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小説

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記事一覧

みちをわたってほしになる。 二人の人が先に上がって行った。 信号が変わったようで大通りを人が一斉に渡り、星空に上がってゆく。 出て、夜の静まった町を歩く。 トタンの看板で大きく書かれたものがある。 空家商家という看板。 雷鳴が聞こえ、雨が降ってくる。 タバコ屋で傘を買おうとする。 うなぎの寝床のような店。置くのガラス障子に紫色の光が明滅している。 呼びかけると、黒縁めがねの爺さんが出てくる。 傘を買いたいというと、貸してくれる。 どうも旅行か何かに行こうとしている。 列車

楽しい話

昔話みたいな雰囲気だけど現代のはなしっていうところがめずらしいかもしれないね。 おれれはたのしく読んだ。  馬と羊と牛とヤギと鳥が近くにいる。牛と羊はいつも違う場所で放牧されている。牛は日本の牛と違ってふつうの目をしている。 こっちはもう夏みたいになってきた。夜8時過ぎてもまだずっと明るいに。 ドイツの冬と春夏はぜんぜんちがうんだ。冬は一面茶色で枯れ草だったのに、今はきれいな緑で草の背丈ぐんぐんのびてきた。 今日は祝日だに。祝日はだいたいキリスト教にちなんだものなんだ。先週

俳句

少しばかり月かけたれば秋の空 夏草や並びて歩く夏野かな 季が重なっているが、構わない。 静けさや蝉も暑さで昼寝らし  夕方に蝉鳴き始め寝坊らし 猫丸く隅に眠れる星月夜 雀の子叢にありをちこちに 彼岸花枯れたる先に赤蜻蛉  名月や黒猫抱きたる人立てり 時雨止み晴るるを待ちて日暮かな 手焙りの前より動けぬ朝のうち 朝まだき節分豆の路にあり 昼の飯窓辺で食いて暖かし 茶花にせむ満作切りて女の曰く 木の芽どき朝より烏大音声 春雨や鳥も草木も眠りけり 春

小説的精神年齢鑑定法

自分の精神年齢を知る方法と言うものはいくつかあると思いますが、『小説を書いていて、最も書きやすい年齢がその人の精神年齢である』と言うようなことを文芸関連の本で読んだ覚えがあります。 自分の年齢よりも上の年齢の人物を書くのは難しいとされています。 想像に頼るわけですから。 小説に限らず、漫画やゲームに出てくる年かさの人物が主人公などの若者にとって都合のいいキャラクターになっているのも作者が想像で描くしかないからだと思います。 私が書いたものでは、二十代後半、27、28歳

広告年鑑を読んで

『コマーシャル・デザインが芸術を凌駕するのは、それが本物ではなく、本物の予告である。と言うことにある』 好きな言葉の一つです。 この間、広告年鑑を30年分見る機会がありました。 芸術の写真は、キャッチコピーをつけられないでしょうけど、個人的にはコピーは好きなんです。 デザイン、写真、キャッチコピーが決まったポスターは感動すらします。 鋭いキャッチコピーなどはメモしてしまいます。 比較的最近のものですと、earth music&ecologyの一連のシリーズはすてきでした。

引き出し

子供のころ、理科室の棚の引き出しを開けたら真鍮(しんちゅう)色の鉱物が入っていた。その物質を見たときに感じた妙な感情。何がどうなったらこういうものが出来上がるのか、魚屋にはまったくない無機質な物質性。

会食

会食は、何であれ、自分の力ではない物のおかげてあるから、感謝の念を見た目で示してから、食する。 会食の平等性。そこに座っている人たちは、ふつう、皆同じものを食べる。宗教学、民俗学的見地から言えば、「神々の恵みを平等に配分される場所」、という事になる。 昔、わたしが神主やっていたころ、出張で、朝霞の普段は神主がいない社に七五三で行ったんだけれど、その時、町会の人たちと天重を食べたら、わたしだけ特上だった。

