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大阪デクショナリー3

大正区、港区、西区の大阪西部エリアを中心に、年に2回発行しているフリーマガジン「Lifes」の中で連載している、絶滅して欲しくない大阪弁を思いつくまま紹介しているマイ“デ”クショナリーです。

【あ行】
あらへんがな

目的のものがない様。

「アレどこやってん、あらへんがな」と父がよく言ってた。アレとは自分専用の孫の手のことだ。基本、その孫の手は父しか使わないので、とどのつまりは自分がどこかに置き忘れてるのを誰かのせいにして自分への苛立ちを緩和したいんだろうなと。
結局、孫の手はソファクッションの間や、読んだ新聞の間に挟まれていた。見つからないと「あらへんがな、どこやるねんな」とぶつぶつ言いながら背中を柱に擦り付けていた。数年前、映画「ジャングル・ブック」を見ていた時にクマが父と同じように木に背中を擦り付けているシーンがあって笑ってしまった。

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いんで

帰ってくださいをフランクに言った様。

一時、モーニングを食べによく通っていた喫茶店があった。店内は近所の老人たちが集う憩いの場だった。通って行くうちにご常連たちの人間関係も見えてくるわけで、それをなんとなく窺い知るのが面白かった。月曜になると週末の競馬の結果を反省会しているおっちゃんグループがいて、いつも「もう、いんでや」「もう、いにいな」「いね!」と言われてるおっちゃんがいた。「そんなこと言いないな、今週は大丈夫やから」と笑いながら言うてはった。どうやら毎週、競馬の予想がハズれて、モーニングを毎回グループの誰かに奢ってもらおうとしてたようだ。とはいえ「いんで」とか言うてた他のおっちゃんらは結局、払っていた。

遠慮のかたまり

食べ物など、最後に残ったひとつのこと。

一時、SNS上でも話題になっていたけれど、自身も全国で普通に使われていると思っていた。シェアする料理の時、大阪人でも一つ残ったりする。東京などではそれがある意味、謙虚さ、美徳なスタンスなんやろうけど、きっと内心では食べたい!と思っているのは誰もが思うところ。それを「遠慮のかたまり」と言う表現は秀逸やなと思う。「遠慮のかたまり、誰か食べよし」「遠慮のかたまり呼ばれるで~」と言うことによって食を囲む空気がなんだか円滑になるような気がする。

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【か行】
串カツ

牛肉などを練り粉とパン粉につけて油で揚げ、ソースで食べる庶民的料理。

昔、串カツは、おおっぴらに食べるもんではなかった。特に新世界界隈は、何の肉使ってるかわからんから。と言われてたり、揚げ油もいつのかわからへんから食べたら胸焼けするから、そんなん子供の食べるもんやないとも言われていた。普段食べるとすれば、惣菜感の強い串フライとかだった。そんな都市伝説漂う地下フードが、大阪を代表するB級グルメとなり、ハレの食べ物として持て囃されているのはつくづく時代やなぁとしみじみ。だから二度漬け禁止というソースパフォーマンスがコロナの影響でできなくなったのはちょっと悲しい。

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こまい

小さい、細かい様

100円単位のお店などでお札と出すと「なんや、こまいのないんかいな」と言われたものだった。それを言われるとなぜか罪悪感が湧いたものだった。それで「ちょっとどっかでこまかしてきましょか」と言うてしまうことが多々あった。あれはどういう感覚やったんやろか。

【さ行】

さいぜん

先ほどの意。

漢字では最前と書くみたい。字は言葉を表している。「さいぜん言うたがな」「さいぜん渡したばっかりやろ」とちょっと呆れた感じに使うことが多いです。


しーこいこい

小さい子におしっこを促す時に口ずさむ言葉。

ずいぶん前、中国人の子どもが上海のディズニーランドで立ちションをしていてけしからんみたいなコメントともにネットで流されていた映像を見たときに昔は日本もそうやったやんと思いながらこの言葉を思い出した。中国語でもあるのかなぁ。

しゅんでる

食べ物の味がしみている様。

母親が居酒屋をやっていたとき、おでんを出していた。お客さんが注文したときに母親は「浅いの?しゅんでるの?」と選択肢を与えていたっけ。女性は浅め、男性はしゅんでるのを選んでいるのが多かった。僕も厚揚げやちくわ、大根のしゅんでるのをご飯に乗せてグジャグジャにしてかきこむのが今でも好き。行儀悪いけど。


【た行】
だぼ

馬鹿の事

仕事をし始めた頃、ミスしたことを怒られた時、上司から「この、だぼ!」と言われたのだけど意味が全くわからなかった。大阪に生まれ育っても初めて聞いた言葉だったので、後日、「だぼってどういう意味ですか?」と尋ねたら「バカタレのことや!そんなんもわからんのか、このだぼ!」とまた言われた。大阪でも寝屋川方面、尼崎などで使われているようだ。河内弁もたいがいやなと思うけれど、だぼもたいがいな響きだなと思った。いつか使いたいなと思ったりもしたけれど、意味を解説しないといけないのがめんどくさいなと思ったので使ったことはない。

ていっ!

