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同人誌の装丁覚書⑨ アイドルのCDアルバム風同人誌を作った

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同人誌の装丁覚書(マガジン)

はじめに

2021年もそろそろ終わるぞ~というときに2019年10月に頒布した同人誌の装丁について記事を書いてるの、ほんと~に今更だな。ですが書きたいので書きます。この本はわたし史上最も装丁にこだわった(そして今後ここまでこだわることはないだろう)同人誌です。

Fate/EXTRA CCCプレイ後、エリザベート=バートリーという少女の抱える矛盾について、彼女にも読者にももちろんわたし自身にも銃口を向けるような話を書きたいと思いました。でもその為にはジャパニーズアイドルの文化の文脈を知らねばなりません。今まで実在非実在を問わずアイドルに正直興味のないまま生きてきた人間が、ふわっとした認識でアイドルを描いたらだめだよなあ……。物語が成立しないよなあ……。そう思ってネタだけ温め数年経った後、欅坂46に出会ってしまったわたしはこれだ! と天啓を得たかのように、自分なりの「偶像」の話をするため同人誌を作ることに決めました。

せっかくアイドルものをやるんだから、CDアルバムと同じサイズの本を出したい。何ならブックケースに入れて、同人誌を歌詞カードとか特典のブックレットみたいな装丁にできたら絶対最高だし、帯もつけちゃお! あとはキラキラ偏光する特殊紙を表紙に使ったら以前出した本とリンクしてていいよね……。などなど、やりたい装丁のアイデアを全て実現しようとした結果財布の諭吉と引き換えにこちらの本ができあがりました。印刷所は特殊装丁の豊富さでお馴染み、いつものプリントオンです。

本の仕様

※タイトルなど挿入されていない状態

▼本の仕様(A5変形、142mm×124mm/全120ページ)
セット:新ホログラムセット - オーダーメイド
ブックケース:高透明フィルム300ミクロン
帯:トレーシングペーパー41kg
表紙:ジュエルペーパー195kg アクアマリン マットPP
本文紙:白上質紙70kg
きき紙:オフメタル シルバー/カラーオフメタル ピンク
口絵:キュリアスTLイリディセント55kg/グロスファインペーパー
イラスト:のそさん
デザイン:りんこさん

普段の本よりも仕様が盛り沢山なのが一目瞭然ですね。書いた紙の種類は基本的に正しいはずですが、本文用紙のみメモに控えるのを忘れていた/見積もり結果が残っていなかったため間違っている可能性が多少あります。でも多分これは白上質70kgだと思う。いつも愛用している淡クリームキンマリは敢えて選んでいません。今回の本のキャッチコピーは『真っ白なものは汚したくなる』(欅坂46の1stアルバム名より引用)のため、できる限り黄味のない純白の用紙を使いたかったからです。

実物写真

表面
裏面
CDアルバムとのサイズ比較
帯を取り外した状態(表面)
帯を取り外した状態(裏面)

▼ブックケース
表面:黒いペンでタイトル走り書き、表紙の岸波の顔を黒塗りにする(口元は見える)
裏面:奥付とサークルロゴ記載 それ以外特にイメージなし

▼帯
表紙側:黒いペンで「真っ白なものは汚したくなる」と走り書き+CDリリースの煽り文(ここは普通に明朝体でOKです)
裏表紙側:黒いペンで「あんたはあの子の何を知る? 本当になにを知ってるの? 一番知ってるつもりだった?」と走り書き、「本当は~」以降の部分を黒で全て塗りつぶす

デザイン依頼時りんこさんに共有したメモ

自室のライトが昼光色のため実際のイメージに近づけ加工するとどうしても画質が荒れてしまうような気がする……。大目に見てください。表紙は正面から見ると画面で見たのと変わらない、本当に鮮やかな発色なのですが、正面からだと自分の顔が映り込んでしまうため撮影できず。

こちらは冊子にブックケース・帯をつけた状態のものです。ケースは高透明フィルム300ミクロンで作成しているため、基本的に下の冊子がそのまま透けます。その性質を利用して、ちょうど岸波の目にペンで落書きしたような黒い斜線が入るようなケースを作成しました。
表紙だけ見ると大衆(=わたし含む読者)にとって理想化された主人公/偶像/アイドルとしての岸波白野の笑顔だけが見え、ブックケースをつけるとそんな彼女を否定するエリザベートの矛盾した感情が浮き彫りになる……というギミックです。なので、タイトルロゴはともかく帯文は整っていない、正に走り書きの字を敢えて印刷してもらっています。
帯文の殆どは『真っ白なものは汚したくなる』からの引用ですが、赤いアオリ文はりんこさんが考えてくださったものをそのまま使用しています。本当にありがとうございます……。りんこさんには裏面の注意文も考えていただきました。これがあるのとないのじゃCDっぽさが段違い。

表紙
裏表紙

本の表紙はこんな感じ。正面から見ると本当にデータで見たまんまの色合いなのですが、傾けるとピンク~青みがかった色に輝きます。マットPPをかけているのであまりギラギラとせず、淡い印象です。
白押さえしているのは表紙下部のタイトルロゴと人物の部分。ただし、人物の瞳だけは白押さえせず紙の地がそのまま出るようにしたので、よく見ると輝いて見えます。前回は透明箔でキャラクターの瞳の輝きを表現しましたが、CMYK+ホワイト印刷が可能だと箔を使わなくても一部をキラキラさせることが可能です。

