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映像や小説が表現する「渋谷」とは


・物語から見る「渋谷のまち」とは

渋谷を題材とした記事やレクチャーで「若者のまち」や、「成長を許容するまち」というタイトルをよく見聞きする。果たしてそうなのだろうか。ありきたりなテーマでは今までの議論と同じになってしまうので、映像・小説・漫画などの物語から渋谷のまちについて取り上げてみたいと思う。


・映像や小説が表現する渋谷はどんな「まち」か

渋谷を舞台にした物語は多くあるが、物語から見る渋谷はどんな「まち」として扱われているのだろうか。映画では、「凶気の桜」「バイオハザードIV アフターライフ」「バケモノの子」、小説では「1Q84」「蛇にピアス」「ピンクとグレー」「優しい大人」、漫画では、「渋谷区円山町」「インディゴの夜」がある。聞いたことがあるようなタイトルもあるのではないだろうか。しかしこれらのタイトルやジャンルだけをみても共通点を探すことは難しい。「凶気の桜」や「蛇にピアス」のようなアングラ系もあるかと思えば、「バイオハザード」のようなサバイバルホラー、「バケモノの子」や「1Q84」のようなファンタジーが混じったようなジャンルもある。そこで本記事ではストーリーから渋谷の街はどんな「まち」として扱われているのかについて考察する。


■新宿と渋谷を舞台とした映画・小説・漫画

映画や小説、漫画などである街を舞台に物語の設定は良くある。新宿といえばアングラな世界観を想像するし、下北沢だと俳優の下積み時代を描いたストーリーを想像する。丸の内だとOLを想像するし、地方の田舎だとスローライフ的な物語を想像してしまう。当たり前だが、ある街を舞台に設定することは、その物語の雰囲気を読者に伝えるための一つの手段となっている。

ここでは新宿を舞台にした物語と渋谷を舞台にした物語をそれぞれ3つずつ、映画、小説、漫画から紹介し、それらの物語が映し出すまちについて考察する。


■新宿 

ここでは新宿を舞台とした物語を、映画・小説・漫画から紹介し、新宿を設定した理由について考察する。新宿といえば、歌舞伎町の歓楽街とヤクザやホストクラブのダークな世界観を想像する。深夜食堂、テロリストのパラソル、新宿スワンを見てみようと思う。


・深夜食堂

常連で賑わう深夜食堂には、ワケありな客が現れてはマスターの作る懐かしい味に心の重荷を下ろし、また歩き出していくという物語である。ヤクザやホステスといった登場人物も多いが、医者や元アイドル、刑事やOL、ニューハーフといった様々なバックグラウンドを持つ人々が往来する深夜食堂は人情味の溢れる映画である。新宿にある食堂が舞台を舞台としているが、多様な人々が集まる場所として描かれていることに注目した。


・テロリストのパラソル

乱歩賞と直木賞を受賞した小説で、舞台は新宿の公園である。主人公はアルコール中毒のバーテンダーで、ホームレスやヤクザなどが登場する。爆弾事件を解決する物語ではあるが、ヤクザや警察から逃走し、徐々に裏社会へと入っていく。新宿のアングラな社会を連想させる物語に注目した。


・新宿スワン

女性に水商売を紹介する歌舞伎町の裏社会を取り扱った物語である。実在したスカウト会社の元スカウトまんが作者であり、作者が体験した実際の体験にフィクションを加えた物語となっている。登場人物はスカウトとホステスがメインで、アダルト業界やヤクザなどが絡むアングラな世界観が描かれている。作者自身が体験したことをもとに物語が作られており、新宿の裏社会の描写に注目した。

・新宿を舞台とした物語

新宿を舞台とした物語は歌舞伎町などが取り上げられ、アングラな世界観や人情ある人々が表現されることが多いように感じられる。

歌舞伎町が想像させるアングラ感や様々な背景の人が集まる新宿だからこそ、あらゆる人間関係や人々の人情を表現する手段として用いられているのではないだろうか。読者や鑑賞者にとっても新宿を取り上げることで、アングラ感のある世界観や人情味溢れる人間ドラマの世界観に入っていくことができる。


