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日本なりのIRを探る

 統合型リゾートと聞いて、どの国のどのような施設を思い浮かべるだろうか。3つの高層ビルが屋上で連結したシンガポールの湾岸沿いのIRや、アメリカのラスベガスで光り輝くビル群などを思い浮かべる人は少なくないだろう。

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 では日本に設置されるであろうIRは、どのような施設になるのだろうか。あらゆる書籍や記事などにおいて「シンガポールを参考にすべき」といった意見が散見されるが一体どのような部分が参考になるのであろうか。また他の国も参考になる失敗や成功があるはずである。今回の記事では各国のIRの事例を紹介し、そこから学べる点を日本のIRにどう活かせるか考察を試みた。

■海外のIR


まずは海外のIRを個別に見ていくのではなく、大きく3つの型に分けて紹介する。その3つとは「アジア新興国型」「アメリカ型」「ヨーロッパ型」である。それぞれの型の特徴を紹介しつつ、特筆すべき事例に触れていく。

型たち


・アジア新興国型


まずはアジア新興国型である。これはIRの導入によって観光客を呼び寄せることで、国の経済を大きく改善させた例で、シンガポールやマカオのIRが好例だ。豪華な建築が建設され、世界中から観光客が訪れる光り輝く観光地である。

もちろん良い例ばかりではない。自国民のカジノ利用を上手くコントロールできなかった韓国の江原ランド(カンウォンランド)では、ギャンブル依存症患者の増加や周辺環境の悪化を招いた。江原ランドのカジノ入場者全体のうちで韓国人の割合は99%というデータもある。廃れた炭鉱の街を救うべく打ち出した対策であったが、結果として人口は減り、治安は悪化した。

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一方でシンガポールでは自国民の利用を規制・管理を徹底した。もともと地元の業者がカジノ産業を独占していたマカオでは暗いイメージを持たれていたが、2002年に外資系カジノ関連産業が参入したことによって払拭された。カジノ以外の機能を充実させるIR化によって家族でも利用できるようなリゾート地へと変身したのだ。

・アメリカ型


次はアメリカ型のIRである。アメリカではカジノを観光振興、地域振興の手段として積極的に導入していることから、全土に大小合わせて979ヵ所ものカジノが存在する。

その中でもアメリカのカジノと言えばラスベガスを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。ラスベガスではカジノだけでなくホテルや多くのアミューズメント施設が複合され、家族連れにも人気の観光地となっている。他所ではみられないようなショーも集客に大きく貢献しているて、最も成功しているIRの一つではないだろうか。

ではアメリカの他のIRはどのような状況に置かれているのだろうか。実は経済的に苦しいIRも少なくないのが現状だ。例えば世界有数の観光地に近いカリフォルニア州ハリウッドで1996年にオープンしたハリウッド・パーク・カジノは当初、年間1000万ドルを市に納税すると見込んでいたが、現在では1800万ドルの負債を抱えており、市当局の財政を圧迫している。

この一つの理由として「IRの経済的効果は長続きしにくい」という点にある。「ギャンブルの政治」という著書もあるセントメリー大学のパトリック・ピアース教授は「カジノの経済効果の多くは建設中のところにある」と断言している。周りの観光資源などに恵まれ、唯一無二なコンテンツを提供できるような施設にならなければ、地域経済が疲弊しているところにカジノを建設しても、その効果は長続きしないという。

さらにnocでの考察において、アメリカ全体のカジノの多さにも原因があると考えた。多くの選択肢がある中で、観光客が自然と選ぶのは魅力的な観光資源のある街のIRではないだろうか。2つ以上のIRが近接した場合には尚更である。


・ヨーロッパ型


ヨーロッパでカジノを合法とする 各国では、伝統的に中小のカジノが存在してきた。そこから、様々な機能が複合化されたIR施設の導入に向けて動き始めているが、敷地の確保や資金調達元となる金融市場の安定が壁となっている。

ただし施設そのものが大規模化・複合化されているわけではないが、中小のカジノ施設が周辺観光資源と密なる連携を行いながら、地域全体で複合的な観光機能を提供するような開発様式は見られる。街全体でIRという考え方は、前回の記事で提示した横浜にカジノのみを誘致する案を考えるきっかけとなった。

また他の例として自然豊かな地にIRを建設することによって、ワーケーションの場として活用されることを狙ったものなども存在する。スイスの「Grand Casino Baden」には自然豊かな地に温泉を建設し、ゆっくりとした時間を過ごすことのできるIRである。

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■海外から日本へ


上記の3つの型を見直してみると、そもそもカジノの数が多い「アメリカ型」「ヨーロッパ型」は日本の参考になりづらく、「アジア新興国型」の中でもギャンブル依存症を上手くコントロールできているように見えるシンガポールが日本の新しいIRの参考になるのは自然な流れのように見える。しかし今回の記事では他の型から得られる情報を日本のIRに活かす考察を行った。

まずは韓国の江原ランドのような事態を日本で起こしてはならないということである。ここで大切なのは「自国民への規制」を「事前」に行い、対策が後手に回らないようにすることである。また周りの観光資源へ誘導するような二次交通の整備が不十分だったという声もある。交通経路が分かりづらい日本でも十分な配慮が必要な事であろう。

次はアメリカ型から学べる「近接した場に作らない」ということである。例えば現在の日本の候補地である「大阪」「和歌山」「愛知」などは比較的近接しており、この中から多くても1ヵ所が理想である。

最後にヨーロッパ型のように柔軟に周りの資源を活かすことを考えるべきである。街全体としてIRとしたり、豊かな自然を生かしたワーケーションの場など特徴のある場を作れば、出来上がる三つのIRが観光客を奪い合うことなく、経済的な効果を生み出しやすいのではないだろうか。

ここで前回の記事同様に、本記事でも勝手に1つの候補地を推してみたいと思う。

本記事で推す候補地は「和歌山」である。

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まず前提として「横浜にカジノのみ誘致する」前回の案を採用している状況で考えるものとする。和歌山を推す理由は、すでに和歌山がワーケーションの場を作り上げることを目指しているからである。都会の喧騒から離れた和歌山は、他の候補地と比べてワーケーションに適しているように思える。また大阪や京都といった日本でも有数の観光地に近いので、そちらに足を伸ばすような過ごし方を両立できる点も推したい点である。

ここで注意したい点は交通の充実である。現在の候補地である和歌山マリーナシティ周辺で交通路が充実している様子は見られない。IRの設置に伴って、十分な配慮が必要になるだろう。また和歌山にIRを設立する場合には大阪や愛知への誘致は控えるべきである。それぞれが観光客を奪いあう形となる可能性は高く、その場合和歌山はその勝負に負けてしまい地域経済が圧迫されてしまうだろう。

このコロナ禍において働く場所はオフィスから解放されつつある。zoomなどオンライン会議のツールを使用すれば、世界のどこにいたって会議に参加できる。そうなればワーケーションの需要は今後増していくのではないだろうか。現在の候補地の中で和歌山だけが、時代の流れに沿ったIRへと変貌する可能性があると我々は考えた。

参考文献
カジノ問題を根っこから問い直す――IRは本当に経済効果があるのか
・世界のIR運営事例とIRの社会的影響対策などについて
・カジノ法案の今後を海外のカジノ戦略と依存症対策から学ぶ

(文責:佐藤)

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