鏡のようなきき紙(前)
トレーシングペーパー口絵
カラー口絵

本の見返しはいつもの遊び紙ではなく、きき紙(表紙2-3部分に紙を貼り付ける)のオプションを使用しました。
ファンの望む理想の体現者という意味で、アイドルは鏡というモチーフと切っても切り離せない存在だと思います。表紙を捲ってすぐ目に入る表2部分にメタルペーパーを貼り付けることで、直感で鏡を想起してもらいたかったのでこうした装丁にしました。自分の顔が物語の中に物理的に映り込むことで、読者の方にただの傍観者ではなく当事者としての意識も持っていただけたらいいな……という願望もあります。

口絵に寄稿していただいたイラストは元々一枚なのですが、こうしてトレペとコート紙の二枚にレイヤー分けすることで、トレペに描かれているモチーフ=理想/コート紙に描かれているモチーフ+エリザベート=現実の対比をわかりやすくしたいという狙いがありました。トレペはキュリアスTLイリディセント55kgという玉虫色に輝く偏光ペーパーなので、こちらも傾けるとまた色合いの雰囲気が変わって見えて綺麗です。

目次(右下に地獄の門の碑銘を引用)
本文
きき紙(後)

▼体裁(A5で作成)
字数:29字
行数:25行
フォント:FJS-筑紫明朝 Pr6N R 8.5pt
上端:110mm
下端:13mm
左端:28mm
右端:20mm

変形断裁本ですが、プリントオンからの指定があり本文はA5サイズで作成しています。読み心地的にはA6文庫サイズが近いのかな……? 今見るともうちょっと行間が空いていた方が読みやすかったかな、と感じるので作り直すなら左右の端を5mm程狭めるかも。まあ、この本文のデータ作成がとにかく大変(テンプレートがないため)で多方面に迷惑かけまくったので、もう二度とこんな変形断裁はやりませんが……。やるとしても印刷所がテンプレートを用意してくれているような正方形本とかしかやりたくない。

表3のきき紙は表2のメタルペーパーと種類は同じものの、エリザベートのようなマゼンタ系のピンクを選ぶことで、彼女がアイドルという存在に対して物語の中で出した答えを強調させました。本作では岸波白野=無色透明、白というイメージだったので、色の違う同じ紙を使用することで二人の対比もできたらいいなと思い選びました。

おまけの副読本や頒布していたステッカー、ポストカード

いつもならここで終了……なのですが、副読本やタイトル以外に別途デザインしてもらったものがあるので紹介します。
いつもいつもオリジナルの設定が多い話を同人誌にしがち+後日談を書きたいがために、今回の本から副読本をつけることにしました。こちらの印刷はおたクラブに依頼しています。表紙と本文用紙が一緒の中綴じ本なので安価に済むため、こうした無配の薄い本を作るのにぴったりだな……といつも思います。もし我が家にプリンターがあれば、自分でコピーして製本していたと思うのですが。

画像右下の水色と紫のステッカーもおたクラブに依頼しています。これはりんこさんにデザインしていただいたもので、作中に出てくるアイドルグループ『少女未完成』のロゴマークです。二案作って頂いたのですが、どちらも可愛すぎて採用させていただきました。
右上のポストカードはSTARBOOKSに依頼したものです。どうしてもこのロゴにつや消し銀の箔押しがしたいと思い、名刺かポストカードに箔押しのできる印刷所を探してSTARBOOKSに行き着いた気がします。
どれもアイドルグループ『少女未完成』にリアリティを与えてくれるグッズ(特にステッカー!ライブに行くとよく配布されてるので)で、見返す度に作ってよかった……と思います。

感想まとめ

・装丁でやれること全部やるとテンションが上がる(諭吉はいなくなる)
・特殊紙にホワイト印刷を利用することで紙の風合いを活かしたギミックのある表紙を作ることができる
・透明フィルムやトレーシングペーパーなど、下の紙と重なり合って意味が生まれるデザインは楽しい
・遊び紙以外にきき紙を使うという選択肢もある
・特殊な変形断裁をしようとするとテンプレートがなくデータ作成が大変なので注意

この同人誌を作ることで色んな発見があったなと思うのですが、今は発見以上に印刷所と何度もデータ不備でやり取りした記憶が蘇ってくるので、これ程特殊なことはもうやりたくね~な……。という気持ちでいっぱいです。それでもやっぱり、手間をかけた分だけ思い入れのある素晴らしいデザインの一冊を作れたので後悔は全然ありません。
それに、今年出した新刊を書き上げることができたのはこの本が自分の礎となってくれたからです。この本がなければあんな長い話は絶対最後まで書けなかった……。この新刊の装丁についてもいずれ紹介します。

次回更新では2020年に頒布した文庫本の紹介記事を書こうと思っています。来年の話になりますが、気長にお付き合いいただければ幸いです。それでは皆様、よいお年をお迎えください。

サポートが何なのかわかってないですが、していただいたらメチャメチャ感謝します。