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詩日記

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2023年4月の記事一覧

雲の上に乗れる

雲の上に乗れる

雲の上に乗れると思っていた頃
雲の上に乗れないことを知っていた人は
笑った

雲の上に乗れないことを知った時
雲の上に乗れると思っている人を
笑った

雲の上に乗れないことを知っている自分と
雲の上に乗りたいと思った自分は
笑った

怪物

怪物

大きな大きな、とても大きな怪物が街にやって来た
海より山より自然より大きかった
比べるすべてのものより大きかった

川の水を飲み干し
森の木を食べ尽くし
街の宝を踏み潰した

人々は悲しむことも苦しむことも泣くこともできず
怪物が眠る夜、逃げた

夜が明けるとほとんど同時に
隣の街に辿り着いた

地平線の先から静かにゆっくり昇る朝日が
とても眩しくて数滴、涙を流した

流した涙は拭わなかった

地球は周る

地球は周る

小さいこと、大きいこと、中くらいのこと、
色んなことが沢山ある

雨上がりの朝も新月の夜も
気怠い春も背筋伸びる秋も
なんでもない日もせわしない日も
色んなことが沢山ある

色んなことが沢山あったことをなにも知らないで
地球は昨日と同じ速度で今日も自転する

泡

誰にも気づかれないように沈んでいく
音を立てず

黒く暗く深い海の底は遠い
沈みゆく途中も音を立てず

静かな海は沈むほど静かで
底に着くまでも音を立てず

声なき声を上げても音にはならない
静寂の中で音は音にならず泡となる
水面に上がっていく泡をひとり見ている

頑張る

頑張る

今頑張らないで、いつ頑張るんだ
未来の自分は言う

考えてくれない
教えてくれない
助けてくれない

今頑張らないで、いつ頑張るんだ
同じことをもう一度、未来の自分は言う

考えてほしい
教えてほしい
助けてほしい

今頑張らなくても、いつか頑張るから
過去の自分は言った

考えろ
教えろ
助けろ

今頑張ってるから、今の自分がいる
今の自分が、今頑張るしかない

暗闇

暗闇

暗闇を抜け出したくて
朝日が昇るのをじっと待つ

暗闇を抜け出したくて
壁に付いているスイッチを探す

暗闇を抜け出したくて
微かに見える一点の光の方へ向かう

立ち止まる

何も見えない
何も聞こえない
何もわからない

一歩を踏み出す
次の一歩が一歩になることなく消えるかもしれないけれど
光の方へ一歩を踏み出す

おまじない

おまじない

ここではないどこかとおくのくにへ
夜、眠りにつく前に唱える

おねがいごとのように
おまじないのように
おいのりのように
夢の中で叶うように

どこにいくこともできずここにいる
朝、起きて少し安心する

光の射す方へ

光の射す方へ

暗闇の中に一点の光が差し込む
光の射す方へ向かっていく

光は強くも弱くもならない
光は大きくも小さくもならない
光は明るくも暗くもならない
光は近くなることも遠くなることない
光は光のまま消えることなく灯り続けている

光は見える
光の射す方へ向かっている
光の先は見えない

歩き続けた足を止める
前を向き続けた目を落とす
信じ続けた心を疑う

もう一度光の射す方へ踏み出し顔を上げる
光はいない

もっとみる
青い炎

青い炎

強く激しく熱く
草も木も森も
芽も花も実も
地も空も風も
雲も雨も嵐も
燃やし燃えたぎる

絶望の中の光となり
暗闇の中の灯となり
迷路の中の標となり
厳寒の中の暖となる

空より青く
海より青く
月より青く

消えそうで消えないで
命の中で永遠に燃え続ける

電柱のそば

電柱のそば

きっと誰かが朝一番ここに来て
小さなじょうろで水をあげている
晴れた暑い日も雨が降る肌寒い日も

「良い天気だね」

「ちょっと寒いね」

「これから暑くなるよ」

「きれいに咲いたね」

音無きやさしい声を
掛けてもらった花は
小さく大人しく晴れやかに咲く

夕焼け

夕焼け

良いこと悪いことそのどちらでもないこと
喜怒哀楽も全部を
落ちていく夕日に乗せる

空みたいに赤く焼いて
夜みたいに黒く灰になって
朝みたいに全部なかったことにして

昨日のない今日として明日を生きられたら

帰り道

帰り道

母の大きな背中に隠れた子供は
後ろに座って泣いている

きれいだよ、見てごらん

母の大きな背中に隠れた夕日を
横から顔を出して見上げる

きれいだね
そうだね、きれいだね

辛抱

辛抱

あの時はしんどくて辛くて苦しかった

と、いつかの幸せな自分が言っている

今、はその、あの時、なんだ

と、なんとか心の片隅で思っている

今、がその、あの時、になるまで

と、なんとか心の真ん中で思って頑張るよ

春の海

春の海

暖かい陽の下で
夢と現実を行ったり来たりしている

いつからか境目が分からなくなって
春の海にそっと沈んでいく

まだ冷たい海水に目が覚めて
必死に水面へ浮上する