【小説】蛸親爺(たこおやじ)【168枚】
その一居酒屋の前の往来、路のまんなかで蛸が酔っている。
「たーこたーこ、たーこたーこ」と地面を手で叩いて拍子をつけながら、
蛸が声高に唄う。
花風の吹く夕、往来に面して油染みた暖簾を出す居酒屋の、店先にはビールケースが積まれ、立て看板、一升壜、牡蠣殻が並ぶ。朱塗りの行燈の明りの先に、蛸が八本ある足をだらりと伸ばし、腹を兼ねた頭を横様に倒しながら、墨吐き口を突き出して唄っている。
唄う合間に、「ういーっ」と一つ吐く。また唄う。それを繰り返す。行き交う人々は、『あれは何だ』とい