを仕込んだアルバムがあったが、それとは逆の配置といえる。

松本はピアノに対してはスティックで、シンバルを多用したり鋭く切り込み、シンセには素手で叩いて、くぐもった音を変化させて対応していた。小道具的な打楽器類や笛などもすべて完璧に操作する。今回はチャカポコという細長いやつが印象的だった。流れを切り替える手際がまったく自然で、反射神経と機転がすごく、一瞬のちゅうちょも感じさせない。松本は瞬発力で驚くほど強烈な音も出せる。鼻先への平手打ちみたいなサウンド。リズムは前、前と来る。フリージャズには似ているが、ジャズにはあまり似ていない。もたったり、たわませたり、ためておいて跳ね上げる、という手は使わない。武道でいうところの「先の先」。ジャズだと「後の先」だろうか。今の松本はコンディションがすばらしく、全身が音楽の詰まった袋のようなものだ。出す音はことごとく澄み切っているが、その腕の動きを見ているだけでも優美さに魅了される。『ワンピース』でいったらニコロビンだ。

両者の音の形相が目まぐるしく入れ替わる。ただ、二人とも、どれだけ激しくなってもあまりダークなエモーションには持っていかない、きらびやかな閃光の飛び交う「表層の戯れ」に徹している。つまり、徹底してアブストラクトではあっても、どこかしらポップで軽やか。そこが新しいのだが、私のような長年フリージャズに親しんできたような人間には、陰影に乏しく感じるところがある。両者の資質がかぶってるので、演奏の緩急や形態は変わっても、色合いはさほど変わらない。演奏が長時間にわたると、その辺が飽和してくる面は感じる。しかし、これだけの長い即興演奏を一気に聴かせてしまうというのは、そんなにあることではないので、やはり驚異的だ。この二人が日本の即興演奏の世界でトップクラスのミュージシャンであることは間違いない。

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