子どもにちょっと怒る時に使う威嚇言葉。

元々はてんごしな(暴れるな、悪さするな)や黙って、大人しくしてをおっちゃんやおばちゃんが端的に言うと「ていっ!」となるようだ。バタバタと走り回ってる子どもたちに突然大声での「ていっ!」は効果絶大だった。そんな「ていっ!」を30代後半以上の関西人に広く浸透させたのはミヤ蝶美・蝶子という女性漫才コンビ。ドカベン香川似のミヤ蝶美が持ちギャグとして漫才の中で頻繁に使用していた。一時は活動を休止していたけれど、ここ数年復活して今も「ていっ!」って言うてはる。

道具屋筋

千日前道具屋筋商店街のこと。

なんばグランド花月すぐのところ、“道”という文字がどどーんと掲げられるファサードが目印。料理・調理に関するあらゆるものがここに集約されている。まい道くんという丁稚のような子がキャラクターになっている。実際歩いてみると、それほど広くもない道幅、長くもないアーケードに様々な店が密集、さらに♩どどーん道具屋筋ぃ~どどーん道具屋筋ぃ~というテーマソングがリフレインされているので、つい自分も飲食店やりたいなと暗示にかかりそうになる。先日、友人のカメラマンがこの商店街の店で雪平鍋を買った。5000円以上するなかなかの鍋。一生使うと言ってた。

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【な行】
にぬき

ゆで卵のこと。

モーニングを楽しみに喫茶店に通っていたとき、トーストと一緒に出てきたのがにぬきだった。今でこそ半熟、温泉卵などバリエーションがあるけれど、昭和の頃は固ゆで一本だった。しかも黄身と白身の間は茹ですぎてブルーになっていた。でもそれが当たり前だと思っていたので誰も文句は言わなかった。そのにぬきの殻をうまくつるんと剥き、てっぺん部分を軽くひとかじり。そのかじった部分に適度に塩をかけ、後はひと口でパクリとするのが好きだった。パサパサの黄身の部分とニッちゃりした白身の部分を咀嚼するにつれ喉が詰まりそうになるのも、にぬきを食べている実感だった。

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【は行】
パイセン

先輩の事。

漫才師、矢野・兵動の兵藤大樹の相方、矢野勝也が「パイセンやで!」と頻繁に使っている言葉。本人は出身である尼崎市周辺でよく使われていたと言っていたけど、実際はそれほど使われておらず、矢野自身が普及に努めている。なんでも言葉を逆さにしていた放送業界での用語的でもある。ちなみに、矢野のパイセンをモチーフにしたお土産も作られている。

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ぴっぴ

下痢のこと。

山崎豊子原作を市川崑監督が市川雷蔵を主演に映画化した「ぼんち」の中で、「朝からだだくだりですねん」と腹を抑えながら、主人公の息子が言うてたけれど、妙に生々しい。それに下痢という響きも耳に引っかかる。そういう意味ではぴっぴという言葉は幼児言葉ではあるけれど何かフェアリーな感じがして大人が言っても可愛く思える。蛇足やけどアストリック・リンドグレーン原作の童話「長くつ下のピッピ」を見かけるとつい、下痢が頭に浮かんでしまう。刷り込みというのは恐ろしい。

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豚まん

肉まんとも言われる、豚ミンチに玉ねぎなどを混ぜた餡を白い皮で包み蒸しあげた豚饅頭。

大阪は「551蓬莱の豚まん」である。「二見の豚まん」もあるけれどそこはネームバリューで「551」の勝ちだ。「豚まんがある時~、ない時~」で雰囲気が明るくなる、悪くなると言う分かり易すぎるCM。だから手みやげなどハレの日のもんと位置付けられている。実際、豚まんがむっしり詰まった赤い箱を渡されるとテンションは上がる。けど、電車の中で食べられてたり、匂いが充満してたり、一人暮らしで晩御飯としてというシチュエーションになると若干、ないとき~的な空気になる。

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【ま行】
まんまんちゃんあん

神様や仏様に拝む際に子どもに促す言葉。

小さい頃、祖父母の家に行くと、まず祖母は「手ぇ洗ろて、口うがいして、まんまんちゃんあんしなさい」と言った。それは自分が高校生になってからも言われ続けていた。「まんまんちゃんあん」の「まんまんちゃん」とは、南無阿弥陀仏の関西弁幼児語。「あん」はあな尊しの幼児語でさらに合掌の動作を指すらしい。そんな意味は知らないけど、仏さんの前では「まんまんちゃんあん」と言うとけば間違いないと頭に刷り込まれていた。
いまだに「南無阿弥陀仏」と唱えるよりも「まんまんちゃん」と言うと童心に戻った気がしてホッとする。


めばちこ

麦粒腫と呼ばれ、まぶたの表面や内側に脂腺の急性可能性炎症のこと。

関東ではものもらい、他の地域ではめいぼ、めっぱ、めこじきなど様々な呼び名があるのが面白い。大阪ではめばちこ。目をパチパチしてしまうとこから言われだしたという諸説もあるけれど、小さい頃、めばちこになった子を見ると「うわ、お岩さんや~」と比喩していたっけ。とはいえ、今はそれこそお岩さんのようなめばちこを患った人は見かけなくなった。医療が進んだのかな、それとも世の中が綺麗になっているからか。だって子供の頃のめばちこの原因て、砂場や犬、猫、チンチンを触った手で目を触ったらなってしまうと言われてたから。

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【ら行】
ラジオ大阪

正式には大阪放送株式会社と呼ばれるAMラジオの放送局。

弁天町のORC200の中にあるラジオ局で。20代の頃はここで吉本芸人のラジオの構成をやらせてもらっていた。小学生の頃、DJごっこをしていた身としては初めてスタジオに入ったときの嬉しさは格別だった。その後、なぜか縁あって自身もラジオ大阪で映画のサントラを流す番組や朝の情報番組のワンコーナーを担当させてもらったりしたのはいい思い出。インターネットラジオやコミュニティFMで映画番組をやらせてもらっていたのは、ラジオ大阪のおかげ。だからいまだにラジオは大好き。↓下記でアーカイブが聴けます。

【わ行】
わたい

自分のこと。

落語家さんとおばあちゃんが使うとしっくりくるなぁ。あたいになるとすれっからしの女性になる。

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