■渋谷

ここでは渋谷を舞台とした物語を、映画・小説・漫画から紹介し、渋谷を設定した理由について考察する。渋谷といえばやはり若者のイメージが先行してはいるが、正直渋谷といえばOOというのが思いつかない。より詳しく見るために本記事では、バケモノの子、優しい大人、インディゴの夜を見てみようと思う。


・バケモノの子

人間界に生きる主人公の少年はある日バケモノの世界「歩天街」へ迷い込む。迷い込んだ主人公は当時9歳でそれから8年間もバケモノの世界で暮らすこととなる。8年後、成長した主人公は人間界に戻ってくるが、バケモノも人間界である渋谷へと移り戦闘の舞台となってしまう。ここでの渋谷はバケモノのいる異世界と人間界を繋ぐ機能を持つ舞台として表現されている。主人公を異世界へ繋ぐ機能だけではなく、異世界のものを渋谷へ繋ぐ機能も持ち合わせている点に注目した。


・優しい大人

スラム街と化した渋谷で、ホームレスの主人公はストリートチルドレンとしての生活や地下生活を経験する。そして主人公とその周りを取り巻く人との物語である。ここでの渋谷は、アンダーグラウンドな地下など様々な舞台がある場所として描かれているが、同時に近未来の日本として扱われており、現状の渋谷ではなく、新しい渋谷として描かれている点に注目した。「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞を受賞した小説家・桐野夏生の作品で、女性探偵村野ミロのシリーズでは新宿歌舞伎町を舞台とした作品も描いている。


・インディゴの夜

舞台は渋谷川沿いにあるホストクラブである。そのホストクラブには様々な事件が舞い込んできて、ホストクラブindigoのオーナー晶とホストが渋谷の街を奔走する、個性豊かな登場人物たちと解決していく物語となっている。ここでは現代の渋谷を舞台として、ホスト業界の描写ではなく、個性豊かな登場人物に焦点を当てた作品となっている点に注目した。

・渋谷を舞台とした物語

渋谷を舞台とした物語はアングラな世界観も取り上げられるが、そのアングラさに焦点を当てるのではなく、そこから起こる予想外の出来事に焦点を当てているように感じる。同じようなホストクラブを題材としたものでも、ストーリーの展開が新宿と渋谷では異なる。渋谷という場所を用いながらも、場所の特徴を利用するのではなく、そこから新しい展開を生み出している。物語に渋谷を取り上げる事で、未知のものとの出会いなどを期待させる効果があるのではないだろうか。

■多様性を許容するまち

前回の記事に記したように、渋谷は既に記号として機能していて、「とりあえず行けば何か体験できる」という期待感が存在している。

映像や小説から切り取ることができる渋谷はこの記号性を利用した「多様性を許容するまち」として扱うことができるのではないだろうか。
渋谷に行けば何かが起こる、体験できるといった記号性としての渋谷を用いることで、ストーリーが展開していく物語が多いように思う。渋谷を舞台とする物語は、すでにある概念や特徴を活かして物語のイメージを想像させるのではなく、渋谷に新しい概念を挿入する形で物語が展開している。渋谷を舞台とする事で、新しいストーリーを違和感なく挿入しやすくなっているように感じるのだ。これは多様性の許容と言えるのではないだろうか。

バケモノの子を例に挙げると、仮に新宿や上野といった「まち」が異世界へ繋ぐための街として取り上げられたとしても、違和感はないように思える。しかし白鯨が泳いだり、異世界で成長した主人公が時間を超えて都市に挿入されることに違和感を感じないのは、渋谷というまちの特徴ではないだろうか。渋谷が多様性を許容する媒体となり新しいストーリーを生み出しやすい効果を与えている。

物語から見る「渋谷のまち」は、若者の街でも成長を許容する街でもなく、多様性を許容するまちとして扱われていた。リアルな空間が刻々と変化している渋谷だが、これまでと変わらず記号性として扱われるのか、それともまた異なるまちとして扱われていくのか「渋谷」を舞台とした物語の今後にも注目していきたい。

映画深夜食堂 
映画「バケモノの子」が渋谷を舞台にしたワケ 
渋谷文化 渋谷の書店がおすすめする3冊 


(文責:西)






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