GシャツTパン

ホワイトカラーのシャツを着れば、ボタンの一つがとまっていないのは、私の能力に対して、ボタンの数が多すぎるから。スラックスの後ろのポケットからタグが出ているのは、財布などを出し入れするところにタグがついているから。かつて神職をしていたときに、流浪人のような着こなしをしていたのは、体型が細かったから。スーツを着れば七五三。しかし、他の人びとは同じ現象を引き起こしていないから、原因は別のところにある気がする。 仕事場でのドレスコードがどこの職場にでもあって、厳しい方から「制服着用」

5分番組の悦楽

今はともかく、昔はコマーシャルばかり見ていました。 番組が始まるとチャンネルを変えてコマーシャルを探したものです。 コマーシャルは負の感情を呼び起こすものが少ないですし、15秒でメッセージを伝えるというものも好きでした。 コマーシャルではなくても、5分番組が好きで、ビデオに録画していたくらいです。 “世界あの店この店”を見て、世界を観光した気分になったり、”どたんばのマナー”を見て、中学生なりにテーブルマナーを学んだり。 5分番組はなんとなく安心して見ていられました。 基本的

マスターのような人

ニコニコ動画は、映像の上に見ている人々が思い付きのコメントを載せる機能があり、見ていると面白いものがあります。 Youtubeのコメントはあまり見ませんが、コメント文化と言うのでしょうか、ニコニコ動画のコメントは面白みがあります。 そのような動画の一つにジャズ音楽を聞かせる動画がありますが、それがあたかもジャス喫茶やジャズバーなどで音楽を聴いているかのようなノリになっています。 純粋に曲に対するコメントもあるが、『マスター、コーヒーを』とか、『マスター、ジンライムを』な

【小説】グラビア編集のABC【148枚】

一 「セーラー服に大人の下着を着けるからエロいんだろう」 息巻いて言ったのは、白のポロシャツもはじけんばかり、巨躯の副編集長、塩田さんである。 「初めて聞く説ですが、白とか縞とか、そういうのがマッチするんじゃないんですか」聞いたのは、二十歳の学生アルバイトの谷崎くんである。 「違う。逆に、エロいかっこうで下着が白だから、エロティックな錯乱が混沌を生み、リビドーが発生するわけよ」 「クロスさせるわけですか」 「そう。コントラストというものがリビドーをかきたてるんだ。なあ、川崎さ

【小説】コミック編集部。【128枚】

一 『お仕事は、なにをなさっているんですか?』との質問から始まる会話の流れは、人それぞれに決まったパターンができているものだろう。  教員や公務員や税理士などと答えれば、一言で説明できるうえに社会的な地位も示せるだろうし、サラリーマンや職人にしても、『自動車の営業です』と答えたり、『料理屋で板前をしています』と答えたりすれば済むのだろう。  自分の場合は、『漫画の編集者をしています』との答から始まることになる。  国勢調査ならばそこで済むのであるが、『どんな漫画なんですか』

グラビアポエム

不思議なことに、グラビアには、なぜか、モデルの写真の脇に詩が添えてある。 これを「グラビアポエム」と呼びますね。とりあえず。 キャッチコピーはキャッコピーとしててあるんですけど、たとえば、モデルの横に、「君と一緒にいられれば、毎日があたたかくなる」とかね。 だいたい、読者としての感覚の詩なんですけど。 なぜ、あるのか分からない。 読者のほとんどは読んでいないと思うんですけど。 それでも、なぜか、のつている。 グラビアの定型なんですかね。 これは編集者が書いてい

雑誌と書き言葉

書き言葉を支えているのは、出版業界なわけでして、それが縮小してゆけば、国語が消えてゆきます。テレビの影響で方言が消えて行ったように。 国語が消えてゆくということは、日本人としての、とは言うにまたず、その人のアイデンティティが薄まっていくということですよ。 WEB上の文章は、データを情報化したもので、マニュアルを求める消費者にとってはそれで十分なのかもしれない。 でも、「編集」の目を通していない文章が増えていくと、自分をますます目的に対する手段と化すような、機能としての人間に、